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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
85/257

第85部 トチェフ村の収獲祭(りゃくだつさい)

 

 1243年11月9日 ポーランド・トチェフ


*)収獲祭りゃくだつさい


 今宵の宴会が始まった。オレグの倉庫の特設ステージでは、


「みんな~! この戦いは皆で戦った成果だよ~。今宵は存分に飲んで食べて下さ~い。私もこのトチェフがとても素晴らしい村だと良~く分かりました~!」


 あの綺麗な服を着て、エレナが祝辞を述べたから村中の人が集まり騒ぎ出す。


「放置プレイはあんまりだ~俺たちにも飯を食わせろ~。」


 港の二百五十人の捕虜が喚きだす。この声は隣のマルボルクにまで届いたという。この声を聞いてマルボルクでも宴会が開かれた。


「デーヴィッド、私とエルザと赤子は残ります。みんなで楽しんできて下さい。」

「エルザ、グラマリナさまを頼みますよ。」

「はい、外は寒いので私も遠慮いたします。」


 デーヴィッドは侍女らを連れてオレグの倉庫へと向かった。またデーヴィッドからオレグへと金貨が渡された。


「これはグラマリナさまからです。農民へ略奪の食糧を分けるようにと、伝言でございます。」

「おう、分かったよ。農民にはたくさん持って帰ってもらおうか。」

「オレグさん、そのう…………私もいいでしょうか?」

「もちろんさ! 親子水入らずでビールももらっていきなよ。」

「ごっぁんです!」


 オレグは略奪した食糧の三分の二は倉庫に仕舞った。残りは倉庫の前に並べている。オレグは別途肉や野菜を放出する。当然ビールも多数、酒樽ごと並べていたのだった。


「あいつらか? 顔も覚えていないぜ! 返すまでは絶食でいいだろう!」

「うん、うん、だね~!!」



*)オレグの日常ゆめ



 ようやくリリーが帰ってきた。


「オレグ兄さん、ただいま!」

「おう、リリーご苦労だったね。」

「うん……でもね、これ!……。」

「なんだい??」


 りりーがオレグに手渡した手紙があった。


「ブランデンブルク辺境伯の領首ドン・ヨハンⅠ世からの呼び出し?!!!」

「ぎゃーーーーー!!!!!!」


 驚くオレグだった。


「ごめんね! オレグ兄さん! ヨハンⅠ世って誰ですか?」

「うん、ブランデンブルクの前領主・アルブレヒトⅡ世の息子さ!」

「息子?」

「うん、このヨハンⅠ世とオットーⅢ世は兄弟なんだ。ヨハンⅠ世が兄貴だな!」

「ふ~ん、そうなんだ!」

「で! Ⅱ世はどこに居るの?」

「?……?」


 松明が多数焚かれてた会場では夜遅くまで宴会が続く。だが、オレグは最後まで塞ぎこんだままに終わってしまった。


「夜は冷えるな~。」


 オレグの夢は続くのだった。



 このようなオレグを見かねた*****は、


「ねぇ、ソフィア。貴女はオレグの事をどうしたいのですか?」

「オレグは私の大切な夫です。どのようにもこのようにも致しません。末永く生きてもらいたいのです。ただ、それだけですわ!」

「でも、それで幸せになれますか?」

「はい当然です。ですが、私たちは残りの人生は十年も残っておりません。」


「へっ!!」

「あっ! 別に死に急いでいる訳ではありませんわ。私たちは輪廻転生を繰り返す運命にあるのです。」

「そんな~、」

「……事があるのですよ。だから私には強い力が有りますのよ。」


 *****の言葉に続けたソフィア。 


「おいソフィア。お前は誰と話しているんだい?」


 目が覚めたオレグだった。



 オレグはアンナとカレーニナを呼んだ。


「お前たちに頼みがあるんだが、聴いてくれるかい。」

「はい、ご主人さま。何をでしょうか。長いお話はお断りです、聞くだけですよ。」

「聴かせる講義ではないよ。だから聞いてくれ。」

「実はブランデンブルク辺境伯の領首・ヨハンⅠ世からの呼び出しを受けているんだ。これを無視したらどうなるかな。」


「そうですわね、ここから西へ百kの所がブランデンブルクとの国境になるのはご存じでしょうか。」

「あぁ良く知っているよ。辺境伯の領首ドン・ヨハンⅠ世は俺をどうしたいのだろうか、考えが浮かばないのだよ。」

「あらあら、随分と気弱になられていますね。ドンからの呼び出しだけでは、事の重大性は推し量られません。二度もオレグさまにコケにされましたドンです、仕返しか、召し上げに決まっていますわ。」


「宣戦布告の手紙を貰った方がすっきりするよ。これではヘビの生殺しだぜ。身動きが出来ないよ。」

教祖ソフィア様には、相談されましたか?」

「教祖とは誰だい。」

「あらあらオレグさま、イヤですわ。教祖ソフィアさまは教祖ソフィアさまですわ。」


「おいアンナとカレーニナ。お前たちは誰と話しているんだい?」


 オレグは目が覚めたのだった。


「今日の俺はどうかしちまっているぜ。なんでこんな夢を見るんだ。」


 まだまだオレグの夢は続くのだった。



 夢見が悪くてすっかり痩せたオレグ。今日も難問が控えている。


「俺が夢見たブドウ畑とワインの夢は、何処にいっちまったんだい。」


 オレグのワクス製造は順調だったが、それまでだった。ビール工場の建設ご思うように進まないのだ。


「ご主人様、きっとオレグさまの知識が欠けている所為ですわ。ドイツへ勉学に行かれてはいかがでしょうか。」


「ブランデンブルクへ行けというのか。俺はまだ死にたくはないぞ。」

「でも、先が見えてきましたわ!」

「お前は誰だ。どこに居る。」


 オレグは目が覚めたのだった。



 ドイツ騎士団の襲撃から一週間が過ぎたころ。


「エルザ。どうしたんだい、しかも子供まで連れてきてさ!」


 エルザはお散歩もとても大事ですわよ、と言いながら最後に、


「オレグさま、グラマリナさまがお呼びです。」


「えっ! なんでだ?」


 作者エルザは一昨日、ここで中断してグラマリナの用件を忘れてしまった。


「すみません、聞いてはいましたが、ここに来る途中で忘れました! あ、あは、あははは~!!!」

「歳は取りたくね~な~!!」  

「それって、私の事かしら。」

「いいや違うぜ。向こうの世界の住人さ!」

「そうですの。……あ! 思い出しましたわ!」

「ほう、それで用件とは?」

「はい、オレグさまがもう、一週間も館に来られませんので、心配しております。そろそろ館に顔を見せに来て頂けないでしょうか。」


「なんだ、??つい先日も館にきただろう?」

「いいえ、オレグさまは本当に一週間もいらしてありません。」

「えぇ!!、本当か???」

「はい、そうですよ。」


「俺はまた眠っているのか?」



 1243年11月15日 ポーランド・トチェフ



*)オレグの日常が戻る

 

「よう兄ちゃん、いつになったら船を出すんだい。」

「ボブ! 何の事だい。俺はすぐに船を出すように言ってたはずだぞ?」

「武具類は全部残らず積んでいるがよ。オレグの指示待ちなんだぜ? 覚えていないのかい。また兄ちゃんは魔女に夢を食われていたんだな。」

「あぁ、どうもそうらしい。エルザにも言われたよ。」


「ボブ、俺の休養がてらに乗せてくれないか。」

「綺麗な姉ちゃんも一緒だろうな。今回は武具を積んでグダニスクを経由するんだ。どこで狙われて襲撃されるか分かんないだろう。」

「そうだな。リリーとソフィアの二人も連れていくさ。」


 デーヴィッドから相談を受ける。


「オレグさん、橋はどうするかね。」

「まだ襲撃が終わったとは思えないから、あの臨時の橋を暫く使おうか。」

「あいよ、そうするか。別に不自由はないしさ。」


「それと、水路の北側の農地の損害は、グラマリナさまに見てもらう事は出来るかな。俺は金不足でもう手出しができないよ。」

「そうか、それでは頼んでみる。」


「早く捕虜も金貨に換えたいよ。……」



「イテ!……。」


 オレグの頭に小石が投げつけられた。怒って語気が荒くなる。


「誰だい! 川に沈めるぞ!」

「あっしです。旦那は商人でしょう?」

「あぁそうだが、お前らは売られるんだ。文句は聞かないよ。」

「文句ではありません。ドイツ騎士団には戻りたくありません。俺たちを武具と一緒にブランデンブルクのヨハンⅠ世さまに売って頂けませんでしょうか。」


「いや、ヨハンⅠ世には売るつもりはないよ。お前らは戦争の費用に充てるから高く売る予定だ。もっとも足を怪我しているから歩けるようになれば、連れて移動するよ。それまで養生させる。」


「いいのですかい? 先延ばししてましたら金が掛かりますぜ!」

「その飯の代金も請求するさ。でも、なんでヨハンⅠ世なんだい?」

「オットーⅢ世のアホと違って、ヨハンⅠ世は博識と損得勘定に長けていますよ。だから俺らを高く買ってくれますぜ。」


「オットーⅢ世も居るのだろう? あの男とは領地でドンパイをやって怒らせたからさ、行きたくはないのだよ。この戦争もオットーⅢ世の指示だろう? ならば、ここは避けるべきだろう。」


「旦那、あっしは先ほどなんと言いました? 博識と損得勘定に長けていると言いましたよ。だから、ヨハンⅠ世が得になると考えたら、首を縦に振りますよ。ヨハンⅠ世は東へ侵攻したいのですよ。北東ルーシですぜ。ここはポーランドの侵攻の阻止のためにも、協定を結んだ方がお得でしょう?」


 オレグは深く考え込んだ。オットーⅢ世とドイツ騎士団はポーランドを自分の領地にしたがっているのだ。遅くとも二年以内には再度の攻撃を受けるのは間違いないのだ。トチェフもマルボルグ、イワバをも守れるのならば、御の字だろう。


「リリー、こいつを出してくれないか。」

「そういう事は守番に言ってください。私では問題が生じますから。」

「あぁそうだな。だったら俺が出してやろう。」

「へい、お願いします。」

「ボブ、縄をくれないか。こいつの身体を縛るからさ。」


「おう兄ちゃん、亀甲縛りなら任せろや!」

「えっ! そんな。旦那それはあんまりです。」

「きっと楽しいぜ! 一度体験してみろ!」

「そんな~旦那それはあんまりです。」


「なぁボブ。今日の船出は中止にする。しばらく待機してくれないか。俺はこいつの意見を考えてみるよ。」

(先日見た夢は、正夢か?)オレグは心で呟きながら港を去っていく。


「旦那! あっしをお忘れでしょう~~~。」


 縛られたドイツ騎士団の兵士が喚いていた。


「お前はもう、どうでもいい。また檻に戻っていろ!」


 と言うオレグだった。遠くから鞭で打たれる悲鳴が~~は、聞こえない。




*)領主会談


 オレグは、イワバのピアスタと、マルボルクの領主代行のエルブロ及び長男のユゼフ。ルシンダも交えてエリアス・グラマリナ夫妻の館で会合を開く。


 命題は、ドイツ騎士団の捕虜と武具の販売先についてである。他には、リリーとソフィア。それにデーヴィッドも末席に加えた。


「皆様、遠い所からのお集まりを感謝いたします。本来ならばこの私が訪問すべきなのでしょうが、身重ですのでお許しください。」


「いいのですのよグラマリナ。お腹の赤ちゃんにもしもの事がありましたら大変ですもの。」

「ありがとうございます。ピアスタさま。」

「グラマリナ、このワシも一向に構わぬぞ!」

「ありがとう、お父様。」


 等々の挨拶が済んで本題に入る。


「ではオレグ、皆様に今日の議題を説明してください。」

「はい皆様には、かくかくしかじかでお話しをいたしまして、ここにお集まりをして頂いております。……もしや、ご存じない? とは思いませんが?」


「オレグ、ここは読者の皆様に説明するところですよ?」


「はい申し訳ありません。港に収容している捕虜からの提案ですが、かの者が申すには、ブランデンブルクのオットーⅢ世はこのポーランドもドイツ騎士団を用いて侵攻する予定でございます。」


「オレグ殿。マルボルクも当然に? でしょうか。」

「はい、マルボルクはドイツ騎士団の本拠地にしたいらしいのです。」

「ではマルボルクは……。」

「はい、残念ながらあと二十年以内には城塞が築かれて、大きな都市へと変貌するかと存じます。」


「ではオレグ。イワバはどうなのじゃ。」

「はいピアスタさま、イワバは逆らわなければ被害は無いと思います。それはこのトチェフと同じでしょう。」


「それを拒否したらならばどうなる。」

「侵攻されて全滅でしょう。私としては自治権を与えずにドイツ騎士団に従う方が賢明と思います。」


「オレグ、そのためにはトチェフをどうしたらいいのじゃ。」

「えぇ、トチェフばかりではありません。ドイツ騎士団が手出しを出来ない産業を興すことでしょうか。我々が金の成る木を掴んでおればいいのです。」


「その具体的な産業とは?」

「はい、トチェフは織物の街として大きな産業にまで発展させます。イワバは、ワイン工場として栄えさせればどうでしょう。マルボルクはドイツ騎士団の本拠地になりますので、それだけで人口が増えていきます。商業都市への変貌が期待できます。できれば煉瓦産業を興しておけば良いでしょう。」


「イワバは(1305年につくられた街です)には、綺麗な湖や森がございます。観光産業に向いていますでしょう。」

「分かりました。イワバには産業が無いのですね。どうせ……ど田舎ですよ!」

「興せばよろしいでしょう。ワインの工場を造りましょう!!」

「オレグ、造ってくれるか!」

「イヤです。このトチェフを栄えさせるので精いっぱいでございます。」

「そんな~!!」


 ピアスタはがっかりとしてうなだれる。


 1243年4月5日、アレクサンドル・ネフスキーが率いるチュド湖上の戦いでドイツ騎士団は破れていた。暫くはドイツ騎士団も金と兵士の補充に力を注ぐ必要がある。その手っ取り早い方法とは、弱小の領主を攻め落とし略奪をするのだ。最近富を築きだしたトチェフは垂涎の的に違いなかった。



「上記のように、ドイツ騎士団の侵攻を阻止しましたら私たちは全滅いたしますので、穏便に済むように考える必要がございます。」


「では、どのようにいたしますか?」

「はい、ドイツ騎士団には数回にわたって私たちが勝利しておりますから、協議の申し込は出来ません。ですので騎士団の上部組織のブランデンブルクの、ヨハンⅠ世に協議の申し込みを致します。」


「では、あのオットーⅢ世が居ますが、出来るのでしょうか?」

「オットーⅢ世は奇人変人でございますが、兄のヨハンⅠ世は良識に長けた商人の考えを持っております。ですのでヨハンⅠ世に手土産を持参して会談の申し込みをいたします。」



「出来ますか?」

「グラマリナさま、大きく損をしましが将来に受ける戦争の損害に比べましたら微々たるものでございましょう。」

「またヨハンⅠ世はルーシを侵攻する予定でございますから、兵隊と武具が多数在れば喜びましょう。」


「オレグ。オレグは戦争の道具を売るのは嫌ではなかったの?」

「あぁソフィア。その通りだ。だが、売るのではなく安全を買うのだよ。武具はその支払う代価さ!」

「お兄さま、すてきですわ。逆転の発想かしら!!」

「リリー言い換えれば……武具を売って安全を買うのだよ。俺たちには大した損害にはならないのさ。」


「でも、オットーⅢ世やヨハンⅠ世は大きく得をする。」

「エリアスさま、さようでございます。誰かが損をしましたならば、誰かが得をするのがこの世の中でございます。」

「癪にサワルだろう、オレグは……。」

「はい、癇癪かんしゃくからくを引けば、なんでもございません??」

「残るは、感謝か! アハハハ……。」


 一同はエリアスが笑うのを初めて見たのだ。


「まぁ、エリアス。私も初めて見ましたわ!! もう驚きです。」


「みなさま、これでよろしいでしょうか。ヨハンⅠ世の性格を信じて弱者同盟サミットの申し込みを致したいと思います。」

「意義な~し!!」x8



 ブランデンブルク辺境伯については領主の名前くらいしか解らない。ブランデンブルク辺境伯+ドイツ騎士団=ドイツ建国の元。


「エリアスさま、この私に捕虜の代価をお願いします。」

「ほえっ!!」

「オレグ、この私にも無理ですわ。許してください。」

「オレグ、私が払ってあげる。その代わりにワイン工場を建てなさい!」

「ピアスタさま、ご辞退いたします。」

「まぁそんな~!」


 1170年頃より1370年まで、ブランデンブルク辺境伯領の領主の名前

しか分かりません。戦争をしているのですが、対敵国が不明です。大きい国に

も関わらずです。一つの謎めいた国だったのかも知れません。ね!

ヨハン1世とオットー3世は、アルブレヒト2世の息子で、兄弟で領主をしていました。

兄弟の統治は、1220年~1267年と、長く続きます。仲は良かったのでしょうか?

博識と猟奇?だったりしましたら、面白いでしょうか。

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