第49部 エルブロンクの魔女、ルーシー
1242年12月18日 ポーランド・エルブロンク
*)エルブロンクの魔女、ルーシー
エリアスとグラマリナ。ソフィアとリリー。どうも偽ルーシーに捕まっているようだった。リリーからは通信が無い、オレグがリリーに話し掛けても返事が無かったのだ。もう半年になった。
あの偽ルーシーが四人を監禁した意味が不明だった。
「ルーシーさま、お客様のおもてなしは、いかがいたしましょうか。」
「面無し! にいたします。」
「はい、またですか・・・・・。」
「グラマリナに変装、いいえ、化けてみます。……あの二人をからかうのです、楽しみですわ~。」
「はぁ~、さようですかー。」
「では、今日もお城には結界を張っておきます。」
「えぇ、そうして頂戴。」
「あら、お父様! いいえ、おじ様。」
「おう、グラマリナさま。娘のルーシーを見ませんでしたか?」
「いいえ、今日はまだお見かけいたしておりません。」
「そうか、ルーシーはまた外に出たのだな!」
「おじ様、伝言がございましたら、ルーシーさまにお届けいたします。」
「あ、いや。ワシも城下に視察に出るよ。ありがとう。」
「お気をつけて! ステファンさま。」
ステファンとは、ここの領主の名前だ。二人の娘の名はルーシーとアスタだが、正式にはルシンダとピアスタ、前の物語では、ピアスタのピ、が抜けていました。ルーシーはルシンダの愛称です。
「さ、ソフィア、リリーの二人を連れてきてちょうだいな。」
「はい、お嬢さま。」
「ジイ、名前が違います。グラマリナさまです。」
「・・・・・。」
グラマリナは城のテラスで待つという。ジイは地下牢の二人を連れてくる。テラスには二つのテーブルとイスが四脚置いてある。
一人のメイドがお茶を給仕に来ていた。
「御機嫌よう。お気分はいかがですか?」
「最悪ですわルーシー。もう解放して頂けないでしょうか。」
「いいぇ、お見えになってまだ、十日ですわ。でもオレグには帰さない宣言をいたしました。」
「あら、そう。私の夫を騙しましたの?」
「いいぇ、あなたとHしたいと言われましたので、私には夫が居ますと言ったまでです。」
「リリー、この女を北極まで飛ばしなさい。」
「お姉さま、無理を言わないでください。私は北極とか知りませんわ。」
「ならば、トチェフ村まで送りなさい。」
「ええ、喜んで~!」
「わ! ま、ま、待つのです。あそこにはルシンダが居ますので行けません。そのような事をなされましたら、エリアスとグラマリナがこの世から消えてしまいますわよ。」
「ええ、もう迷惑ですから、ここに置いていきます。」
「そうですか、ジイ、エリアスを呼んで頂戴。」
「はい、お嬢さま。すぐにお連れいたします。」
ジイは、グラマリナに化けたルーシーに頭を下げて退出した。少ししてエリアスがテラスに姿を見せた。
「おう、グラマリナ。待たせたな。」
「いいぇ、あなた。いつも私一人で遊んでいて、申し訳ありませんわ。」
「いいよ、この城は久しぶりで懐かしいのだろう?」
「それはもう。小さい時に遊んだ所ですから、もう浮き浮きしております。」
「ソフィアさんとリリーさん。御機嫌よう。」
「えぇ、そうですわね……。」
「グラマリナは今日はどこへ行くんだい。また、城外とか行くのかな。」
「いいえ、今日はここでおしゃべりをいたします。」
「そうなのか?」
エリアスの様子は変わらずに可怪しいのだった。エリアスの夢と記憶がこの悪魔?=魔女に全部食われていた。代わりにはどのような記憶が刷り込まれているかが分からない。これと同じようにグラマリナの夢と記憶が食われていると思っている二人だ。
ルーシーにはいつも、エリアスとグラマリナは、ばらばらにされている。この二人が一緒なら、リリーのゲートを使って逃げるのだが……。いつもこのように考えているソフィアだった。
「グラマリナさま、そろそろルーシーさまを呼んで頂けませんでしょうか? 今日はまだお会いしておりませんもの。お会いしてお茶を頂きたいですわ。」
「残念ですルーシーさまは、お父様と城外の視察に出ておられましてよ。」
「リリー? そうなの?」
「いいえ、お姉さま。違いますわよ。」
「エリアスさまは、先ほどお出かけになられるルーシーさまに挨拶をされましたわよね? 違いました?」
「ええ、確かにお出かけになられるルーシーさまにお声を掛けました。」
「そう……でしたか。」
エリアスはこの偽ルーシーの言いなりのようだ。私たちの言葉が通じていないと、判断したリリーは、
「お姉さま。エリアスさまにはこの状況がお分かりになりません。きっと頭をぶんなぐっも笑いを返すだけだと思います。」
「えぇ、そうでしょうか。一度試されますか? それとも……、こん棒で叩かれますか?」
「いいでしょう。平手打ちで試してみます。」
「いいのですか? グラマリナさまに報告されましてよ!」
「あはは~そうですか……。」
「もう、二人の夢と記憶を食い潰してしまったとか?」
「とてもおいしゅうございました。オレグさまの夢もとても…………キャーッ。」
ソフィアが怒ってしまう。まさか、夫のオレグまでも食い物にしていたとは、思ってもいなかった。
「リリー、いいからこいつをトチェフ村へ送るわ。ゲートを開きなさい。」
「OKよ、お姉さま。」
「ウオ~~~~~オゥオ~~~~ン。」
「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」
「ウオ~~~~~オゥオ~~~~ン。」
ソフィアは怒りで我を忘れた。この半年間の苦痛にも耐えがたい怒りもあった。そして黒い耳が二つ出る。尾っぽも黒くしかもとても長くなった。
顔は大きく割けた口、目は大きくて細く長くなっていた。手足はルーシーを捕まえるためか、元の人間のままだった。
「よくも、よくも、私のオレグにも……よくも……このう~。」
「いや、いや、助けて。お願い、助けて!」
「お姉さま、準備は良いですよ。」
ジイがルーシーを助けようと間に割って入るが、ソフィアはリリーのゲートへ蹴とばした。
「リリー! そいつは、偽ルーシーの片割れよ、ゲートに投げ込んで!」
「OKよ~、」
「ポコ~ン!……ギャー。」
「放り込んだよ。」
「さ、身ぐるみ剥いでやるから、冬の空へ飛んでいきなさい。」
「いや、止めて。服を取らないで、お願い。イヤー!・・ギャ・ダぎゃー、」
「そうれ~!!!」
「あれ~~~~。」
偽ルーシーとジイはトチェフ村の檻の中へ飛ばされた。寒い空を飛んだのだ、凍っているかもしれない。
「リリーお願い。私とエリアスをトチェフへ運んで!」
「ええ。お気をつけ・・・-、ダメ~、耳と口、しっぽも直して!」
「あ?え?そ?・・だわね。リリーありがとう。」
「うん、二人をロープで繋いでね。」
「リリー、グラマリナは地下牢よ。探して跳んできてね~~~。」
1242年12月18日 ポーランド・トチェフ
ルーシーとジイはオレグが作った檻に送られていた。初めてのゲートを潜り気を失っている。ソフィアは素早く牛さん用のロープで二人を縛った。
「お待たせーお姉さま。エリアスとグラマリナさまよ。無事みたい。」
「よくやりました。リリー、私たち四人を檻から出して頂戴。」
「うん、すぐに出すよ。」
境界の魔法で一人がひとりを引きずって黒い穴に入り、そして檻から出たのだ。
「この偽ルーシーはどうする?」
「このままでは死ぬかしら。そうね、そうだわ、家に運びましょうか。」
「お姉さまは、オレグが心配なのよね!」
「なにが、あんな奴。探しにも、助けにも来なかったわ!・・プイ!」
「うふふ、お姉さま。顔はとても心配している顔ですわ。先に領主夫妻と一緒に家に行ってくださいな。そして大事なオレグを探してきてね!」
「うふふふ・・・、えぇ、そういたしますわ。キャー、ダー……。」
「可愛いお姉さまだこと。それっ! 奥様!……それっ! 旦那様!……と。」
「そして、ボカッ!……それっ!ドカッ!……飛んでいけ~。」
「あぁ、そうだ。私は遅れて行かねばね! お・ね・え・さ・ま…………。」
「ボブ~奥様~……なんだ留守か。見られなくて良かったわ。見られたら殴って記憶障害にするところだったもの!」
さらりと怖いことを言うリリーだ。リリーもまだ怒っている。
「ふ~ん、この檻はバイソン用なのね。丈夫なロープがあるもの。この半分は~うん、馬用だね。今度たくさん捕まえるからね。」
「あ! 水車小屋に子供が……見てはいないかしら?」
リリーは中の子供の三人に注意を払って近づいた。ドアをゆっくりと開く。
「あなたたちは、どこの子かしら。」
「??……?、ここに来たんだ。お姉ちゃんはどうしたの?」
「うん今ね、領主さまと帰って来たところなの。ライ麦の製粉のお手伝いね。」
「そうなんだ。今日はこれを搗かないとパンが食べられないんだ!」
「そうか、そっか。寒いからね!」
「うん。」
「へ~ここにオレグ希望の移民が来たんだ。良かった良かった。」
*)新しい入植者 二次の五十四人
リリーは暫く歩いたら長屋から多数の煙が上るのが見えた。リリーは立ち上る煙の数を数える。
「一,二,三、……十一軒かな。そうか農民がたくさん増えたんだ……。」
「お嬢さん! ここはトチェフという村でしょうか。」
たくさんの人が道路横にうずくまっていた。中の一人が出てきてリリーに声を掛けたのだ。リリーは驚いた。久しぶりにトチェフ村に帰ってきたから、懐かしさそ所為でつい気が緩んで気づけなかった。
「わ! あ、あ、あなたたちは……移住希望の人たちかしら?」
「ええ、そうです。ここまで来たのですが、まだ誰にも会いませんでした。あの家を見ていたのですが、なんか気後れしてしまいました。」
「え、えぇ。子供さんが凍えています。さ、早くまりましょう。」
「本当に歓迎して頂けるのでしょうか……。」
男は不安でいっぱいだった。リリーが声を出して誘うが体が動かなかった。
「ええ、もちろんですわ。あの家に上る煙も、あなたたちと同じ移民の方の家ですのよ。行ってすぐに火をおこしましょうね!」ニコッ?
「お~いみんな~、このお嬢様についていくぞ~」
「さ、お出でくださいな。」
ロシアのプスコフから十家族の三十六人。独身が十六人で身寄りのない子供が二人の五十四人が流れてきたのだった。
「あなたたち、寒くてすみませんが、ここでしばらくお待ちください。すぐに呼んでまいります。」
リリーはすぐにオレグを探しに家に行くのだった。
オレグは昨日、倒れてそのまま今日も寝込んでいた。ソフィアはそんなオレグの頭を懐かしそうに撫でていた。オレグは偽ルーシーの魔法が切れた影響か、今朝からは目覚めていない。ソフィアは幾分か心配したようで、涙の跡が残っていた。偽ルーシーとジイは拘束されたままであった。暖炉にはようやく火が燃え出したような感じで弱々しかった。
「お姉さま? ……オレグお兄様は大丈夫ですの?」
「ええ眠っているだけですわ。今、村人にデーモンとデビルを呼びに行かせています。もうすぐ着くでしょう。」
領主の夫妻はリリーのベッドで眠っていた。
「ま! 私のベッド!!」
「リリーごめんなさいね。つい借りちゃった! でへっ。」
「オレグはどうなの? もう起きれるかな。」
「今日は、きっと私の夢を見ているわ。だから起こさないよ!」
「まぁ、お姉さまったら。」
「ドン・ドン・ドン。」
デーモンとデビルこと、デーヴィッドとエルザが息を切らしてやってきた。
「ご主人さま! あ、すみません。オレグさまはお休みでした。それでお二人は大丈夫でしょうか?」
「はい問題ありません。今日はここで休ませますので館には、リリーとあの二人を収容してください。」
「ぎょ!」
「ギョェ!」
そこにはルシンダと同じ顔をした女と爺さんが縛られているのだ。これを見た二人が驚くのも当然だろう。
「な。な、なんですか、この二人は。ルシンダさまを捕獲したのですか。あり得ないです。お嬢様は館にいらっしゃいますよ……?」
「この二人については、ルシンダを交えて取り調べを明日に行います。」
「はい、さようで……。」
「あ、デーヴィッドさん。外に次の移民の人がたくさん来ていますよ。どうにかしてください。」
「ぎょ!」
「ギョェ!」
「ええっ?」
「デーヴィッドさん。早く長屋に入れてやってください。子供たちは凍えておりますし、お腹も空かせていますでしょう。早く、暖炉に火を入れてやって下さいね。」
「えぇ前の移民の者にさせましょうか。その方が安心するでしょう。」
デーヴィッドは急いで移民を長屋に押し込んだ。とりあえず家族単位としたが、単身者を含めて一軒に五人まで入れて蓋をした。
「ありがとうございます。」
そう言われながらデーヴィッドは、先の移民に暖炉へ火を入れさせた。出来たばかりのパブには、緊急のパンを多数焼かせる。また、温かいスープを作る為に氷室から多数の肉が取り出された。