ep.2 西暦 1241年 バルト海・ゴットランド島 旅路の始まり
西暦 1241年4月1日 バルト海・ゴットランド島
*)旅の始まり
俺とソフィア、それに妖精であるノアとリリーの二人が組んで、四人組のパーティとなってヴィスビューから旅を始める。
ノアの腹の虫が騒ぎグーの音が物語開始の合図となった。
「なあオレグ! 腹減ってたまんねーよ。今日の飯はどうすんだよ。」
「そうさな、ヴィスビューの港に行って考えるよ。」
「呑気な事言わないでよこのソフィアさまもよ。ペンダントは絶対売らないわ。」
ソフィアは右手を俺の前に出し握り拳をして見せる、いわゆるお腹が「グー」の合図だ。
全員が空腹でふらつきながら港に着いた。
「リリー温和しいね、港に着いたから一仕事頼むぜ。」
「オッケーいつもの水鏡ね任せて。我、鏡の世界に……ウォーターミラー、オン!」
水鏡で何をするのか、海の水面を鏡に見立てて鏡の世界に入る魔法を使うのだ。「ウォーターミラー」そのままの掛け声でリリーは海に飛んで消えた。
*)金貨と銀貨
俺には一本の細い紐が持たされていて、リリーから合図が有れば紐を手繰り寄せるのだ。
「リリーにまた魚を獲らせる気だね、オレグも進歩が無いわ。」
「ソフィア~そう言うでない。何処かに両替商の店が在るから見つけてくれ。」
「マグロと古物商? 何で繋がりがあるのよ~意味ふめ~い!」
「誰がマグロと言った、マグロは獲れないよ。」
ソフィアはイヤイヤながら歩き出すも、いやいや歩いて探すのは難儀するので片っ端から通行人に尋ねている。しばらくして二人連れの男に尋ねて分かった。
「なんで~……ねぇちゃん。」
「あの~お兄様方、両替商はご存じですか?」
この男、ソフィアをつま先から頭までマジマジと見つめてボブに問いかける。自分は目の保養に努めたいからだな、厄介なことはボブに押しつけている。
「おい、ボブ。両替商を知ってるかい。」
「ああ、教えるぜ。」
ボブが東を向いて右手をくるくる回して場所を説明していた。暫くはボブの腕の動きに合わせてソフィアもクルクルと顔を回していたら、ソフィアはにっこりとほほ笑んで両手を口に当てて叫んでいる。見つかったようだ。
「ありがとう、おじちゃん!」
「お助けのボブ! だ。なんか困ったら来な可愛い嬢ちゃん!」
「はい、よろしくお願いします。でもあんたはきら~い!」
「すまね~な、こいつは可愛い子には目が無いんだ。」
「ふ~ん、でも見えているわよね。」
「まぁな。じゃまたな。」
「はいボブ!」
「ウヒョヒョ~……もう一遍!」
「ヤよ。でも助かったわ。」
「ウヒョヒョ~……もう一遍!」
バッコ~ン……。
人狼のソフィアに殴られたのだ、タダでは済まないだろうが……? この後直ぐにリリーから合図があった。だから殴られたボブの様子が分からない。
「ノア合図だ。海の上で待機してくれ。」
「了解、あの船の横くらいでいいかい?」
「そこで十分だ。何か見えたら合図をくれないか。」
俺は紐を手繰りよせる。ソフィアはゆっくりと歩いているので、俺は手招きをするとソフィアは小走りで戻って来た。
「お腹が空いているのよ、走らせないでちょうだい!」
「ソフィア大物だ、手伝ってくれないか。」
「イヤだけど、いいよ。マグロかな。」
ソフィアは?? 機嫌がいいのか? あぁそうか。可愛いと褒められたんだな。
「ゆっくりと引いてくれ、どうだ重たいだろう。」
「リリーはどこかの船に結び付けていないかしら。」
「さすがにそれはないだろうさ、でも男の死体でなければいいさ!」
「イヤッ! もうバカ言わないで! 蹴飛ばすわよ。」
「がはははー」
ノアが飛んで来て報告した。
「大きい箱のようだよ。陸には上がらないと思う。それっ!」
「キャィ~ン」
「ガッハッハ~。」
俺の悲鳴だ、続いてはソフィアの高笑いだぞ。
「お~よく飛んだな! オレグ~頑張れよ~。」
ノアの掛け声とともに俺は海に投げられていた。俺は右手を上げて抗議のゼスチャーをすると直ぐに眼の前にロープが投げられた。更に怒って怒鳴る。諦めたくらいの時になってリリーが水面から姿を出した。
「オレグ、この下だよ。潜ってロープを結んでね。」
「よっしゃー。」
俺は勢いよく潜った、何度も何度も息継ぎの為に顔を出す。十回は繰り返して作業が終わったと思う。最後の馬鹿力とばかりに桟橋から上る。落ちた水夫の為に設けられた階段を力なく上った。
桟橋から両手をだらりと垂らし、力尽きた感じで歩いて直ぐにへたり込む。
「もう~だめだ~動けね~腹減った~……。」
「海の水じゃ、ダメだったのかしら?」
「あ……?……ん。」
「あんた男でしょう、早く引き揚げて。ノアも手伝いなさい。」
「リリー私たちの周りにミラージュの魔法をお願いね。トンビが来たらさらわれて大変だもの。」
「オッケーソフィア、任せて。」
「我らの姿を隠したまえ、ミラージュ・オン!」
「俺は障害物に変身するよ。人がぶつかったら分るもの。」
周りの通行人や人夫からはもう見えない。でも通行人は近づきぶつかる事はある。ノアは変身魔法で障害物になり人が来ない様にした。これでサルベージが出来る、箱には海水も入っているから超~重たい。
「クソー重てーソフィア、そこの杭のロープ掛けにグルグル巻にしてくれないか。水が抜けるまで一休みするからさ。」
「何だって~あぁ……あぁん?」
「ギャハハ……。」
「打たれたいのかしら?」
「すみません。重いのは箱でございます。」
「ヤーイ、やーい俺具の墓穴掘り~」
バッコ~ン……。
「ギャフ!」
「ノアも災難だな。」
「俺具が悪い。」
「まぁな、腹減って機嫌を直してくれ。」
「オレグ、言葉が変。」
ソフィアは俺とノアの事は気にせずに頑張っていた。
「オッケーよ……待ってて。もっとロープを寄越して! うん、これでいいかしら?」
「十分だ。ありがとう。」
沖から小舟が近づいてくる。岸壁までミラージュは効果があるが、水面の上には箱がぶら下がっているのが見えるはずだが、心配していても見つからなかった。岸壁にはロープはもちろん、漁師の籠もぶら下がっているからだろう。
「よっしゃー頑張るぞ~。箱に何も無ければリリーをしゃぶるからな。リリーいいか、覚悟しておけ。」
「いやよ、ベー! このヘタレ! オタンコナス!」
「おお、言ってくれるじゃないか。よし! 揚ったぞ。」
俺はぐったりとして付近を歩きだした。何か箱を開ける物は無いかなと探して廻る。足元の棒とか渡し板とか蹴飛ばして腹いせをなだめた。漁師小屋を見つけて走り出し小屋を物色していたら有ったよ~。鉄製のバールを掴んで戻ってこじ開けるのだ。いや叩き壊すか、力任せに。
「よっしゃ~、いくデー……そうーーうれっ!」
バッキーン。音と共に箱が崩れてて中からはお祝儀が出て来た。半分は石?
「わぉ!」「キャ!」「すげー」「どんだけ~。」
俺以外は目の色を変えて金貨銀貨を覗き込むも、俺の労役に見合うだけの収穫はあるのか?
「この俺様に海水浴をさせるたー、ひでー奴だ。ぶっ叩いてやりて~。」
石だと思ったものは革袋だったか、都合良く破れた一袋の金額銀貨が飛び出していたのだった。
「なになに、貴殿の出立(旅立ち)を記念して金貨一千枚、銀貨五千枚を授ける。この金を千倍にしてみよ幸運を祈る。by十年前の俺。」
「とさ。ソフィア~金貨だ~。古物商に行って現地通貨に替えて来てくれないか。俺は綺麗に拭きあげてリュックに仕舞うから。」
「オッケー! 直ぐに食堂に行けるね。リリーはお手柄よ! あそこで待ってるね!」
「??」
「あそこは、あそこよ。分ったわね?」
オレグは理解できなかったがリリーは、
「オッケー大丈夫、理解した。後で行くね。」
ソフィアはニコニコして駆けていった。どこにそんな元気が残ってたんだか。
「オレグ! 私の事見直した? 大いに感謝しなさいよね。」
「ノア、もう少し頑張ってくれ。飯はたんまりだぜ!」
「・・・・・・・・・・」
ノアには口が無い、本当に壊れかけた船の残骸と化していた。
「十年前の俺に託されていたんだろう? 違うか、どうだ?。」
「そうだったかしら? 知らないよ。」
怒る気も失せて俺はタオルで一枚一枚丁寧に磨いた。腹減ってるくせに妙に元気がいい。鼻歌交じりでテンポよく……。
「機嫌のいい! オレグさま。どうしてソフィアに金貨を渡したの?」
「いいんじゃね~? 機嫌が良くなっただろう?」
「無駄遣いだよ。オレグはソフィアには銀貨十枚でよかったはずよね?」
「あ?・・・・・あ!・・・・、そうだ、俺は損をしたのか。」
「今ごろ気がつてもさ~もう遅いわ。お金は戻らないものね?」
「そうか~金は戻らないな~。」
オレグは言っていることと態度は違って見えた。ここでリリーとノアに金貨の拭き上げを頼めば作業が早く終わっただろうに。リリーの一声で、リリーは金貨をくすねることが出来なくなった。ノアは性格上、無頓着だ。
リリーは悔やんでいるだろうか……。
「済んだぜ二人とも。ご苦労だった、ソフィアは? もうパブに行ったって?」
「そうね、もう着いているかしら。直ぐにでも注文してるでしょうから待たずに食べれるよね。」
ノアは、
「なんでもいい! 早く食いてぇ。死にそうだ、オレグ! 肩に乗せろ、な?」
「荷物が重たいんだけど、あれぇ? 金だと重くはないな。」
「現金なことね!」
ソフィアは丘の上にいるらしい、歩く事二十分も費やしてようやくたどり着く。
*)追い出し猫からの逃避行
ソフィアは店の前で手招きしている。店の前には有名な、追い出し猫の猫形が二体飾ってあり、客も多くて繁盛している。広場に面したレストランには五セットのテーブルが並んでいて、待ちくたびれたソフィアが頬杖を突いて待っていた。
手招きしている……いやいやここで尻尾を出して振っていた。頬杖を突いていては手は振れないよね。
「おいおい、どっちの店に行くんだ?」
「情報が欲しいわ、パブに行きましょうよ。ここで何か商材を買い付けておくんでしょう?」
「酒は夜でもいいけど、先に妖精さんには機嫌を取っておかないとね!」
「リリーにはピーちっパイを食べて貰ってさ、大きくなってもらいたいしね。」
「ピーチパイを食べさせてくれるの? 大きく?。」
「ピーちっパイ! ね。」
「…………? あ、ちっパイ!と 言ったな、この野郎はもう~~~。」
ソフィアは笑って見ている。懐が暖かいのだから。
またしてもリリーは俺をポカポカと頭を殴り出した。ここのレストランからは、港が見えて赤瓦の街並みも綺麗に見える。どの家も二階建で壁は白に決まっていた。
ここヴィスビューは今でもハンザ同盟時代の砦、城壁が状態よく残っている。城壁の中に街が在るのです。(観光と農業が主産業になってます)
「違うわよ、よく見て! 所々黒とか濃緑の屋根があるでしょう?」
「ああ……在るわな。」
「あれはね、レストラン、ホテル、パブ、酒場ね。異人さんには直ぐに分かるように街並みが揃えてあるのよ。」
「すっげーな。ここの領主さまは偉いな。」
「そうね。良く考えてあるね。あの三階建ての大きな造りがハンザ同盟の商館ね! しかも三棟並んでるのよ。」
ソフィアは丁寧に教えてくれた。長いことここに座って街を眺めて考えていたから、昔の記憶が甦ってきたんだろう。
……ソフィアはいったい何処の生まれだい?
「あ、あと屋根に三角旗が揚っているのも商館の目印ね。」
ふふ~んと得意げにソフィアは笑った。機嫌がいいと良くにっこりとして笑い頬が赤くにもなるな。なかなかに可愛い!!
「料金は十クローネでいいよ、可愛いからまけとくね!」
店から女主人が出て来て言った。この女主人は何を言っている?
「女将さんお金取るの? 親切で教えてくれたと思ったのにな~。」
「ソフィア! 今の説明は女将さんから聞いたのか?」
「そうよ何か悪い?」
「なに夫婦喧嘩してるの十クローネは、ちっパイの代金だよ。ホント! 可愛いわね。名前はなんて言うんだい。」
「リリーよ。ちっパイ! 言わないで。でもこれは美味しいわ。」
「ねぇこの妖精さんは、子供の大きさになるんだろう、しないのかい?」
「どうして? 身体を大きくしたら飯代が高くなるからさ、このまま小さい格好でいいのよ。」
「なに呑気な事言ってるんだい、捕まってハンザ同盟の妖精奴隷にされちゃうよ。知らないのかい?」
女将はやや驚いた顔をしている。
「妖精の奴隷? ですか。知りませんです、教えてください。」
「何でもね、ネット通信の動力源になるらしいんだよ。だからハンザ同盟は妖精を欲しくて堪んないのよ。ハンザは妖精を高く買うから専門の妖精ハンターが居るのよね~」
「イヤだわオレグ! どうしよう。」
「俺たちを食い物にするのか。ハンザの連中は~もうイヤだね~。」
「女将さ~ん。」
奥から女将さんを呼ぶ声が聞こえたから店内に戻った。
「すまないがお二人さん。めし代は高くてもいいからさ、直ぐに子供姿に変身してくれないか。」
ソフィアは先ほどからキョロキョロと辺りを見回している。
「まだ大丈夫よね。あらリリー可愛い!」
「ノアは、そうか服が足んないな。このあとは服を買いに行こうか。」
「パンツ~ 一枚? だもんな。あ、はははははあぁぁぁ!」
「パンツ一枚じゃないやい、ばーか」
ノアは紹介したように可愛い男の妖精になっているのだが、
「はい……お待ちどうさま。鳥のもも肉の塩焼き、サケのムニエル、酢豚にスープに焼き飯、ハマグリのバター焼き、チーズケーキに、これは大きいね。鶏の丸焼きとオニオンとハーブの添え。これ位でいいかね。」
店員さんと二人でキッチンカートに満載して沢山運んできた。
「十分です……高いだろうな、トホホホ。」
「ソフィア……こんなに料理を頼んだの?」
「お店からのサービスよ!」
女将さんはにこやかな笑顔で無料です、と言う。おいおい嘘じゃないよな。
「はは、タダですか……。」
「ノア! もも肉。ソフィアは焼き飯。リリーはケーキ。俺は丸焼き~持ったら走れー。」
「みんな! 逃げるよ~、リリーとノアが捕まってしまう~。」
「オレグ、持ち逃げするの?」
「いや妖精ハンターに通報されたんだ。この料理は足止めだ! 走れーーーー。」
女将さんはじだんだを踏んでいた。俺は機転を利かせて危機を回避したのだった。
次回はパブの入口は二つある?! どっちから入るの?




