第83部 ドイツ騎士団の襲撃
1243年11月5日 ポーランド・トチェフ
*)決戦!
オレグの夜の作戦は潰れた。酒に薬を入れておけば良かったのだが。
その日の夜、
「シビル、夢食いの魔法の準備はいいか。」
「もう大丈夫よ。こちらには援護してくれる魔女も居るのだから。」
「リリーは境界の魔法を頼むな。ゲートもだけれども。」
「OKよ、お兄さん!」
「?…ソフィアの服は、要るかな。」
「うん、境界に多数収納しておいたわ。」
「シビル、篝火が小さくなったから、夢食いの魔法で眠らせてくれ。」
「OKよ、オレグ。」
「?……お前もそう返事するのか。」
「そうね、もう少し待って頂戴。そうね、後一時間は必要かしら。」
「そんなにか?」
「あんたたち、しっかり魔法を私に送りなさい。」
「Tak, ma'am!」x21(Yes, ma'am)
「ではリリー、ゲートをお願い!」
オレグを筆頭にサロー、ヤン。リリーとソフィアにシビル。ソワレは初めての参加になる。大人数では奇襲にならない。
「ゲート!」
七人が水路を越えて敵陣地に侵入した。
「先に馬からゲートに送り込む。」
リリーは予定通りに大きいゲートを広げて待っている。八十頭の馬だ。ゲートには素早く連れて行けない。手綱を解いて二頭ずつ連れていく。
「オレグさん、兵隊の数が少ないよ。これは失敗になるわ。」
「ソワレさん、それは本当か。」
「ええ、ここには二百五十人は居なくてはならないの。だから少ないわ。」
「みんな、ゲートに飛び込め!!!」
「わ~~~~~~。」
歩兵が少し離れた所から押し寄せてきた。農地では順次篝火が灯っていく。
「してやられたか、チクショウ! 逃げるぞ!!!」
「ソフィア~居るか~。ヤン、サロー!」
「おうでござる。」
「オレグさん、失敗ですか~、」
「リリー、すぐにゲートを閉じて逃げるぞ~」
矢が多数飛んでくるも命中はしなかった。馬の尻に当たり歩兵が負傷したくらいだ。馬の放牧に使う農場にゲートが繋がっている。自陣地へ戻るのに少しの時間がかかった。
「この水路は越える事が出来ないだろう。決戦は明日に持ち越しだ。みんなは休んでくれないか。」
「シビル、失敗の責任だ。俺と寝ずの番だ。よろしくな。」
「チェ、俺の所為じゃないよ。向こうにも魔女が居るんだ。これはオレグの失敗だぜ。」
「これはすまない。魔女の存在を考えなかったよ。オットーⅢ世にやられたな。」
「おっとっとー! それは残念。」
翌朝、オレグは非難の嵐に遭った。
「あんたはバカだ!」x100
「やかましい! 俺が悪かったよ。」
グラマリナは、
「作者が悪いのよ。また、三分前に思い付きで作戦が失敗したのね。貴方のせいじゃありませんわ。でも、絶対防衛は成し終えなさい。」
「はい、グラマリナさま。また、エレナをお借りします。」
水路を越えての攻撃は無いようだった。水路に架かる橋を一点突破するつもりらしい。あの兵隊の数からしたら田舎の農民は確かに一堪りもないのだから。
「きっと敵は俺らを侮っているに違いない。きっと隙が出来るはずだ。」
「だったら、いいね!」
「今日も無事に凌ぎきるぞ~~~!」
「お~!~!~!~!!」
「エレナさんは空から歩兵の状況を教えてくれ、この正面から敵兵は移動はしないと思うが、一応後方の南方面も確認してくれないか。」
「はい、オレグさま。」
「オレグ、私は何をしようか。」
「ソフィアには、魔女軍団の指揮を頼む。すぐにも爆弾石の投下をさせてくれ。」
「分かったわオレグ。任せて!」
「デーヴィッド~デーヴィッドは居るか!」
大声でデーヴィッドを呼んで探す。
「オレグさん、なんでしょうか。」
「ああ良かった見つかったぜ。……馬車で石爆弾をここに運ばせてくれ。他には俺らに朝飯の配達を頼む。腹ペコで動けないよ。」
「はい、了解した。」
「さ~第二戦だ。みんな踏ん張ってくれ!!」
いよいよ本戦になった。オレグは松の大木で組まれた櫓・障害物の確認に行く。三重に組まれた大木だ、簡単には落ちないだろうと思った。
「オレグさん、この樹は松ですよ。」
「あぁ、知っている。それがどうした。」
「はい、松は松脂が多いので一度火が着きましたら、もう消せませんですぜ。」
「そうか? だったらそういう事は早く言え。それで何か対策はあるのか!!」
「いいえ、水を掛けて消火させるくらいしか……、」
この農民の言った事は事実となった。すぐにドイツ騎士団は火矢を放つ。当初はしょぼい火の勢いだったから、消火もできた。だが、消火する農民へ多数の矢が飛んできた。
「これでは消火が出来ないな。」
正面から飛んでくる矢の対策しかしていない。高く上空に放たれた矢は放物線を描いて間違いなく農民まで届くのだった。
「オレグ、俺の出番かい?」
「いや、シビルには夜の仕事で頑張ってもらうよ。」
「オレグ、あんたはバカだね。戦争は出来ないのかい。」
「おう、そうだ。戦争はど素人だとも。何か奇策があるの……?」
この後、魔女軍団による投石が始まった。
「おう、やってくれるじゃないか。あれだけ高く飛べれば矢も当たるまい。」
「数が少ないだろう?」
魔女の投石はすぐに終わった。火矢と矢が次々と飛んでくる。
「あ~本当だ。焼松に水だな。どうすんだいシビルさん。」
「簡単さ、俺の風魔法で矢を全部吹き飛ばしてやるよ。」
「おお!! それはいい! 早くやってくれ。」
「だがよ、もって二時間だぜ。敵さんが散発にしてくれば先にへたるのはこの俺だからな。」
「先に消火が出来る間は頑張ってくれないか。」
「あいよ任せな!……それで、」
「あぁビールだな。焼き肉付で持ってくるよ。たこ焼きもな!!?」
「それなら半日は持ちこたえてみせるさ!」
「デーヴィッド、すまぬがシビルには魔力の補給を頼む。」
「いいですよ、ビールと焼き肉ですね。鳥がいいのでしょう?」
「胸肉のでかいのな!」
「シビルさんは十分にでかいでしよ!」
「フン! もっと大きくさせたいのさ。文句あっか!」
「……いいえ、ございません。」
「オレグさん、私にも食事を下さい。もう飛べません。」
「エレナさんは何が欲しいですか? シビルさんと同じく胸肉とか?!」
「はいハーブ鳥の胸肉にしてください。カロリー控えめの健康食です。ただし塩なしにしてください。」
「はい承知しました。すぐにお持ちいたします。」
「すまね~な~デーヴィッドさん。昼も頼んだよ。」
「はい、承知いたしました。」
ここで戦況に変化が起きた。シビルにより途中に落ちた火矢が橋の梁に燃え移ってしまったのだ。これに慌てたのがドイツ騎士団の方だった。橋が落ちたら侵攻が難しくなる。南には回りたくないらしいのだ。
ドイツ騎士団の副団長に連絡が飛ぶ。
「副団長、このまま火矢で攻撃しましたら木造の橋が燃えて落ちてしまいます。いかがいたしますか。」
「橋が無くなるのは困るな。火矢は止めて弓矢だけで攻撃しろ。そして貴奴らのバリケードを奪ってしまえ。」
「はい、そういたします。」
「くそ~あいつらは火矢を止めて弓矢での攻撃に転じたか。これでは櫓を落とされるのも時間の問題か。」
「オレグ、あの櫓の手前にまた松の大木を立てたらどうかしら。それ位ならどうにか魔女軍団にも出来るでしょう。」
「そして、どうするの。」
「火を点けます。」
「バリケードの間に誘い込んで、点火~~~~! です。」
「そう……だな。それは……いいかもしれない。」
「そしてゲートを広げて、グダニスクの海に落としましょう。」
「あぁ、そうしたいが……!」
「どうしたの? オレグ。」
「そうしたら、リリーの魔法の威力がばれてしまうよ。」
「でも仕方がないわ、ここはゲートで切り抜けるしかないわよ。」
「いや、リリーの魔法がばれたら……そうしたらリリーが狙われて、今後も継続してこの村が襲われる事になるよ。さすがにそれはまずいだろう!」
「そう……だわね。敵に手の内を見せたら、ホント! 大変になるわね。」
「オレグさん、ここは仕方がありません。橋を落としましょう!!」
「水路の橋に松明を投げますか!」
「そうですね、橋はまた造ればよろしいでしょう。松の大木が八本もあればいいのですから。」
「では、橋に火を点けます。」
松のバリケードを少し壊して橋の上に投げて点火された。すぐに火勢は強くなった。ドイツ騎士団には消火が出来ない。
「魔女軍団には橋の上に石を落とせるよう、指示を送ってくれ。」
「オレグさん、鳥に変身して私が連絡してきます。」
「おう、よろしくな!」
「はい、」
「デーヴィッド、男たちに松のバリケードの補修をさせてくれないか。俺は西の陣地を視察に行ってくる。」
「オレグさん、水路の道は避けてください。狙撃されます。」
「あぁ? あ、そうだな。うっかりしていたよ、ありがとう。」
寝不足でふらつくオレグの足取り。頭もふらついているのだろう、本当に水路横の道を歩きかける寸前だった。
「待って下さいオレグ兄さん。私がゲートを繋ぎますから。」
「?……! リリー、そうしてくれ。俺も疲れて動けないよ。」
「うそだ~今歩きかけたくせに。」
グダニスクから通じる唯一の橋が燃えて水路に落ちてしまう。侵攻の道を断たれたドイツ騎士団は、見張りの騎士二人と歩兵の十人を残してキャンプ地に退散した。
デーヴィッドはオレグに休息を取るように勧めに行った。
*)休戦
ドイツ騎士団は攻める道が無くなり、協議でもしているのかその後の侵攻が止まったままになる。トチェフ村でも武器や兵隊も居ないから、こちらからは攻めようにも方法が無かった。唯一は魔女による石爆弾だけだ。
リリーの魔法は大地の魔法がある。ゲートは騎士団にばれたら困るので封印する事にする。
「アンナとカレーニナを呼んでくれ。相談がある。」
「オレグ兄さん、召喚するね。」
「我、アンナとカレーニナを召喚する。オレグの足元に来たれ!」
「わっ! つまみ食いがばれたわ!!」
「痛っ!」
「おう、すまないな。飯の最中だったか。」
食糧庫から飛んできた二人は、口に肉を頬張り左手には黒パンを持っていた。
「いいえお呼びでしょうか、ご主人さま。」
「お前たちは大地の魔法が使えるよな。ドイツ騎士団の後方にどでかい亀裂を造ってくれないだろうか。」
「大きさは、いかほどでしょうか。」
「水路にしたいんだ。幅は十mでいいよ。長さは五百mくらいか。騎士団を囲んで一方は橋のたもとまで繋いでくれないか。」
「はい、でも大きすぎますので魔女の総力で当たる必要がございます。」
「そうだろうな。リリーの力添えも必要か?」
「はい、出来ればお願いします。」
「バレたら嫌だだから、リリーは魔女の衣装を着て紛れてくれ。」
「うん分かったわ。でも一日では終わらないわ、二日は掛かるかしら。」
「そうか、一度に出来ないならば中止するよ。」
オレグはまた考え込んだ。寝不足の頭で考えるので良い案が出てこない。ここは大きい魔法は出したくないのだ。ルシンダの魔法も使いたくはない。
「魔女をどうにかできないかな。あの六人が居なくなればまた夢魔法が使えるよね。」
シビルが優しい口調で発言した。
「確かにそうだが、……ではどうやって魔女を殺すんだい。」
「夜中に石を落とすとか? 出来ないかな。出来たら一発よね!」
「夜では当りもしないだろう。宝くじと同じだよ。」
「宝くじとはどういう意味かしら。」
「??、俺はどうしてそのような事を言ったのだろう。俺にも解らないよ。」
「昼でも当たらないから却下だ。」
酪農のレオンが提案を出した。
「麦わらを燃やして煙を使ってあいつ等を追い出しましょう。夕方からは南風になります。眠らせないようにできませんか。」
「バッカ~ン作戦か?」
「麦稈でしょうが、」
「また、麦わらには何かの毒が有るのでしょう、とにかく煙たくてむせてしまいますから、効果は絶大ですぜ!」
「そうだな。?……シビルに風で送ればいいだろう。」
「それと、旦那は怒るかも知れませんが、バイソンを嗾けてはどうです? でかい牛だから尻尾に火を点ければ全速力で駆け抜けますぜ?」
「おう、それがいいぞ。次の襲撃の時には使うとしようか。」
「旦那、夜中に橋を掛けて夜の襲撃ではどうでしょう。寝ている兵の腹を踏み潰すのです。バイソンは二k先できっと集団で屯しますからまた捕まえましょうや!」
「だったら魔女の寝屋を通るように仕向けましょうや。」
協議の結果、藁を燃やして煙を送る。ただ、キャンプ地には煙を送らない。キャンプ地にはでかいバイソンを送る事に決まった。
「そしてこの動乱に紛れ込んで、馬を掻っ攫うはどうだ。」
「そうですね、兵隊と同じ格好をすればよろしいでしょうか。」
オレグは酪農のレオンの意見を採用した。
「今晩にでも決行したいが準備が間に合わない。明日に再度協議しながら場所を決めようか。奇襲は明日の夜に行う。」




