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S.C.S.   作者: 麗羅
~海王中バスケ部は最強です~
5/19

四.合宿とか早いでしょ

「じゃあ、全員揃ったしミーティングの内容なんだけど。来週の連休で合宿をする事になった」

「「「「「えぇ――――― !?」」」」」

円堂と高尾先輩、氷室先輩以外は叫ぶ。皆息ぴったり過ぎて、逆に怖い。ミーティングの内容が合宿の話なのはいいんだけど、こんな時期にもう合宿とか、速くないっスか?別に私には関係ないッスけど。少し考えてると、高尾先輩が口を開いた。

「どことなの?」「白蓮と明燿学園です」「あそこか…」

氷室先輩に後から聞いたんスけど、明燿は赤沢達が中三の時、全国三連覇をかけた決勝で負かされた相手らしい。白蓮学園は、東京で有名な金持ちの子供が通う学校で、その時の全国三位だったらしいっス。


合宿場は白蓮高の部長さん(これまた高二)の持ってる所、なんだそうで。リューセーがそこに通ってなくて良かった。だって、通ってたら会えなかったんスもん。竜王財閥も日本有数の財閥なのになんで海王に・・・・・・・・って、始めは思っていたんスけど、白蓮はバスケが弱いからだと知ったときは爆笑したものだ。懐かしいなあ。


「明後日、日曜だから買出しにいこうと思うんだ。分担は有理に任せてるから、確認しといて。オレと涼は荷物番だから」

手回しが早いなあ。まあ、リューセーはもっと早かったけど。マリッチが手伝うって言っても、基本、全部一人でしてたし。そんなとこも尊敬してるし、私もできるようになりたいっス。なれるかなぁ……無理かもしれない。


「あと、今回。他の部活の合宿と被ったんだ。掃除とか洗濯、食事とか俺たちでして欲しいらしい。涼はもう一人のマネージャーと頑張ってね。他のメンバーも失礼の無いようにね」

「行きたくないっス……」「無理かな」「ちぇー」「レギュラーだけだから、ね」

自炊とか、金持ち校がさせることなんスか。しかも、たった二人でとか酷いっスよ。レギュラーだけでも二六人はいるっスよ!! もう少し考えて欲しいっス!! 私は悶々と考えていた。


時計を確認して、赤沢は皆を見回す。

「じゃあ、今日はこれで終わりだよ。今から練習も出来ないし、ストテニ行こうか」

「ストバスみたく、ストテニってものがあるの!? 初めて知ったっス……」

まあ、バスケがあるなら、テニスもあるのは予想できるんスけどね。さっきの試合(試合と呼べない一方的なものだったけど)の興奮が冷めやらないのか、ミーティングの後からのしかかってくる如月については考えたくない。ていうか、のしかかる事はあっても、のしかかられるのはつー以来なので、実はこそばゆい。


「でもさ、赤沢クン。涼は女の子だよ。遅くまでつき合わせるの?」

やんわりと五十嵐先輩からたしなめられる赤沢。確かに今の私は女だし、夜間出歩くのは危険かもしれない。それでも元男として、その気遣いはカチンときた。余計なお世話だ。

非常時は、鞄にいつも入れてるボール(帰りにいつもストバスに寄るから)を、顔面に向けて、思いっきり! 当てるだけっス!! 誰にも言うつもりはないっスけどね。

「俺たちが送れば平気だと思います」「でもさー」

赤沢が提案する。やっぱり女扱いスよね……否定はされてないだけマシだけどさ。

「赤沢! とっとと行こう! タクより頭固いって、どんだけ固いんスか!!」

どう言っても否定する五十嵐先輩には、もう我慢ができない。こんなに頭固い奴なんて初めてっスよ! あのバカ真面目なタクだって、もっと人の意見尊重してくれるス!!

「まあ、今からの試合を見てもらって、ルールを早く覚えてもらった方がいいと思います」

溜息を吐きつつ、そういった赤沢の言葉で、五十嵐先輩はようやく黙った。そして如月は、私のことをぎゅっと抱きついてくる。ぬいぐるみじゃ無いので、ぎゅうっとしないで!! ちょ、首が絞まるから!!

「涼センパイ! おれのプレー、よく見てて欲しいっす!」

抱きつかれることって、こんなに苦しかったなんて初めて知ったっス。……うぅ、ユウ今までごめんね! ここまでギュっとしてたつもりはないけど。


「そーいや、さっき言ってた『タク』って誰だ?」

「タクは私の中学時代のチ…レギュラーの一人なんスよ。頭良いけど、アホなんス」

「よくわからないがな」「だって本当なんスもん」

むぅ、と口を尖らせて見るが、村田は怪訝そうにするだけ。しかも数人、ほっとしたような顔するのやめて欲しいっス。失礼スね! 頭の出来は海王の七宝のうち三番目だけど、感情の機微、特に恋愛面に関しては疎かったり、からかわれると直ぐに詰まったりするんスよね。

「ほら、行くならそろそろ行くよ。遅くなったらコートが埋まるしね」

赤沢の声に、皆が一斉に荷物を持ち入口に向かう。鶴の一声っスね~。


駅前の、私がよく行くストバス場に着いた。そっちのコートでは中学生がバスケをしていた。いいなあ。目の前でバッと手を広げた如月が嬉しそうに叫ぶ。

「ここっすよ!」

いつものストバスとは隣接しているらしく、このテニスコートからでも見ることが出来る。何で気づかなかったんだろ? どんだけバスケにしか目がなかったんだ、私。でもま、いいとこだよね。

「へ~。意外とライトアップもしっかりしてて、設備良いスね」

「だろ? 無料の場所だし、休日もよく来るんだよな」

「テニス馬鹿?」「案外間違ってないかもね」

赤沢がクスクス笑い、コート内に入っていく。その表情は何処か楽しそう。後を着いていく人達も、部活とは違う、柔らかい表情だ。部活のメニューとは違い、プライベートでやるのは自分の好きなように出来るから、それが楽しみと言った顔。やっぱり競技は違っても同じなんスね。私も中に入り、皆が荷物を置いたベンチに腰掛けた。既に何人かはコートに入っている。準備どんだけ早いんスか!?


「涼センパイ! 見てて下さいねー! 良い所いっぱい見せますからー!」

「頑張れー」って、自分の声棒読みにも程があるっスよ!!

「残念だけど、大輝の相手は僕だよ。良いところなんて見せられないと思うな」

「げ、高尾センパイ!? ……きょ、今日こそは勝たせてもらうっす!」

あれ、如月ってもしかして……。何処かいつもより、意気込んでる如月は、奥のコートに立った。如月の相手になる高尾先輩は、私の頭をポンポンと撫でてから、コートに向かった。……いやいや、何で今撫でたんスか?意味わからないっス。それを、隣に立っていた村田から見られていたようで、クスと笑う声が聞こえた。

「……何スか」「いや気にしなくて良い」そういうけど口元上がってるッスよ……。


「………まぁいっか。あ、それで聞きたいことあるんスけど」「どうかしたか」

データを分析していた村田は、ノート片手に私を見下ろしてくる。逆に私は顔を合わせずに、テニスをし始めた高尾先輩と、力を出し切れずにいて、このままだとゲームを取られる如月を見つめたまま口を開いた。

「如月って他のレギュラーに憧れてるんスか?」

「ああ、そうだな。それと同時に越えなきゃいけない壁だとも思っているだろう」

やっぱそうか。タッキーに憧れて、勝ちたくて。毎日、毎日飽きもせず勝負を挑んでた頃の”オレ”と……どこか重なって見える。

私の目には、点を取られても、取られても諦めない如月と高尾先輩が、海王の時の”オレ”とタッキーをみているようで、辛くなり、”オレ”はそっと目を伏せた。


「……それがどうかしたのか」

しばらくして、案外優しげで、こちらを気遣う村田の声が耳に入る。気、遣わせてしまったようだ。”オレ”が実行した事を思い出しながら、重く閉ざした口を開く。

「いや、さ。超えたいと思うのなら、憧れは捨てなきゃいけない。憧れてしまえば、相手を超えられないんスよ。

………憧れってのはさ、自分が相手に勝ちたいと思いつつ、相手には誰にも負けてほしくないと願うから」

「……」黙って、続きを促す村田。私は小さく息を吸って続けた。

「要は、勝ちたいなら憧れは捨てた方が良いってことっスね…。今の如月にそんなこと自覚してる感じないし、ずっと負けたままと思うんスよ。…”オレ“みたく」

二人の、楽しそうにテニスをする声を聞きながら、最後にぼそっと言い放った。私の憧れたタッキーは、傍目から見てても、憧れるようなカッコいいプレーをする。フォームなんて関係ない、って言わんばかりのプレーに”オレ”は魅せられて、今に至るのだから。ま、それを見なければ、今の”オレ”は存在しなかったのだろう。


「その口調だと、実際お前がやったみたいだな」「そうっスよ」

後ろにいた円堂が口を開く。私は少し自虐的に笑った。I.H.の決勝で当たったときに、めいいっぱい戦った。先輩たちと勝ちたかったから……ね。


「で、それは勝ったのか?」

「良い所までは行ったんスけどね……。最後の最後で仲間を頼ったんで負けたっス」

「仲間を頼って何が悪いんだ」

円堂は問い掛ける。日常だけではなく、戦うには仲間との信頼は大事っスからね。でも、タッキー達、海南は超個人プレー主義だ。

「私が憧れてた(タッキー)は、……チームプレーをしなくても、圧倒的な強さを持っていた人なんスよ。個人プレーばっか。マネっ子の”オレ”には、それが穴だっただけっス」「……よくわからないな」

バスケやらないと分からないから、分かんなくてもいいと思う。模倣(コピー)の一部に、必要ない動作を入れてしまうことで、リズムが崩れてばれたとか、バスケの上級者にしか分かんないと思うっスよ? 二人とも、”オレ”の言葉の真意を掴もうとしてるのか、沈黙が降りる。そんなに考え込むような内容じゃないのに。二人が思考の海から戻るのを待ちつつ、目の前の試合展開を眺める“オレ”だった。


「ところで、木村。お前何の競技やっていたんだ? 」「バスケっスよ」

思考の海から帰ってきたのは、意外なことに円堂の方が早かったようだ。その声で村田も戻ってくる。円堂は”オレ”のプレーを見ていただけあって納得していた。が、村田はよく分からないようだった。

「あいつに言わなくていいのか?」

「逆に言っちゃ駄目っスよ。これは自分で気づいてこそ意味があるもんスから」

そうか、と小さく笑って村田と円堂はコートに目を向けた。


私も、ふとコートに目を戻すと、高尾先輩の圧勝ではなく、4―6で高尾先輩が勝っていた。でも、両者の顔は凄く晴れやかだ。私は笑みを浮かべて二人を見た。私が笑っているのを見て、如月は手を大きく振ったので、小さく振り返すと、ぱっと嬉しそうに駆け出した。なんだろう、小型犬みたいッス。


「涼センパイっ! センパイも、テニスしないんすか」

如月がそういうけど、小さく首を振る。えー、楽しいんすよ~と、まだ駄々をこねているのを無視していたけど、不意に目の前に人が立った。見上げてみれば赤沢だった。片手にはラケットを持っている

「良かったら涼もやってみたら?」

赤沢は持っているラケットを、私の前に差し出してきた。わざわざ鞄から出してくれたのだろう。ラケットは貸してくれるらしい。でも、今は乗り気じゃ無い。ちょっと過去を振り返ったからだろうか、バスケがしたい。

「いや、いいっスよ。見てても楽しいし」

バスケがしたいなあ。そう思ってバスケコートに顔を向けるとそちらから声が聞こえる。なんか、もめてる?

「・・・!・・・・。・・!」少し遠いので聞き取れない。

「どうしたんだろ。勝、一緒に行かない?」「分かりました」

私は神聖なコートで騒いでる奴が気に食わなくて、軽く灸を添えてやることにした。私を怒らせた自分達が悪いんス。コテンパンにやっつけてやる!!


この時、運命の歯車は少しずつ動き、私を飲み込むことを、私は知らなかった。



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