オレインとの別れ
伯爵領へと至る手前の大河、ミダス河と言うらしい。
川幅は2kmは無いくらいだろうか、河口に近い事もあって、流れは緩やかだ。
河を渡るための船着き場で、船を待つために一行は馬車を止めていた。
「アオ、ここまでだな」
「オレイン、ありがとう。無理な頼みを聞いて貰ったと思ってる」
田舎を起点に行商をするオレインは河を渡れない。
船に馬車をわざわざ乗せて、俺を送って、帰ってでは船賃が馬鹿にならないのだ。
オレインと軽くハグをして別れを惜しむ。
一月ごとに村に訪れて、村生活での長い間、行商で村を支えてくれたオレインには色々な事を教わった。
「お前との旅は楽しかったぜ?元気でやれよな」
「ああ、オレインも元気で。みんなにもよろしく」
昨日晩にオレインに、ハドメとの賭けで勝った儲けを分けようとしたら、彼は少し怒ったように言ったのだ。
『契約を大事にしろって言ってたのはお前だろ?俺はちゃんと契約通りの利益は貰っている。・・ガキが余計な気を回してんじゃねえよ』
オレインにすぐに謝ったが、今日は既に済んだ事として忘れてくれたようだ。
「船は少し遅れてるみたいだな、まあ天気も良いしすぐ来るだろう」
馬車の上から河を見ていたニッダが言う。
斥候らしく、『遠見』のスキルでも持っているんだろうか。
「アオ、時間があるから少し露店でも冷やかしに行くか?」
ディーダが誘ってくれたので、オレインを見送った俺は馬車群を離れて露店を見る事にした。
※※
船着き場近くでは雑多な露店が道に並んでいる。
河の向こうまで気軽に買い付けに行けないので、船着き場が小さな集落みたいになっているのだ。
「街じゃないんだ、、」
「河を渡る人間はそんなに多く無いからな、伯爵の血縁者でやる気のある奴が居たら、何年か何十年かしたら街でも作ろうかってなるかもな」
国の中心部とは物価が違い過ぎて、河のこちら側では商品を置いてもなかなか売れないらしい。
「ふーん、、靴に、ロープに雨具、、旅関係の商品が多いのかなぁ、、」
露店を冷やかしながらディーダに遅れないようについて歩く。
「あっ、、」
「どうした?」
不意にあげた俺の声に、ディーダが振り向く。
「いや、ガラスがあるなって思って、、」
ちょっと大きめの露店に、ガラス製のグラスがあったのだ。
「珍しいのか?河を渡ればもっと安いぞ?」
ディーダが小声で教えてくれる。
しかし俺の興味は値段では無いのだ。
(作りはしっかりしてるけど、随分と透明度が低い、、質が悪いな)
ダメだと思っても、付与魔術が頭をよぎる。
(『透明』、、『研磨』、、不純物を取り除くには、、)
露店の前で考え込んでしまった俺は、ディーダが隣から俺を見ている事に気付かなかった。
※※
多少の遅れはあったが船が到着し、馬車が列になって乗り込んでいく。
馬車や荷物を主に運ぶための台船だ。
船員が重力バランスに注意しながら、順番に馬車を誘導して詰めていく。
「大丈夫だ、、落ち着けよ」
揺れる船に機嫌を悪くした馬の首筋を、撫でつける。
『快癒』と『鎮静』の数珠がすぐに効果を発揮して、馬が落ち着く。
(『鎮』なんて漢字、よく覚えてたよ)
その場限りの付与魔術の書き換えや上書きはすぐに出来るが、毎回魔力を持っていかれるので、余り失敗は繰り返したくは無いのだ。
ニッダが馬車の車輪止めを念入りに確認して、しっかりと甲板に固定されている事を確認する。
ソフィアが俺を呼ぶ。
「アオ、船を動かす所を見たく無い?」
「おぉ!見たい!、、でも大丈夫なの?邪魔じゃないかな」
「船賃代わりに、あたしが属性魔術で船足を上げるのよ。アンタはその付き添いの弟子☆」
遅れの出ていた時間を取り戻すために、ソフィアが申し出たそうだ。
俺はソフィアに連れられて、船の後部に移動した。




