第3部 パブの入口は右から入るべし!
1241年4月1日 バルト海・ゴットランド島、ヴィスビュー
*)ボブ
「ねぇ、オレグ。この後はどうすんの?」
「追ってはこないだろう。なんせ、やましい行いだもんな。いい薬になったさ。」
「でも、妖精ハンターには知られたんじゃないかしら。」
「そうさなー、だろうな。」
「リリーはまだ食べ足りない。はやくどこかのお店に行こう。」
「丸焼きは? オレグ、どうしたの」
「ノアが全部食べたさ、な、ノア!」
「パブで情報収集しような。」
「ゲプ!」byノア。
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(注記)
パブとは十八~十九世紀のイギリスで発達した、日本でいう居酒屋です。一千六十六年にノルマン人がイギリスを侵略して置き土産的なノルマン人の習慣が変じてパブの原型が作られました。
ノルマン人はバルト海沿岸の北方系ゲルマン人でハンザ商人の祖先でもあります。一千二百四十一年のバルト海・ゴットランド島、ヴィスビューにはもう在ってもいいかな? と思いましたが。
階級社会のあった時代のイギリスは、労働者階級用の空間と中流階級以上の空間を、仕切りで分けた二つの部屋があり、それぞれ別に入口がありました。同じ料理、同じ酒でも金額が違っていて、中流階級が少し高くなっています。
現在は廃止されていますが、未だに少しは有り、中流階級の入口から入って、お客は見栄で高いお金を払っています。
左右の区別は未定ですが、働者階級用の入口を「右」にしました。右にはそういう意味があります。
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四人はパブに着き、右のドアから入った。まだ昼過ぎだから子供を連れていてもおかしくは無い。昼の軽食は簡単な料理が出される。パブに入ると、客は一斉にこちらを振り向いた。
「ねぇ、オレグ! もう一つの入口から入った良かったんじゃないかしら。」
「向こうはダメだ。情報が寄って来ない。これからは俺たちの戦場さ!」
「どうしてダメなの? 意味わかんない。」
「向こうは、お役人とかの、中流階級以上の人の入口だから、船乗りや情報屋が寄って来ないんだ、だからさ。そんな連中に誰が情報を持って来るんだい。」
「耳よりの情報を話して、御用! だ。逮捕だ! と、言われたくはないよな?」
「ふ~ん、そうなんだ、理解したわ。」
「そうね、何か商材を買って、船で、何処行こうか。」
「ここは島だもんな、大陸、ん~、東のシベリアに行くか。」
「ノアは腹いっぱいで寝てるのか?」
会話の口減らしで、眠らされているのだが。リリーは早く注文するように催促をしている。
「リリー、何がいい。ケーキじゃ足りなかったよね。アップルパイでいいかしら」
「上等よ!」
「どういう意味の、上等だ? 熟したリンゴに蜂蜜の二倍掛けの上等品をご希望 かな? 普通でいいだろう。」
「アップルパイを1つ頼むね。パイの半分に、リンゴと蜂蜜を載せて焼いてくれ。」
「奇妙な注文ですな。半分は生地のままですね、お待ちください。」
「ああ、それでいい。蜂蜜は焼き上がり後に頼むね。」
「それと、アンチョビのピザとベーコンのピザを二枚頼むよ。ビールを二杯。あとは、おつまみを二皿ね!」
「イカ刺しだよ? アイアイサー。」
「おい、リリー。上等なパイだ! 半分だけど?」
「うん、半分で十分よ。おなか一杯になるわ。」
リリーは微笑んでゆっくりと食べだした。
ビールを飲みながら二人は相談した。ヴィスビューの特産物は何か? しかも大きな声で話した。
「ソフィア、ここの特産品はなんだろう。アンチョビじゃないよな」
「きっと、マグロよ!」
などとバカな事を話した。少しして、俺は小声でソフィアに囁いた。
「もう少しだ、向こうの男が聞き耳を立てていやがるぜ。ソフィアさんにっこり微笑んでみてよ、多分直ぐに来るからさ。」
ソフィアは、青い服をずらし、左の肩を少し見せてあげて、サービスショットで可愛く微笑んだ。あとで見ていろオレグ! ソフィアの右手は拳を作っていた。
二つ隣のテーブルから男が立ち上がり、俺らの二つのテーブルに座った。椅子は全ての4個が塞がっているから、隣の椅子をちょっと横に向けて座ったのだ。
「あんたら、バカ言ってるね~。何をどうしたらマグロになるんだか、この俺様にも、分かるように話してくれないか。」
どこから聞いていたのか、こちらも訊きたくなったが、我慢!
「ああ、行儀悪いが食べながらでいいか?」
「お互い様よ、俺は飲んでるからさ。お~い、ねえちゃん。ここにビールくれ。」
ビールは、カウンターで、都度の支払いで購入するのが、パブらしいのだが。ここは居酒屋らしい。
「いやね、おれらはハンザ商人の駆け出しでね。今日ここに着いたんだが、この先何を仕入れて、何処に行こうかと相談してたんだ」
「何かい? マグロは餌なんだな、ひでぇ~な。人間を釣るってか」
この男、頭の回転が早いな。酒は潤滑油になってるんだ。すげ~な、と考えつつ俺のつまみのイカの刺身を男に差し出した。餌のマグロのエサだな。
「この時期のゴットランド島は、そうだな、農作物と塩かな。ハンザ商人から買うのだったら、服の織物、毛織物がいいんじゃないか。シベリアに行くんだろ?」
「鉄鉱石は俺の船では無理だ、運べないな」
「ああそうだな。先に東に行って最後はこのバルト海を西に行き、イングランドで終点にしようかと、考えてるんだ」
この男は、もう俺らを客と見ているようだ。自分の船で運ぶつもりらしい。
「そうだな、船も必要かもしれないな。オムニシップでもいいか。」
「なぁ、兄んちゃんたち、船も探してるんかい? この俺でどうだ。」
男は酒臭い息の顔を近づけて、もう乗る気? でいる。話か船か!?
「あんた! 船に変身出来るのか?」
「おうよ、港に着けば変身したとこ見せるぜ。どうだ!」
「船を見てから決めるよ。な、ソフィア! さま。」
「ねぇ、オレグ。オムニシップってなんなの?」
「乗合船さ、別名、ハンザの貨物船だな。」
「造語なの? それともオレグはバカなの?」
ソフィアはあきれるのだった。ボブの目つきが変わる。
「オレグ! 服の布はこれから寒くなるから、いいんじゃない。塩も生活必需品だしね。それと、胡椒はどうかしら。」
「おお、姉ちゃんいい所ついてるぜ。でも、今は四月だぜ?」
「胡椒はいい売り物になるらしいぜ。あちらは第一酒飲みばかりで、肉料理が
多いしな。服の布は秋にな!」
「ブ~~~~~~!」
「お~い、ビールはまだか?」
男は大声でビールの催促をした。店は込み合って来たので忙しそうだ。
「なぁ、船が着いたんか? やけに人が増えて来たんだが。」
「今日は、ハンザの船が三艘入港したよ。人足も忙しいそうだったろ?」
「そうだね、通りも多かったわ。ね、オレグ!子供を宿に連れてい行こうよ。ここで寝せるのもかわいそうみたいだし、ね?」
「ああ、いいぜ。また出直そうか。」
「兄ちゃんたち、宿屋は決めてるんか?」
「まだだけど、商館に行って荷の入り具合とか訊いて、序でに宿もと思っていたんだが。昔はいつも世話になってたしな。」
「そうかい、俺の紹介でどうだい。客にはお安くさせてるぜ。大人が二百クローネチビが百五十クローネだ、安いだろう。」
「ネズミと一緒じゃイヤだからね。まともな宿だろうね。」
「あぁ勿論さ。ハンザの指名の宿だぜ、可愛いねーちゃんからは文句は出ね~さ。」
「ソフィア! 行ってみるか。下見にいこうか、みんな。」
「そうね、オレグ。行こうか。」
「さっき道を教えてくれた、あのボブかしら?」
「おう、そうだとも。また俺が案内するよ、顔見せないと安くはならないしな。隣がパブになってるし、打ち合わせも出来るぜ。」
4人揃ってボブの後に続いた。ボブ? 何処にも紹介は無かったはずだが?
名前は聞かなかったが、男の背中に、ボブ、と書いてあったのだ。親切だな。看板背負ってるんだ、嘘は言わないだろう。
水夫のボブ! 船乗りのボブ! 何でもやのボブ! 任せて安心のボブ。この看板の文句が後々に影響する。オレグからは、便利屋扱いにされる。
「ボブ、俺たちの顔合わせの紹介だけでいいよ。宿泊の申し込みは、ハンザ商館から帰った後にするからね。」
「ああ、分った。出来るだけここを利用してくれよ、頼むぜ。」
あのまま大勢でカウンターまで行ったら、子供の分まで払う羽目になる。リリーとノアの二人は払う必要はないのだから。三百クローネも払うのは嫌なのだ。ケチなオレグなのだ。
「なぁ、ソフィア! さん。金貨1枚で、何クローネになったかな。教えてよ。」
「金貨1枚で、十万クローネだね。だけど、両替に三%を払ったから、九万七千クローネになったよ。十万か。もう少し多いと良かったな。」
「国外はもう少し高いみたいよ。ここは、ハンザの中心部だから地方の金貨や通貨も集まるから偽物も多い。なので評価も少し落ちると、言ってたよ。」
*)ハンザ商館
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(注記)1241年の東部ヨーロッパは、
ワールシュタットの戦いが行われていて、モンゴル帝国がドイツとポーランドの寄せ集めの諸侯連合軍を撃破していた時代だ。他にも多数あるが、トゥルスクの戦いも有名だ。チンギス・カンの子供の元気が良過ぎるのだ。何と言ってもカーンの子供だ。
献血で一千cc抜いても走ってでも帰れるだろうて。
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ハンザ同盟の商館でも戦争への感心は高い。なにせ命も懸けなければ商売にならない。残党兵の夜盗に襲撃されたら堪らない。各地から戻る・通過する商人からは現地の情報を教えて貰わねばならない。
そんな慌ただしい商館を訪れた。
「船が着いたから慌ただしいのかな。商館の人も忙しそうだね。」
「いや、戦争のせいだろう。それと、売買代金の決済も多数行われるので、銀行窓口が込んでるのさ。」
「あの妖精さんの力で通信させてる、ネット! だね。」
「ああ、あのネットは便利だからね。現金を持ち歩かなくていい。そこが魅力だからね。俺らも、金貨・銀貨を預けておこうか。」
「両替商で両替しなくていいの?」
「ああ、いいのさ。ただし、現金にするには先に預けないといけない。引き出せるのは、翌日からだ。今日、いま直ぐには出来ないんだ。」
「そうなんだ。だから両替商で手数料を払ってでも通貨と換金するんだね。」
「お国ごとに商館で引き出せば、現地の通貨レートで引き出せるから、今後は商館経由でお金を用意する事になる。手数料が1%掛かるがね。」
「ここのクローネも、シベリアに行けば使えないし、持っていても意味はないよ。」
「わーい! 残り八万と少しは全部使おうね?」
「・・・・・、少し減ってねぇか?」
「減ってないよ。何か変かな。」
「買い付けの残りは全部預けるよ、いいね。」
「リリーとノアにもお小遣いを頂戴! ソフィアばかりは不平等よね。」
「リリー! 何を言ってるのかな? このソフィアばかりとは、どういう意味かしらね!」
ソフィアの髪飾りが1つ増えていた。たぶん、他にも買っているだろう。妖精たちは危ないから一人では買い物が出来ない。証明済だから。
「オレグ! 旅行の準備に買い物に行きましょう。今日の着替えも無いのよ。」
「ここは架空の世界だろう? なんで買い物が必要なのだ?」
「だって、女の子が二人も居るのよ。男はパンツ1枚でいいけれども。」
「そうなんだ。ならば、架空世界ならお金も必要ないわな?」
「ブ~!」
「オレグ! ここ見てみろよ。大会議室で商人の東ヨーロッパの戦争、状況説明会が開かれるぜ。行かなくていいのか?」
「ノア、よく張り紙に気付いたな、偉いぞ。」
「お前が、アホなだけだ・・・・・」
「ノア、何か言ったか、な?」
明日の十時にまた来る事にした。用件は商人の紹介と銀行窓口だけ。宿はこの後に行くし、旅行の準備が先か! 女どものために買い物を済ませて宿屋へ行く。
「大人二人ね。とりあえず、三日の宿泊予定で。幾らだ?」
「はい、大人お二人で・・・・、一千五百クローネになります。」
「ありがとう、余所に行くよ。また来るな。」
「あ、あ、ちょっと待って下さい。食事抜きでよろしければ、一千二百クローネです。」
「ねぇ、オレグ。ボブは食事付とも何とも言って無かったわね。確認不足よ。どうするの?」
「ね、ご亭主! ボブは、朝食二つ付き、と言っていたがな? 違ったか」
「はい、朝食付きにいたします」
「朝食2つ、だよ。二人いるから、四人分だがな。俺はそうでもないが、こちらのお嬢さまが、大食いなもんでね。頼むよ、な?」
「はい、承りましてございます・・・・? 四人分?・・」
「こうするのさ。ね!」
「ご主人、ここは銭湯が在るのかい?」
宿の主人は、銭湯、という言葉を聞き洩らさなかった。にっこりとほほ笑む。
「はい、おひとり様、五十クローネでご用意いたします」
「おお、そうか、今日二人分で頼みたい」
おバカな俺さまだった。三日目の清算で気が付いた。宿泊客は無料なのだ。銭湯は市民に解放されていて、一人五十クローネは正しいが、やられた! もちろんソフィアには内緒だ。
四人で銭湯を済ませて隣のパブに行った。
レートは?
1クローネが、10円。1,000クローネ=銀貨1枚。10,000円
銀貨100枚で金貨1枚。100,000円
的な感じにしました。