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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
20/257

第20部 対岸の街 マルボルク  


 1241年5月16日 ポーランド・マルボルク



*)こぶね一艘で対岸の村と交易。


 オレグ一家は、ビスワ川の川岸に来ている。ここに港を造るというのだ。ソフィアとゾフィ、リリーも期待している。


「俺もここの村だけでは商いが出来ないね。トチェフにはもう金が無いんだよ。」

「そうだよね。オレグ。」

「だからさ、ビスワ川向こうの村に足を延ばそうと考えているのさ。」

「そうなんだ。でも?」

「そうだな、ソフィア。村が在るかが判らないと?」

「うん。」

「リリー、川の向こう岸までゲートを頼む。ソフィアが心配しているから、早めに対岸を調べようぜ!」

「OK、オレグ。今飛んでみて来るから、川向うからゲートを繋ぐね。」

 

 リリーは最初は高く飛んで周りを見渡して、河原に降りた。手を振る。


「ソフィア、行こうか。」

「ゾフィも行くわよ。まだねているの?」


 トチェフのビスワ川は大きい。対岸までは百mほどはある。流れが緩やかだから船でも十分に渡れる。


 オレグはこのビスワ川にポート・港を造る予定だ。対岸には小舟用に小さい接岸用の桟橋を作る。杭を打って丸太を結び板を掛ける。これだけで十分に機能する。ただ、丸太まではいいが、板はまだ不可能だろう。10cmの丸太を多数渡して床の代りにする。


 小舟は四角で平たい造りを考えている。どうしても浅い所があるし、減水期には川底が出て来る。浚渫しゅんせつできる能力は無いのだから。


 にんまりとしているオレグの前に、ゲートが繋がった。ゾフィは俺に恨みがあるようで、いきなりゲートに蹴とばしてくれた。


「キャィーン!!」

「あらあら、女の子がはしたないわね、ゾフィ?」

「いいの、いいの。これ位でちょうどいいわ。」


 川向うから眺めるトチェフの村は新鮮だ。色々とプランが湧いてくる。


「ゆくゆくはここに大きな橋を架けたいな。」

「あんたには出来ないでしょう? オレグ。」

「そうだな。この村はやはり村だ。金も力も無いからな。」

「だけど、オレグは造りたい。」

「ああ、そうだ。カネと人間があれば五年で造れるだろう。」


 リリーは空高く飛んでいたが直ぐに降りてきた。この先約十K先に村が在るという。かなり大きい街らしい。


「よし、リリー、また先まで飛んでゲートを繋いでくれないか。」

「OK、オレグ。待っててね。」


 そう言ってリリーは彼方へ飛んで見えなくなった。


「ゾフィ。ノアに戻ってこの重たい荷物を持ってくれよ。」

「イヤよ。私は女の子だもん!」

「ちぇ! 役に立たないな。先の街に売り飛ばすか。ソフィア、賛成するだろう?」

「そうね、仕事しないなら、それも有りだね。」

「ソフィア~、それは無いよ。あんまりだわ。」

「では持ちなさい!」


 ゾフィは女の子から第二形態の男の子に変身して、荷物を持った。


「よしよし、それでいいのだ。」


 三人は先に進もうとしたが、草むらで道が無い。リリーのゲートを待つ事になった。リリーは用心深いから、村の近くで道沿いの近くを探すだろう。黒い所から、いきなり人が出てきた所を見られる訳にはいけない。


「お待たせ~。」


 軽やかなリリーの声でゲートが繋がった。


「オレグ。ここは開拓が進んでいるようだよ。家も多いし畑も広いね。」

「それは楽しみだ。そぉれ~」

「ギャィーン!!」


 ノアの悲鳴である。今度はノアがゲートに蹴とばされた。

 


*)マルボルク


「わぉー、この村は素晴らしい。とても綺麗な街だね。」


 マルボルクは理路整然とした南北に道が通りっている。家々も道沿いに建てられている。トチェフの村はバラバラに建てられているから、お隣さんまでは数分の距離にある。ここは本当に隣には家、その隣にも家。これが続いているのだ。


「これはエリアスとデーヴィッドには、是非とも見せる必要があるな。」

「ええ、そうね。とても綺麗な街だわ。きっと領主さまは素敵な方ね?」


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 ここは大都市エルブロンクの貴族の領地だった。ウィスト家の娘の領地として管理されている。ウィスト家の妃は十年ほど前に亡くなっている。 このウィスト家の娘は双子で、下の娘が領主であるが、オレグらはまだ知る由も無かった。双子とは綾香、彩香が転生した娘だ。名はピアスタ。


現在は、イワバという都市に住んでいる。イワバは、森と湖に囲まれたとても綺麗な都市である。


 ちなみに綾香の名はルーシーという。


 ウィスト家の妃は、桜子が転生したお姫さまだった。名前はソフィア。


 この地とオレグとの繋がりは、まだまだ先になる。(約30~35年先)

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 ソフィアと共に、この街と領主さまへの美辞麗句を述べていると、一人の綺麗な服装の女性が近寄って来た。


「あら? あんたたちは……? 旅人かえ?」

「いいえ、私たちは農機具を販売して回る、ハンザ商人ですよ。」


 ソフィアがオレグに代わって返事をする。初対面の女には女がいいのだ。これは、ソフィアの役目である。ごつい男にもソフィアさまだが……。


「それはそれは、ご苦労さまです。ゆっくりとこの村をご散策されて下さい。」

「はい、そうさせて頂きます。」

「ねぇ、オレグ。あの女性ひとに村長とか領主について尋ねないの?」

「最初からは、ダメだよ。ここは大きいからね。トチェフみたいにさ、直ぐには会えないさ! ね?」

 

(三十年後、ノガト川上のマルボルク城を中心に栄え出す。ドイツ騎士団が1274年に建てた都市だ)

 

 オレグらの四人は街の中心部へと進んだ。約一名が苦情を言っているが、三人は無視している。ノガト川に出て南へと登ると、橋が架けられていた。


「凄いな、橋が架けられているぜ!」

「ホンとね。リリー、飛んでこの周囲を見てくれないか。」

「OK! 待ってて。」


 リリーの偵察は直ぐに終わり、降りてきた。一望しただけで分かるのだった。


「ノガト川向こうに、すごーく農地が広がっているよ。南には大きな森が在る。そして、街はさっきのところが中心みたい。」


「おう、リリーありがとう。」

「オレグ、この後は何処に行くの?」

「領主さまの館に行ってみるか。先に挨拶を済ませないと、捕まるかもな?」


「なによ、それ。本当なの?」


「それはそうだろう。俺の土地で勝手に商売しやがって~、だろう?」

「あら、そう言われると、そうだわ。自分の土地で他人が商売するのは嫌い。」

「だろう? リリー、また頼むよ。今度は鏡魔法だ。領主の館の偵察を頼んだよ。」

「OKよ。ソフィア、手鏡を出して頂戴な!」


 リリーはソフィアの手鏡に入って消えた。


「ノア、俺らはここで昼食にしようぜ! 荷物を解いてくれ。」

「あいよ、これでいいか。」

「おう、ソフィア、食べようぜ。」

「リリーが可哀想!!」

「アップルパイだけ残しておけばいいさ!」

「そうね。他はノアの餌食になるね。」


 オレグは…… 返事をしない。もうここでの商売の行く末を考えているんだろうと、ソフィアは思った。




*)領主代行


 リリーの報告だと、この館にはイワバの役人が常駐している。領主代行と役人、それに下女だろうか。メイドさんには見えないという。


 この顔ぶれだけでもオレグは凄いと思った。リリーの魔法は進化した。ソフィアの手鏡から向こうの世界が見れるようになっていた。ただし、リリーと同じようには見る事が出来ない。あくまででも鏡の正面だけである。


「ペッパーはもういいかな。オレグ、どうするの?」

「領主代行とだけでも挨拶をしよう。この手土産を持ってさ。」


 ここまででオレグは、この街との意思疎通の方法を考えていた。とりあえず船! だ。船を建造して交易を始めたいのだから。この夢を実現させたく思う。


 館の番人か? 出てきた男に領主代行への取次をお願いした。


「私たちは、ハンザ商人でございます。領主代行のお役人さまにお会いしたくて参りました。私はオレグといいます。妻はソフィアといいます。」


「はい、かしこまりました。今、ご主人さまに取次いたします。」

「はは、執事さんのようだね。」

「執事さんも居るのね。ここの町は豊だと予想されるわね。」


 オレグら四人は大きな部屋に通された。綺麗な部屋ではない。大きなテーブルと小さなテーブルが三つ在る。椅子はおおよそ十人分だろうか。


「あらら、あんたたちでしたか。どうでしたか? この村は。」

「ええ、とても素敵な街ですね。とても気に入りました。」

「それは良かった。もうすぐ主人も出てきますわ、先にワクスを飲んで喉を潤していてください。」


 そう言って女性は下がっていった。下女が応対しないのは、主人のもてなしなのだろう。


「ワクスとは恐れ入った。もうここでは飲まれているのか。」

「ううん、違うわよオレグ。このコップを見て! とても綺麗だわ。」

「だからなんだよ。意味が判らないよ。」

「そうぉ? オレグは気づいているでしょう。」


 リリーとゾフィは、オレグとソフィアの顔を交互に見ている。二人の会話が理解出来ないからか。


「ああ、そうだな。ここに来る人はあまり居ない。ワクスも沢山注がれている様子もない。おまけにワクスはやや古い? かな。」

「そうね、あと一つ追加するね、ここの主人は強者よ。損得勘定が優れていると、思って頂戴!」


 ソフィアの見立ては正解だった。人を見て出すワクスを選ぶような人物では無くて、公明正大な人格の持ち主だった。第一に主人の奥様を見ればわかるだろう。


「これはこれは、遠路はるばるご苦労さまです。私は、エルブロと申します。」

「いえいえ、今日は突然の訪問をお許し頂きまして、ありがとうございます。私はオレグと申します。こちらは妻のソフィアと言います。」


「で? そのお二人は?」


 オレグは返事に窮した。ついうっかり下を向いてしまった。エルブロはすかさず次の言葉をオレグに投げた。


「ソフィアさまのご姉妹でしょうか? 女のお子さんは実にソフィアさんに似ていらっしゃいます。」

「はい、一人はそうですが、一人は兄の娘なのです。どのように説明をしようかとつい考えてしまいました。」


「これはすみませんでした。つい立ち入った事を尋ねました。お許しください。」

「いいえ、うちの主人は頭が良いのか悪いのかが、よく解らない人でして、常にお仕事の事しか頭にないんですよ。ホンと、私も困っていますわ。」


 ソフィアからフォローはもらったが、うそだと思われているだろう。オレグは再度気を引き締めてかかる事にした。


「はは、すみません。第一に子連れで行商とは、いつも変に見られていますので、ついつい考えてしまいました。こちらがリリー、そしてゾフィです。」


「よろしくお願いします。」


 二人はスカートのすそを少し撮んで頭を横に倒して挨拶した。


「ホッホッホ~!」


 領主の高笑いである。


「ここは素敵な街ですね~。とても気に入りましたわ。」


 ソフィアは本当に感嘆してこの街の事を褒めているが、領主はお世辞と思ってしまう。これは今までがそうだったからである。


「いえいえ、まだ村でしかありません。街にはほど遠いというのが実情です。」


「とんでもございません。今私たちはトチェフに滞在して、村おこしのお手伝いを行っております。水車小屋とか長屋を百戸建設するとか、ビスワ川に港を造ろうとか計画している所です。」


「おお、それは素晴らしい。オレグさん、是非とも成功させて下さい。ここからも建設物資をお出ししてもよろしいですよ。」

「はい、ありがとうございます。今はグダニスクから購入いたしておりますので、すぐに必要という事はありませんが、来年には是非ともなにがしかの購入を検討いたします。」

「はい、お願いしましたよ。」


「ええ、必ずに。あ、ビスワ川には橋を架ける財力が有りませんので、渡し船を通す予定でおります。これだけはお許しをお願いしたのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、それは必要な事ですね。物資輸送には通路が必要です。いちいち海にまで出ているのであれば、不経済ですもの。」


 等々、オレグとエルブロは長話しを続けていた。



「オレグさん、今日はここにお泊りでしょうか?」

「いいえ、領主さまに挨拶をしましてトチェフに帰ります。」


「それは残念です。いかがでしょう、お泊りになられませんか?」

「今日はこの街の見学だけの予定です。次回はぜひとも会見とお取引のご案内を申したく存じます。」

「そうね、オレグ。あまりお世話になるのは心苦しいわ。」


「では、私からの提案です。ご一家は宿泊費をお支払い頂いてお泊り下さい。私は、オレグさまの持参されている農機具をすべて購入いたします。ついでにオレグさまには、私ども夫婦の接待をお願いします。」


「ほえぇ~~?」

「あ、いや、それは、その…… 」 

「…… …… 」


 オレグとソフィアは主人の言葉に戸惑った。返事に窮したのだ。この主人は人を驚かせるのにけている? のかとも思った。ここでリリーが、


「ねぇ? お父様、お姉さま。ここは素直に言葉に甘えたらどうでしょうか?」

「お父様?」

「いやねぇ、オレグ。それは言葉のあやですよ。突っ込む所が違いますよ。」


 ソフィアはリリーの意見に賛成するかのようだった。俺は少し考えてみた。

(ほにゃらかこにゃらかとればしかれんしら)


 多分この領主はオレグを気に入ったのだろう。真っ直ぐに商売の事しか話さない。今までは普通にお世辞とかおべんちゃらの言葉しか言わない連中だらけだったのだから。それらの過去の経験から、エルブロは人を見る目が出来たのだった。いや、ソフィアを気に入ったようだ?。?……



「嫌ですよ、そう警戒されないで下さい。そうお願いしているだけですので。」


 先ほどのご婦人が入室してきた。


「やれやれ、やはりこういう事になりましたか。すみません、私がつい、つまらない事を申してしまいましたから。」


「いや、ワシには大切な事だよ。ピアスタさまをお世話したお前なら分るだろう。」

「そうですね、よく解ります。私はエルブロの妻のべマと言います。よろしくお願いします。」


「いいえ、初めに言葉を掛けて頂きました。ありがとうございます。」

「おや、なんだい、先に会っていたんだね。」

「え、そうですわ。ついつい声を掛けてしまいました。」


 これは、ピアスタの母がソフィアという。双子の乳母がこのベマだ。そして、今のソフィアが双子の母のソフィアに生き写しのように似ていたからだ。この二人のソフィアは性格も似ているようなのだった。


 双子の娘が成人して、乳母の役目は終わり、直近の侍従からここマルボルクの統治を任された、というのが事実だった。


 ひとえにこの主人と面会出来たのは、ソフィアのお蔭だったのだ。普通ではやはり断られている。 



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