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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ

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第21部 ソフィアとソフィア 

 1241年5月16日 ポーランド・マルボルク


*)ソフィア


「やれやれ、やはりこういう事になりましたか。すみません、私がつい、つまらない事を申してしまいましたから。」


「いや、ワシには大切な事だよ。ピアスタさまをお世話したお前なら分るだろう。」

「そうですね、よく解ります。私はエルブロの妻のべマと言います。よろしくお願いします。」


「いいえ、初めに言葉を掛けて頂きました。ありがとうございます。」

「おや、なんだい、先に会っていたんだね。」

「え、そうですわ。ついつい声を掛けてしまいました。」


 これは、ピアスタの母がソフィアという。双子の乳母がこのベマだ。そして、今のソフィアが双子の母のソフィアに生き写しのように似ていたからだ。この二人のソフィアは性格も似ているようなのだった。


 双子の娘が成人して乳母の役目は終わり、直近の侍従から出世した夫と共に、ここマルボルクの統治を任された、というのが事実だった。


 ひとえにこの主人と面会出来たのは、ソフィアのお蔭だったのだ。普通ではやはり断られている。 


「ほら! あなたたち、観念して今日はお泊りなさい。」


「明日も明後日も泊まられていいですぞ。ホッホッホ~!」

「…… ? ……」


まだまだオレグとソフィアには判らない。領主代行夫妻の言葉の節々にはヒントがあるのだが、そのような事とは理解が及ばない。


「ベマ、執事を呼んでおくれ。」

「はい、分かりました。」


「おう、オレグさんから農機具を買ったのだ。代金のを払う。金貨で五枚を持ってきてくれないかい。」


「ほえぇ~~?」

「あ、いや、それは、その…… 」

「…… …… 」

「そう何度も同じ事を言ってはダメです。代金は受け取って頂きますよ!」

「はい、ありがとうございます。」


「では、オレグさん。執事に付いて行って下さい。農機具の移動をお願いします。また夕食の時にお会いいたしましょう。」


「はい、分かりました。」


 オレグたちは引き続きマルボルクの見学をして回った。ソフィアはホクホクの笑顔だ。リリーも喜んでいる。ソフィアからおこぼれを狙っているのが見て取れるのだ。ゾフィは別段興味は無い。約束の時間までオレグは街を見て考えた。



 約束の夕方に館を訪問する。直ぐに執事が出てきた。


「さ、オレグさま、ソフィアさま。こちらへお願いします。」


 オレグたちは広いダイニングへ通された。


「お疲れ様でした。どうですかこの村は。」

「はい、やはり私には街にしか見えません。とてもとても村とは呼べません。ですが、まだまだ発展の余地は残されています。」

「それはそうでしょう。私もこの村の発展は願っておりますのですよ。」


「さ、ソフィアさま。お席にお着き下さい。それと、ご家族の方もどうぞ。」


 ここからは、ソフィアの名前がオレグよりも先になる。


 食卓のサイドテーブルには、鳥や豚の肉料理が置いてある。この大きい肉の塊を主人のエルブロは、器用に切り分けている。


「さ、あなたたちも入ってらっしゃい。私たちの家族を紹介いたします。長男のユゼフ。そして、長女のグラマリナです。」

「ソフィアさん、よろしくお願いします。」 


 長男のユゼフは大人だ。エルブロの仕事を手伝っている。長女のグラマリナはとても綺麗なご婦人だ。歳は二十五歳と二十歳だ。


 そして遅れて来たのが、ユゼフの嫁・バーシアだ。この夫人もとても綺麗で俳優さんの卵だったという。二十一歳。


 執事は、ギュンター・グラス。五十一歳。


 ユゼフとグラマリナは、ソフィアを見た瞬間に驚いた表情をして見せた。


「ほら、お前たち、そこに立ってないで座りなさい。何も驚く事はないよ。」


「はい、お父様。でも、あまりにもソフィアさまに似ていらっしゃるわ。」 

「そうだね、グラマリナ。」

「お父様も早くナイフで切り分けてください。手が止まっていますわよ。」

「おう、これはすまん。お腹が空いたであろう。ホッホッホ~!」


 エルブロは機嫌よくナイフで切り分けている。クロパンに乗せられて、各自に肉が配られた。そして、大人にはビールも置かれていった。


 給仕には二人の夫人が担当した。召使の女は一度も顔を見なかった。エルブロは力の誇示はしない人だ。


「さ、ソフィアさま、お召し上がり下さい。」


 エルブロは女性の肉だけはこま切りにしていた。にくい配慮だ。肉だけに。


「オレグさんもビールを飲んで下さい。」

「お嬢様には、ワクスをどうぞ。」


 と、それぞれに注がれて、ビールは多く飲み干されていった。オレグの世間話しや、エルブロの過去の話しなどが飛び交った。


「さ! ソフィアさま、こちらもおいしいですよ?」

「ソフィアさま、もっとお飲みになってください。」

「ソフィアさま~…… 」



*)経済論争



 やや? 酒がまわり出した頃に、


「オレグさん、この村の発展には、何が必要だと思われますかな?」


 キター! オレグはこの言葉を今か今かと待っていたのだ。


「はい、運河による交易かと思います。ヴィスワ川には立派な橋が架かっておりますが、ライ麦の輸送に馬車とは、いささか能率が悪いでしょうか。ここはヴィスワ川に港を造って運河輸送されましたら、能率が上がります。」


「やはりそうですか。船の建造はできませんので、困ってもおりました。オレグさんはどうされましたか?」

「はい、私も造船は出来ませんので、船一艘丸ごと雇いました。」


 エルブロ・ベマ・ユゼフの三人は顔を大きくして驚いたようすだ。オレグは続けて、


「トチェフにも港を造ると申しました。とりあえず船は一艘ですが、後は傭船で賄います。」


「他に、この街で特産品とかを作って、輸出すればよろしいかと思います。」


「そうですか、ここではウィスト家のある、大都市ビャウィストクに送るだけですので、そうそうにはお金が入って来ません。」

「ライ麦と家畜を送るだけなのですか?」

「そうですね。税金という意味もありますが、金貨で払うよりも現物で納める方がやや有利に取引が出来ます。」


 オレグはピーン! ときた。エルブロは商売という意味を知らないのだ。これはライ麦を他国に売って金貨を稼ぎ、その中の金貨で納税すれば、村が豊かになるとは、考えが及ばないのだと。


 オレグには、この街が金貨に見えてきたのだ。


「では、私がライ麦を買い上げましょう。ライ麦の輸出量とそれに差支えがなければ、ウィスト家に送るライ麦の量と金貨で納めるとしての納税の金額をお教え頂ければ、私の方で計算して、購入金額を提示いたします。」


「むむむ。なぁ、ユゼフ。この村からウィスト家に納める金貨の枚数は計算が出来るかい?」

「はい、お父様。最低の収穫で、金貨四百枚、収獲が多ければ+収獲の一割ですから、金貨で十~五十になります。」


「あと一つ訊いてよろしいでしょうか。ウィスト家には金貨だけで支払うのは可能でしょうか?」

「はい、それは可能でしょうが、先にお伺いをたてませんいけません。いきなり金貨で納税しましたら、ビャウィストクの食料と経済が止まってしまいます。」

「そうですよね。では、エルブロさま、それに、ユゼフさま。今年のライ麦の収穫が判りましたら、一緒にウィスト家に参りましょう。そして、今年の納税手段の変更をお願いするのです。」


「そうですな。」

「とりあえず、ライ麦の五割から始めませんか?」


 オレグの目が爛々と光り出した。オレグのこころでは、(ここのライ麦の半分を買い取って輸出すれば、金貨で三百枚にはなる。これを二百二十枚で購入すれば、金貨で八十枚が利益になる。船輸送で経費が 金貨で二十枚。残りは六十枚の丸儲け!!)


 当らずとも遠からず。後日、利益は簡単に出たのである。


「そうですな。五割から話してみましょう。六月にはウィスト家の当主さまにお会いしますので、その時にお話をいたします。」


「はい、お願いします。すると、私からは税金の半分の金貨・二百二十枚で支払う事にしましたら、大丈夫でしょうか。」


 エルブロに代わりユゼフが答えた。


「ウィスト家にはライ麦の半分と金貨で二百三十枚で頼みます。収獲での変動は無しの前年と同一としましたら、……」


 ユゼフは考えている。


「ウィスト家には、ライ麦の四割と家畜の全量を。残りは金貨で二百枚で済むかと思います。お父様、いかがでしょうか、」


「なぁ、ユゼフ。オレグさんに購入してもらって、残りが金貨三十枚か。」

「はい、そうですが、ライ麦をオレグさんには可能な全量を販売できれば、金貨三百枚で出来そうです。金貨で三百枚が手に入ります。」


「金貨で三百枚? そんなに多くか!」

「お酒に酔っておいでですね。金貨三百枚から税金の二百枚を支払いますから、残る金貨が百枚です。昨年に比べて金貨が百枚ですよ。」

「ああ、百枚でも手元に残ればこれはもう、一大事だな。」


「はい、農民の税金を一割ででも下げてやる事が出来ますよ、お父さま。」

「それはいい。農民は喜ぶだろう。」


 デンボウスキーの二人は喜んでいる。あ、苗字はデンボウスキーという。


「待って下さい。この残る金貨は全部留保されて下さい。今後の不作とか、建物の普請とかにお使い下さい。税金を下げる手段は一番最後にします。」


 グラマリナは、


「お父様、私もオレグさんの意見に賛成します。農民の税金を下げても、村は発展いたしません。今までのお父様のやり方では、私たちの食事もままならなくなってしまいます。」


 今度はオレグに向かって、


「お恥ずかしい事をお聞かせして、もう、恥ずかしい限りです。顔から火が出そうですわ。」


「ああ、オレグさん。申し訳ない。」

「いいえ、とんでもありません。恐らくは、どこの領主さまも同じだと、思いますよ。トチェフのエリアスさまは、村が貧しいので今でも無税のままです。」


「そして、このポーランドは、今後は大きく成長していきます。それは今後からドイツ騎士団が多くの農地を統制・管理すると思われます。この騎士団から街を守るためには、とにかく先にこの街が豊かになっておく必要があります。」


 オレグはいつもにも無く熱弁をふるった。エルブロとユゼフは納得した。それは、ここの領主とドイツ騎士団の仲が悪いからだった。ドイツ騎士団は、この地もイワバも、本家の大都市エルブロンクすらも、管轄に収めたかったからだ。


 翌日にはトチェフに戻った。

「さぁ、船着き場を作るぞ~」


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