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その4 キッパとルウ(7)

 大枝の上では、すっかりテントが片付けられていました。

 玉乗りの玉も空中ブランコの大道具も、みんな大きな荷馬車の中に収められて、何にも

ありません。

 少し前から今まで住んでいた家を引き払ってテントに移っていたキッパとルウも、もう

すっかり荷造りして旅支度を整えていました。

 トーベルさんが長老に挨拶に行っているということで、一座の人達は荷物番をしながら

帰りを待っていました。そこへ、ハナハナ達は行きました。

「キッパ」

 荷馬車の後ろに居たキッパとルウを見付けて、ハナハナが声を掛けました。

「よお」

「いよいよ、出発だね」

「ああ。——なんだ、小ちびねずみみっつも一緒かよ」

 ハナハナの後から来たリック達兄弟を見付けて、キッパはいつもの調子で悪口を言いま

した。

「なんだとっ! でくのぼーバカ猫っ!」

「言ったなっ!」

「もうっ、キッパもリックも喧嘩しないのっ。リック、そんなことで来たんじゃないでし

ょ?」

 ハナハナが止めると、リックはふて腐れた顔で「うん」と頷きました。

「キッパ、弟のマックがおまえとルウに謝りたいって」

 言うと、リックは一番後ろに隠れるように立っている末っ子を見ました。

 マックは兄に見られて、もじもじと後ずさりしました。それを、2番目のニックが腕を

掴んで前へ押しやります。

 マックは怯えたように顔を上げると、また俯いてしまいました。

「ほら、ちゃんと自分で言え」

「う……、うん」

 頷くと、マックは覚悟を決めたように、大きく息を吸い込みました。そして、

「ごめんなさいっ!」

 勢い良く頭を下げました。

「あの時……、僕がルウをブランコから落とさなかったら、ニニィおばさんは死ななかっ

たかもしれないって……。お葬式の時からずっと考えてて……。だから、絶対キッパとル

ウに謝らなくちゃって、僕……」

 最後の方は、マックは涙声になってしまいました。

 ぐすぐすと鼻を鳴らし始めた子ねずみの肩に、ハナハナはそっと手を置きました。

「マックね、ずっと落ち込んでたんだって。だから……」

「——ああ」

 キッパはがりがりと頭を掻きました。

「それ、違うって。モルガナ婆さんが言ってたけど、母さんは昔魔物と戦った時に毒が身

体に入って、もう助からなかったんだ。だから、おまえのせいじゃない。ルウの怪我がな

くっても、きっと、もう……」

「キッパ」

 ハナハナには、キッパが精一杯悲しいのを堪えてしゃべっているのが分かりました。

 ハナハナは、思わずキッパの手を握りました。

「キッパって、大人だね」

「よせやい」

 キッパはちょっと赤くなりました。

「他所の街へ行っても、元気でね」

「おう」

 じゃあな、と、キッパがルウを促して、荷物番に戻ろうとしました。

「おい、キッパ」

 リックが呼び止めました。

「なんだよ、まだ喧嘩してえのか?」

「ちげーよっ。——これ」

 リックは、だぶだぶの胸当て付きズボンのポケットから小さな木彫りを出しました。

 それは、猫の妖精の人形でした。よく見ると、どことなくニニィに似ています。

「これ……?」

「トーベルさんに習って彫った。おまえにやる」

 キッパはリックの手から人形を受け取ると、じっと見詰めました。

 そして不意に後ろを向くと、片手で顔をごしごしと擦りました。

「兄ちゃん……」

 ルウが、ぐすっ、と鼻を啜りました。

 キッパはうん、と頷くと、くるりとリックに向き直りました。

「有り難く、貰っといてやるよ」

 強がって言った目が真っ赤だったのを、ハナハナは見ました。

「今度こそじゃあな」

 そう言うと、キッパはルウの手を取って、荷馬車の方へ戻って行きました。

「行こう」

 リックはハナハナと弟達にそう言って、歩き出しました。でも、南の大枝の根元まで来

た時、リックはふと足を止めて振り返りました。

「キッパっ!」

 リックが大声で呼ぶと、キッパとルウが荷馬車の陰から出て来ました。

「もう二度とパッセルベル戻って来んなっ!」

「うるせえっ! だーれがバカねずみの居る村なんかに戻って来るかっ!」

「もぅっ、二人ともっ!」

 ハナハナは怒りました。でもキッパとリックには聞こえていません。

 普段の喧嘩の時のように、お互い「べーっ」と舌を出しましたが、キッパもリックも、

すぐに手を上げて振り合いました。

「たまには、手紙寄越せよっ!」

「おまえもっ、返事出せよっ!」

 キッパは再び馬車の陰に隠れました。リックはゆっくり手を下ろすと、ほうっと大きく

息をつきました。

「さあ、帰ろう」

 弟達の背中を叩き、ハナハナににっこり笑い掛けました。



 ハナハナは家に帰ってその話をミィミにしました。

「ほんと、男の子ってわかんない」

 ハナハナはぷっと膨れて言いました。

「だって、友達と離れるのが悲しいならそう言えばいいのに。なんで素直に言えないの?」

 ミィミはうふふと笑いました。

「そうねぇ。……そう言えばティーヴにもそんな喧嘩仲間が居たわ。スティンキーって言

う、イタチの妖精の子だった」

 ミィミは、さやえんどうの筋を剥きながら、懐かしそうに言いました。

「へええ。イタチの妖精って、珍しいね?」

「ええ。緑龍渓谷には少ないわね。スティンキーも11歳くらいまでパッセルベルにお父さ

んと住んでいて、で、お父さんのお仕事の都合で遠い街へ行ってしまったのよ」

「ふうん。でやっぱりティーヴもリックとキッパみたいな事したの?」

「やってたわよ」

 ミィミはまたくすっと笑いました。

「やっぱり派手に『べーっ』って舌出して。でもほんとに別れる時にはお互い抱き合って

泣いてたの」

「ふうん」

 ハナハナも、さやえんどうの筋剥きを始めました。

「やっぱり、男の子ってわかんない」

 口を尖らせたハナハナに、ミィミは「そうね」と微笑みました。


 その4 キッパとルウ 完

その4 キッパとルウは、これで終わりです。

いかがでしたでしょうか?


次は、ちょっと息抜き。

パッセルベル村の、ご近所案内です。

いろんな村人(村妖精?)がいます。

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