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最果ての地で。  作者: 織瀬春樹
5章 二人
21/24

20. あの場所へ




美樹は微笑み、俺を見つめる。

その眼に、自分の顔が映っているのが見えた。


でも、それが実物でないと、

こんなにも恐怖を感じるとは思っていなかった。


そして彼女は指差した。


いつも寝ている寝室を。


そこに何かがあると、そう訴えかけるように。



俺はすぐにそちらへ向かう。


明かりをつけ、部屋を見渡す。


その部屋の端には、机がある。


美樹は、ほとんど使わない。


でも、その机の上には手紙が置いてあった。



俺はすぐその手紙を手に取り、

さっきのリビングに戻る。



「おい!あった……」



そこには、やっぱり彼女はいなかった。


持っていたみかんも元どおりにされていて、

元から誰もいなかったような状態だった。


やっぱり彼女は俺の幻覚。


疲れすぎていたんだ。



でも、この手紙は消えなかった。


それは、

この手紙が幻覚でないことを意味していた。


綺麗な字で書かれた、

『和人さんへ』という字。


嫌な予感はした。


でも、

それだけで止めてはいけないと思うから、


その手紙を、静かに開いた。




『和人さんへ


話せる状態じゃなかったので、

手紙に残します。

私は戻ろうと思います。

ここに来る前に居た場所に。

だから、今までありがとうございました。

今日の終電で帰ろうと思います。

半年もなかったけど、私は十分幸せでした。

本当にありがとうございました。



美樹 』





言葉は出なかった。


こんなにも、

呆気なく終わってしまうものなのか。


このまま何もせずにいたら、

本当に全部なくなってしまうのか。


俺はすぐに時計を見る。


終電まで、20分ほどしかなかった。


だから、すぐに走り出す。


自転車を出し、

精一杯力を込めてペダルを漕ぐ。


そして、向かう。

あの場所へ。


最初に出会った、

すすきが揺れていて、

海が見えて、

そして、この物語が始まった所に。




駅に着いた。


もう周りは暗くて、

駅だけが明るく輝いている。


自転車を雑に乗り捨て、ホームへ駆け出す。


そのホームの端の方に人影が見えた。


少し伸びたセミロングの髪に、

ワンピースを着た少女。


一人で静かに、

暗闇と化した海を見つめていた。



終電発車まで、残り10分。


その電車は、まだホームにはなかった。




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