表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての地で。  作者: 織瀬春樹
4章 変化
19/24

18. 灰色の世界




あの日のことは、夢だった。


そんな風に思っていた。


これからも、そう思っていたかったのに。




暫くしたある日の朝、

分厚い雲が、朝日の光を遮った。


今日は、広樹さんの告別式。


でも、実感なんてなかった。


参列をした。


お焼香もした。


でも、それでも本当に実感が沸かなかった。


ある時突然棺桶から出てきて、



『騙されたな!』



とか、言ってきそうだったのに、


待っても待っても全然そんなことはなかった。


近所の人たちはみんな号泣していたのに、


何故だか俺は、一滴も涙は出なかった。



出棺される直前。


棺桶に花を入れようと、俺は近づいた。


その中にあるのは、

息をしていない、眠っているような顔だった。


俺は、その顔をずっと見つめていた。



そして、出棺の時が来て、

棺桶にふたをされた。


そして何人かの手によって、

車の中に運び込まれた。


その瞬間、

俺は本当に広樹さんが死んだことに気づいた。




でも、遅すぎた。


車の扉は閉められ、もう棺桶すらも見えない。


その時の記憶は、確かでは無いけれど、


多分俺はずっと叫んでいた。



「広樹さん!出てきて!お願いだから!!」


「もう嫌だ!!俺の前からいなくならないで!!」


「広樹さん!!返事して!!

いつもみたいに笑って!!」



俺は、叫んで叫んで叫びまくった。


そして泣いた。やっと涙が溢れた。


車を追いかけようとしたけど、

周りの人たちに止められた。


振り切ろうとしたけど、

3人に押さえつけられてはどうしようも無かった。




やがて車が見えなくなって、

みんなが戻る頃になっても、

涙はずっと流れ続けていた。


止めようとしても、

もう止め方なんて分からなくて、


そんな気力なんてどこにも無くて、


だから、そのままでいた。


泣いていた時間は、永遠のようにも感じられた。


何人かは励ましてくれていたけど、

その言葉なんて耳に入る訳がない。


やがて落ち着きだした頃も、

涙だけは、ずっと流れていた。



地面は、そこだけ濡れていた。





家族を失った時、

俺はこの世界が灰色に見えたのを覚えている。


鮮やかな色なんてどこにも無くて、


全部、全く同じ色だった。


違う、色なんて無かったんだ。


でも、時間が解決してくれた。


家族の死を受け入れ、

これからは自分だけで生きていくんだと。


そして、少しずつ、色が戻ってきていた。


でも、続けて不幸が襲うとは思っていなかった。


また戻った、灰色の世界。


でも、それもまた受け入れなくてはならない。


失ったものはもう二度と戻らなくて、


そうなる事は、誰も予想できなくて、


それでも、心の準備も整わぬまま受け入れる。


それがどんなに辛い事か。


二度と経験したくは無かったけど、



改めて、嫌という程痛感した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ