第43部 オレグが見た七つの夢③ ライ麦を製粉
1242年7月21日 ポーランド・トチェフ
*)ルシンダと水車小屋
「オレグ。今日は、水車小屋に案内してよ。」
「はい、かしこまりました。」
「あんた、その、かしこまりました、は、止めて頂戴。他の言い方は無いのかしら?」
「はい、ありません。」
「そう、とても残念だわ。」
「ええと、水車小屋ですね。ざっと説明しますと、麦粉の製造と製材の板の製造。それから、木の器、食器の製造ですね。次は木材を丸く削るとかです。」
「他には?」
「はい、石材の切断と研磨ですね。使いようによっては、鍛冶場にも利用が出来ます。」
オレグはライ麦を製粉する工程をルシンダに見せて説明した。ルシンダは興味を持つ物には、とことん向き合う性格だ。ここを見せておけば、それだけでいいと思われた。だが、違った、詳細の説明を要求されたのだ。
(この俺でも、ここまでしつこく訊かないぞ。)オレグのこころの中である。俺は村人をこんなにイジメていたのかと、他人事のように思ったのだ。これは、そういう意味の反面教師だろう。く~ルシンダめ!
「ねぇ、オレグ。」
「はい、ここはこの歯車を噛ませればいいのです。どうです?」
「そうすると、この部分が回って、この先に取り付けた材木を削るのですね。」
「うん、うん。これはいいわ。オレグ、この水車小屋、領地に五軒ばかし建てなさい。出来ないとは言わせません。」
「はい、出来ません。お嬢様で建てて下さい。職人を十人ほど呼べば、それだけでよろしいでしょう?」
「ではそういたします。・・・オレグ、ここは何ですか?」
「はい、食器を作るところです。ですが、この作りはとても難しいですよ。こう、芯が真っ直ぐになりませんと、軸がぶれて綺麗な食器は出来ません。」
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オレグは、ルシンダお嬢様から散々に引き回された。疲れてすぐに眠ってしまった。今晩もとても有意義な夢を見る。
*)ライ麦の製粉計画
オレグは、在庫多数のライ麦を、水車を使って搗きあげる計画を実行する。
「オレグさん、この時期は農作業が多くて人が出せません。」
「そうよの~、ボブの嫁さんは製材も請け負っているからな~、出来ないだろうな~。俺も出来ないよな~。」
オレグは、農民獲得のためには、大量のパン粉を製造し貯蔵までしなければならなかった。
「リリーは、農民を少しでいいから、送ってくれないかな~。」
と、バカなことを考えていたが、考えても出来ないものは出来ない。そもそもリリーを頼る事が間違いである。
「今日も粉をこぼしているな。誰だろう。」
「ああ、それは****とこの、小さい子供だね。姉と弟の二人で来ていたよ。」
「そうかい。水車を使うと子供でも作れるからね。ホント、便利だね~。」
「私も、この息子が大きくなったら、麦粉を作らせるさ。いいだろう?」
「それは構わないよ。あんたには製材の仕事もあるしな。」
「二つのかけもちも出来るがよ、気を抜いたら失敗するからさ、あまり出来ないものだよ。」
「ボブの息子ね~」
「なぁ、いいだろう?」
オレグは麦粉が搗かれるのを見ていた。
「おじちゃん、そこ、どいて。今からパンの粉を作るんだ。」
「おう、兄弟で頑張れよ。」
「うん。」
「オレグさん、材木を載せるのを手伝いなよ。」
「今日の材木は細いから、一人で出来るだろう?」
「そうさね、今日はたまたまだよ。五日以内には全部板に出来るからさ、また切出しをさせときなよ。」
「ああ、そうだな。切り倒しておくよ。」
「でもさ、切出しの森が遠くなったので森からの運びだしが大変だよ。」
「私に言っても無理だね。若い衆に曳かせるか。それでいいだろう?」
こんなオレグの返事だった。オレグの頭のキレ! が無くなっていた?
「ああ、今から頼んでくるよ。またな。」
冴えないオレグの後ろ姿を見送るボブの嫁は、(ふん、もう来るな!)こころのつぶやきだった。
「リリーが居ないと、移動が大変だな。早く帰ってくればいいのに。」
「おじちゃんは、お嫁さんに逃げられたの?」
「ああ、そうなんだ。どうして知っているのかな~。」
「うん、村中で評判だよ!」
「バチッ!」・・・「え~ん・・・。」
「くそガキが~。」
「あん? こら! ライ麦を置いていくな。こら、ガキンチョ。」
「もう、しょうがねぇ~な~。後で麦粉と交換して届けてやるか。」
オレグはぶつぶつ言いながら、水車小屋へ戻った。
「なぁ、このライ麦を搗いたら、どれくらいの麦粉ななるんだい。」
「じゃまだね~、どれ、貸してみ。・・・・この容器に二杯だね。交換するのかい?」
「ああ、頼む。ガキンチョをちょっと殴って泣かせたのだよ。その詫びな。」
「そんな必要はないさ。でも麦粉の交換は面倒だから、村人には言うなよ。」
「そうだな、そうするよ。」
遠くには、オレグが泣かせたガキンチョが、やはり泣きながらこちらへ向かって来るようだった。
「ま、親からも叩かれるだろうて。」
「おう、ぼうず。一緒に帰ってやるよ。これ、麦粉な。」
「うん、ありがとう。ぐすん、ヒク、ぐすん。」
「ぼうず、お前はいつも何をしているんだい。親の手伝いには、行かないのか?」
「うん、おれは手伝いが出来ないんだ。背が小さいから、草刈りは出来ないだ。」
「そういうものか。ならば、子守をするのか?」
「うん、そうだね。どこの家も小さい子供が多いからさ。」
「よし分かった。この俺から仕事をやろう。給金もだすぜ!」
「わ!・・ね?・・ほんと?」
「ああ、ただし親がいいと、返事すればな!」
「うん、絶対に言わせるよ。おじちゃん、何をするの?」
「麦粉をたくさん作るだけさ。簡単だから、出来るだろう? あのおばちゃんの仕事を分けてもらうだけさ。」
「おら、ぜったいに仕事をするよ。金貯めて大きくなったら商人になる!」
「悪いな、ぼうず。お前は農民にしかなれないんだよ。」
オレグはこの少年が農奴の子供ということを知っていた。村の全員が農奴ではないが、約半数以上は農奴なのだった。
「そうか、麦粉は子供に搗かせよう。給金を決めて広く募集するか。」
オレグは、水車小屋でたくさんの子供が働いていて、麦粉の安定製造の夢を見たのだった。




