その9 わがままエマ(1)
今回は、新しい友達、子猫の妖精エマの登場です。
でも、このエマ、ちょっと困ったさんで、ハナハナも手を焼いています。
さてさて……
パッセルベルのトネリコ枝3丁目に、エマという子猫の妖精が両親と一緒に住んでいま
す。
エマは9歳、銀色の毛がふわふわした、とっても可愛い女の子です。
お母さんのナニィも娘の可愛いのが自慢で、周囲の人もそう言います。でもそうやって
誉められる事が、ちょっとエマをわがままな子にしています。
いつものように洗濯物を干しているミィミとハナハナの側で、その日は珍しくモモがお
人形遊びをしていました。
「……そうしたら、うさちゃんが遊びに来ました。『まあモモちゃん、今日はとっても可
愛いわね』『まあありがとう、うさちゃん』」
モモが持っているお人形は、ふたつともミィミが作ってあげたものです。そのうちひと
つは、モモに似せて、クリーム色の毛をした子猫の妖精の人形でした。
「モモはそのお人形、大好きね?」
靴下を干す手を止めて、ハナハナはモモの仕種に笑いました。
モモは大きく「うんっ」と頷き、子猫の人形を抱き締めました。
「モモね、モーちゃんがお人形の中でいっちばん好きっ」
「モーちゃん?」
「うん。モモの妹だから、モーちゃん」
なるほどね、とハナハナはまた笑いました。
「ハナハナ、悪いけど薪の側にあるあのもうひと篭、こっちへ運んでくれる?」
ミィミに頼まれて、ハナハナは「はぁい」と洗濯篭を取りに行きました。
「あっ、モモもお手伝いするっ」
モモがふたつの人形を座っていた枝に置いて、ハナハナの後を追い掛けて来た時。
「こんにちは〜」
可愛い声と共に、エマが家の横からひょっこり顔を出しました。
「まあエマ、いらっしゃい」
ミィミが微笑みました。それに対して、エマはスカートの裾をちょっと摘んで膝を折る、
人間の女の子がするお辞儀をしてみせました。
とっても可愛い笑顔でしたが、ハナハナは少し嫌な気分になりました。
エマが大人にはいい子振るのは、パッセルベルの子供達はみんな知ってる事です。
——何しに来たのかなぁ。
ハナハナがそんな気分でいるのもお構いなく、エマはどんどん裏庭に入って来ました。
見ると、左腕に大きめのバスケットを下げています。
「あのね、昨日父様がお仕事からお帰りになって、エマにお土産をたくさん下さったの。
人間の街の珍しいおもちゃなんかがあるから、ハナハナとモモにも見せたくって」
「あらそう」どうせ自慢したいだけなのは分かってるんだ、などと思いながら、ハナハナ
はわざとにっこり笑いました。
エマはさっきまでモモがお人形遊びをしていた枝へ、さっさと座りました。
モモが大事に置いておいたふたつのお人形を乱暴に横へ退かすと、自分が下げていたバ
スケットを、そこへどん、と置きました。
「あー……!」
モモは怒った顔をして、小枝の方へ退かされた自分のお人形を取りに行きました。
ハナハナは洗濯篭をミィミの側へ運ぶと、モモのところへ行きました。
「大丈夫?」
「うん」お人形を抱えたモモは、ハナハナに頭をそっと撫でられ悔しそうな顔で頷きまし
た。
そんな二人の様子など全く目に入っていないエマは、いそいそとバスケットの中から自
慢のおもちゃを出して並べています。
「ねえっ、これ可愛いでしょ? ガラスのネックレス。こっちは指輪。この小さいのは粘
土のうさぎのお人形。とってもきれいでしょ?」
「……そうだね」
得意になって説明するエマに、ハナハナは気の無い返事をしました。
「それからこれはね……」
「私、まだお姉さんのお手伝いが残ってるから」
ハナハナはモモの肩をぽんと叩いて、ミィミのところへ戻りました。
モモは、どうしようかな、と一瞬迷いましたが、エマのおもちゃにも興味があって、そ
の場に残りました。
「ふうん、母様のいない子は大変ね」
ハナハナは瞬間、エマをひっぱたきたい気持ちになりました。くるりと向きを変えて歩
き出そうとする妹を、ミィミが止めました。
「だめよハナハナ。喧嘩はダメ。笑って『そうね』って言っておきなさい」
ハナハナは姉の言葉に怒りをどうやら堪えました。
と、モモが言いました。