第257部 俺の家は……?
1300年1月9日 トチェフ村
*)俺の家は……?
パブの直ぐ近くが俺の家だ。何処から見ても直ぐに判別出来る程にバラの植栽で判る。でも今は剪定されたあとか枝が短い。狂い咲きの蕾すら無い状態だ。家の壁には格子を張り巡らせてつるバラを巻き付かせてあった。
「へ~オレグ、中々に手入れがされてあるな。誰か奇特な人かな。」
「グラマリアの子孫に決まっているだろう、なにせ生存中はあれの財布ケータイだったからな。今でも銭の成る木はあるだろう。」
「ん~……でも、妖精の匂いがする。きっと空飛ぶヒバリだろう。」
「ヒ・バ・リ……? あ~あれな、名前も忘れたよ。可愛い服が似合う……、」
「はい、とても可愛い……エレナでございます。お久しぶりですね、オレグさま、それにゾフィさま!」
「お前……エレナか! ソワレはどうした、生きているのか!」
「はい未だ……存命ですよ、zonbiですが!」
「元からだろう、元気にしていたか。」
「はい、食べるには困らない程度に……ですが。ここいらでも怖い世の中になりましたよ。私も用心しています。」
「そうだな、姿も変わらない妖精だもんな、魔女扱いにされていないか?」
「もう外出用のメイクが大変なのです。特にお顔に皺を作るのがですね。そうでもしないと人目をだませませんよ。」
「俺の家には入れるのか、リリーの結界で守られているとは思うが。」
「ゾフィさまは既にお入りになってあります。」
「流石、あいつは自由でいいな。俺も入れてくれ。」
「オレグさまでしたら自由に入れますが、お人違いでしたら天国へ飛ばされます。よろしいでしょうか?」
「ふん、俺を誰だと思っている。自由に入れるならば……ここは天国か!」
あきらかに室内と思われる空間は暖かくて天国のようだった。今日は氷点下を下回る気温だったはず。暖炉には火が入り赤く炎が立っている。横にあるパンを焼くかまどには、それこそ今が食べ頃だというような、美味しそうな香りがピザが焼けている。お鍋も置いてあるがシチューの俺好みの匂いが立ちこめている。
「ゾフィ……居るのか!」
「居ないよ、ここは天国らしい。可愛いね~ちゃんが居ないからどうだろうね。」
奥のドアを開けてリビングに入ってきたゾフィは、
「お前、男の子だったよな。それはリリーの服だったか。可愛いな。」
「元からゾフィは女の子なのよ。間違わないで。うん、これはベッドの上に置いてあったから着替えたのよ。子供の服のようだね。誰のだろう。」
「まさか、ソフィアが産んだ俺の娘とか!」
「それはあり得ない。別れたのが四十年前だろうが、仮にそうだとしたらもうババァだぜ。」
「それもそうか、孫が居たらどうしよか。」
「ひ孫でないことを祈るしかないだろう。」
「もう祈っている。それよりも肉の焼ける匂いがしないか?」
「そう……だね、少し匂いがしてきたかな。美味そうな匂いだぜ。」
「オレグも寝室を見てきたらどうだい。もしかしてソフィアが寝ているとか!」
「俺は再婚したんだ、ソフィアと離婚した覚えはないが殺されるとか、ないよな。お前が先に見てきてくれないか。」
「だったら俺が殺されてもいいと言うのかい。」
「お前は不死身だろう。妖精は寿命が無いよな。」
「あるよ、とても長いだけだがね。殺される事もあるから一概に死なないとは言えないな。……どれ、行ってみるか。」
ゾフィは長いスカートを軽くつまんで持ち上げる。その仕草はまるで女の子だ。可愛いの一言で片づく。リリーそっくりなのは今でも変わらない。とするとあのバカ女の寸胴鍋はソフィアにそっくりなのは、ソフィアの生まれ変わりなのだろか甚だ疑問だ。
「ソフィアのやつ、俺を慕ってヴァイキングと心中しちまったとか、ないよな。」
とそんなソフィアの思い出に浸っていたら寝室から悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃ~……。」ゾフィの声だ。
「きゃ~~!!」可愛い女の子の悲鳴だ。
「誰だ……、」
「あんたこそ誰よ、痴漢は男だけだから違うとして、貴女は誰なの? このお家には家族しか入れないよね。」
「俺かゾフィだ。家族に間違いはない。だからここに入れた。」
「そうね、そうよね。ゾフィ……叔父様?」
「違う、ゾフィお姉さまだ。間違えるな。」
「言い伝えでは男の妖精さんよね、違ってたのかな。」
「ま、そういう事だ。居間にはオレグが来ている。でもお前は誰の娘だ?」
「私はソニア。ここの娘よ。でもその服は私の娘の服よ。脱いで頂戴。貴女には勿体ないわ。」
「これ、シルクで作られた逸品だね。誰が作ったんだい。」
「あ、それはエレナさまの魔法で編んだものなの。とても高価なものよ。」
「で、その娘とは幾つだい? 何処にいる。」
「きゃ~今度こそ痴漢よ、出て行って!」
「驚かせたな、俺がこの家の主のオレグだ。」
「お爺さまなのでしょうか?」
「……俺は爺様なのか、それもそうかもしれないな。婆さんはソフィアなのか?」
「はい、でもこの世を去られて三十六年にはなります。でも気にされないで下さい。事実とは限りませんのですよ。」
「可笑しな事を言うのだな。もしかしてクリスティーナか!」
「お母様のお名前です。ご存じなのですか?」
「ソフィアが言っていたよ、もし娘が産まれたらクリスティーナに決めるから、とな。そうか……俺の孫か。」
「そうですか、ではお爺ちゃんに間違いないようですね。」
「お~……信じてくれるのか!」
「ば~か、そんな訳あるか!」
「う、う、う……前途多難とはこのことか。」
俺は外に出てエレナを呼んだ。もう耐えられないからだ。ゾフィがだぞ。
「エレナ……。」
「はい、オレグさん。」
「済まないがパブに出前を頼んでくれないだろうか。俺様は偽物だと言われて追い出されたばかりだからさ、この家に俺が頼んでも槍が飛んでくるだけだろう。」
「そうね、黒パンが飛んで来ることはないわ。いいわよ、私の分もいいのよね、でしょう?」
「オーケー腹一杯食べてくれ。」
「はい出して。」
俺はエレナに銀貨の十枚を渡して家に引きこもる。ゾフィは楽しみにしているのが良く分る。
「なぁ~オレグ。遅くないか?」
「遅いな~、エレナがパブで食ってるとか。」
「アホか、俺が見てくるしかないか。」
「捕まるなよ、どうせ精霊の姿で行くんだろう?」
「まぁな、煙突から忍んでみる。」
何の事はなかった。只今、お昼休み中だとさ。バカにするな!
*)その後のトチェフ村は
「俺ではないぞ、断じて俺ではない、ゾフィだから。」
台所の棚を漁るゾフィ。そうでも書かないと俺が惨めになってしまう。
「オレグさん、何してるのですか?」
「あ、いや、何も。棚の確認だ。」
「私の家で勝手にされないで下さい。」
「お前、随分と惨めな生活しているのだな、何も無い。」
「なにもありませんよ。毎日が食事出来るとか、今の世の中ではあり得ません。パン屑ならばそこに。」
「あ、あ~ここか、この棚の奥にはオレグワインが仕舞ってあるのを思いだしたぜ。すまないな……。」
「ア~‥ア、どうして隠し扉の事を分ったのですか?」
「俺が造った家だ。他にもあれもこれも知っている。」
「あれとはなんでしょうか?」
「あれはあれだ。このレンガを横にずらせば、だ。ほ~ら、カビたパン!」
「オレグさん、お待たせしました。お野菜も買ってきましたから今からスープを作ります。」
「エレナありがとう。よろしく頼む。」
「出来るまで銭湯へ行かれたらどうですか?(臭いです!)」
「そうだな……俺の着替えがここに……在る。お~~懐かしいぜ。」
「そ、それは、ヒー爺様の服です。」
「俺がそのヒー爺さんだ。これを持って行く。」
「うぐぅ~……、」
俺はゾフィを伴ってトチェフ村を散歩しながら銭湯へ向かった。ゾフィの口には白いにんじんが突き刺してある。これで少しは腹の足しになるか。
メイン通りには石畳が今でも健在だ。道沿いの家は主に商店となっている。これだけ発展しておれば俺の都市計画は機能していると見て正解だな。
この銭湯は建て直しされたような造りになっている。熱源は木材、薪になっている。昔みたいに魔法はないだろう。
「熱風呂を浴びて……冷たいビール、いいね~!」
「そうだね、カウンターだけどビールも出しているよ。」
「これ、俺以上の才覚の持ち主が考えたのかな。」
「違うよ、バカが先祖なだけだろう。」
「おい……ゾフィ。何か言いたいようだな。文句あっか。」
「ベ~つに、な~んもございません。俺、女湯だからな。」
「……隠せるのか!」
「あぁ、小さいから大丈夫だ。」
「……、」
堂々と入るゾフィに声を掛けるも、
「ポロリさせて追い出されるなよ。」
「誰も居ない。貸し切りだよ。」
ま、それが本当だろう。昼の昼間から銭湯に行ける女は居ないだろう、領袖さん以外はな。俺の方も無人で心が安らぐ。
「う~……いい湯だよ。これは娘を風呂に入れろとソフィアから言われる事も? そう言えば俺には娘がカロリーナが居たんだ。思い出したぞ。」
俺は久しぶりの風呂で頭が真面になったのか、娘のカロリーナの事を思い出しては赤面していた。決して風呂が熱い所為ではないのだ。
「あれが生きていたら今の俺よりも年上だろうか、見付かる前にトチェフ村を去るかな。見付かれば殺されるかもしれね~ぜ。」
いい風呂だというのに俺は寒気を覚えた。もう尻の穴がムズムズしてきて居ても立っても居られない。こんな気分で風呂には入れない。出て逃げる。ゾフィは置いて行こうかと考える自分に多少は馬鹿さ加減を感じてしまった。汗をそこそこ流しては俺は風呂から上がった。
「今日はパブの宿屋に泊まるかな。客だったら飯も出してくれるだろうさ。」
「おい早かったな。」
「相変わらず、ぶっきらぼうだぜゾフィよ。」
「変わりないとでも、言えないのか。」
「ゾフィ、聞いておきたいのだが、俺に娘が居たよな。名前がカロリーナというが。」
「あぁ……そう言えば居たな。あれはどうしたか俺も知らない。魔女として捕まってなければ生きているさ。」
「そ、そうなのか。探してみるか。」
「逃げたがいいぜ。母娘の怨念で生きているみたいだったぜ。」
「ほ~誰にだ。俺は恨まれてはいないと思うがな。」
「忠告している傍から理解出来ないとは情けね~な~。」
「そうなのか、明日はもっと山奥に行くか。」
「だな、ゴンドラも居るかもしれね~ぜ。」
「あれにはもう用はない。俺はハンザの幹部にのし上がる。」
「そうかい、ま、頑張れや。」
「……、」
それから家には寄らずにトチェフ村の三番目のパブに宿を決めて泊まる。怖い夢を見ながら朝を待った。
どうしてか毎日読まれたありましたから、改行を無くしてみました。誤字も気がついた範囲で直しております。七章は三年前に書いてそのままだったものです。中々に奇智に満ちた処もありましたが、もう真似は出来ないかもしれません。
以後の更新は当分見込めないと考えております、すみません。ではまたお目に掛かる日までご機嫌よう……オレグ。
新章としては中年の脂ぎったオレグを書く予定でおります。




