その1 村の泉(2)
その日も、ハナハナはピンクのエプロンをつけてバケツを銜えて、勢い良く泉に駆け降りて来ました。
でも、どうしたことか、いつもい来ている人達が誰も来ていません。
「みんな、どうしたのかな?」
ハナハナは周りを見回しました。すると、トネリコの太い幹の脇から生えた若枝の葉の陰から、子ねずみのマックがちょこんと顔を出しました。
ハナハナは急いでそこへ行きました。
「どうしたの?」
「泉の中に、気持ちの悪いものが沈んでるの」
リックの後ろの枝から、マーマおばさんが顔を出しました。
「おばさん」
「ああハナハナ。今は泉に近付いちゃダメよ。悪いものが入ってしまったからね」
「悪いものって、なあに?」
「魔王の手下だった、黒い妖精よ」
「魔王って、だあれ?」
「魔王は昔、この世界を一人占めしようとした悪い奴よ。その手下だった黒い妖精も、私達や外の人間達を散々苦しめたのよ」
「黒い妖精って、じゃあ今も悪いの?」
「今はそんなに悪くないけど、でも昔は悪かったのよ」
「ふうん」
危ないって言われると気になります。
ハナハナは更に聞きました。
「黒い妖精は、泉の中で何をしているの?」
マーマおばさんは、真っ黒な目を二、三回ぱちぱちすると、ハナハナを困ったように見上げました。
「何って…。今は寝ているわ」
「ふうん」
寝ているなら、起こさないないようにすれば大丈夫じゃないのかな。
悪い妖精を少し見てみたい気になって、ハナハナはとことこと泉の方へ歩き出しました。「どこへ行くの? ハナハナ」
「黒い妖精さんを見に」
「まあ、なんてことっ!」
おばさんは慌ててトネリコの葉の陰から飛び出して、ハナハナの手を引っ張りました。




