8.帰宅
視点戻ります。
彼女は、俺の後ろをついてきた。
まばらにある街灯。
それが並んでいる奥の暗闇の中にある、
浮遊しているように見える光。
それが、俺の帰る場所。
彼女の、帰る場所。
この町の人々が集まる場所。
彼女は、何かを抱えているようだった。
時折、気を失くしたようになり、
遠くを見つめていたりと、
変な感じだった。
過去に何があったのか、
それは、訊くべき事ではない。
会ったばかりの人に話すことではないだろう。
ただ、俺は心配だった。
彼女がそのことで、
いっぱいいっぱいにならないだろうか。
耐えられなくなって、
全てを棄ててしまわないだろうか。
そのままにしていたら、
そうなっていたかもしれないから。
知らない場所でも、
そうなるかもしれない人を放っておけなかった。
後々後悔したくなかった。
だから、これは正解なのだろう。
そう、自分に言い聞かせた。
いつの間にか、
マンションはすぐそばにあった。
「ついたよ」
そして、エレベーターに乗った。
彼女は、ずっと外を見ていた。
ただただ広がる暗闇を、
降り注ぐような星空を、
それの奥にある何かを。
そうしているのも束の間で、
俺たちは部屋に着いた。
1人暮らしには少し広い2LDK。
寝室と、物置と化した部屋。
荷物を置いた後、
彼女にシャワーを浴びせた。
「こんな服で我慢してくれ」
あいにく女物の服はなかったので、
俺の服を貸した。
少しぶかぶかだったけど、
支障はないはずだ。
「うん…」
すると彼女は、俺のベッドに横になった。
そして、直ぐに眠りにつく。
寝床を失った俺は、ソファーに横になった。
そうすると、考えてしまう。
この状態を続けてはいけないと、
元のあるべき形に戻さなければいけないと。
彼女は何処から来たのか。
何故この町に来たのか。
頭の中を、脳を、かき乱した。
それでもその方法は、
いくら考えても分からなかった。
彼女は寝息を立て、
気持ちよさそうに寝ていた。
リビングに戻り、空を見た。
そこには、彼女が眺めていた何かがある。
その何かを、俺は理解できるのだろうか。
理解できなくても、
多分俺は、求め続けるだろう。
元の名前も、
出生地も知らない、彼女の為に。