その1 村の泉(3)
「そんなことをして、妖精が起きたら危ないでしょう?」
「でも、今はねてるんでしょ? 起こさないようにそっと見るわ」
「ダメダメ。もし起きたら危ないわ。行ってはダメよ!」
「そうだよ、ハナハナ」
マーマおばさんの後ろから、シマリスのボッヘさんが顔を覗かせました。
「黒い妖精は、それはそれは恐ろしいんだ。わしやマーマおばさんでは、もし妖精が起きて、
怒り出しでもしたら戦うことは出来ない。とても適う相手じゃない。だから、今木ねずみの
子供達二人に長老を呼びに行ってもらっているんだ」
「長老さまなら、黒い妖精に勝てるの?」
ボッヘさんは、自分の事のように胸を張りました。
「長老さまはその昔、悪い龍がこのパッセルベル谷を荒し回った時、たった一人でその龍と
対決なさって勝った方だ。黒い妖精くらい、簡単だよ」
「ふうん」
ハナハナは本当かなぁ、と首を捻りました。だって長老さまは、いつもトネリコの木の一
番上のお家の前で、居眠りばかりしているからです。
こっくりこっくり眠っている長老さまは、とても強くは見えません。
「ねえおばさん、長老さまは何時来るの?」
マーマおばさんは目を細め、尖った鼻を上へ向けてくんくんと動かしました。
「もうそろそろじゃないかしら」
「あ、戻って来た」
マックが上を見上げた時、トネリコの木の上からぴょん、とリックとニックが飛び下りて
来ました。続いてもう一匹。そして最後にのそのそと長老さまが幹から降りて来ました。
長老さまは真っ白な長いヒゲを生やした、大きな猫の妖精です。右手に持ったトネリコの
枝で作った杖をぐっと地面に立てると、よっこらしょ、とやや曲がった腰を伸ばしました。
マーマおばさんとボッヘさんは、長老さまに丁寧にお辞儀をします。
「お待ちしてました」
「うむ。して黒い妖精は? まだ泉の中かの?」
「はい。全然出て来ようとはしておりません」
長老は、ゆっくり泉の方へ向きました。




