マヨネーズ
「で、王都の伯爵様にはレシピを送ったの?」
「うん、全部書いてたらいつまでも終わらないし、向こうには向こうの料理人が居るから、何とかするでしょ」
俺はこの世界で取れる野菜なんか知らないし、組み合わせも盛り方も知らないのだ。
(村ではパンとスープと、焼いた肉があるか無いかだったからなぁ)
村での生活を思い出していると、
そういえば長いこと森で狩りをしていないなと、部屋で洗濯物干しに使ってるスリング君の事を思い出した。
(術も切れてるだろうしなあ)
「ルーナさん、この近くで狩りが出来る森とかってあるのかな?」
「森?何をするの?」
「だから、狩りだってば」
ルーナさんが首を傾げるが、何が変なのかが分から無い。
「、、伯爵家が使える狩猟用の森があるけど」
「おーいいね!何が捕れるんだろ?」
久しぶりの狩りを思い描くと、ワクワクが止まらない。
「許可を取らないと、勝手に森に入ると捕まるよ?森番も居るし」
「へー、そうなんだー」
許可というと執事長だろうか?それとも奥様だろうか。
どうやって話をするか、いつ話をするかと考えが止まらない。
「ふぅ、、ねぇ、さっきから何をしてるの?」
「これ?マヨネーズ作り」
ボウルの中で卵とお酢を合わせるためには、相当に混ぜなければならないのだ。
※※
話には聞いていたが手作業でマヨネーズなんて作るもんじゃない。
手が疲れ、痺れる度に『快癒』を自分に掛け続け、ようやくボウル半分のマヨネーズが出来上がった。
(どうしよう、ボウルごと『抗菌』でもしたら大丈夫だろうか?
でも『快癒』もあるし、万が一があっても何とかなるような気もする)
味見(人体実験)を他人に任せるのは卑怯だと自分で舐めるが、
味わっている間に、ルーナさんがひょいとスプーンをぶん取り、止める間も無く食べてしまった。
「、、どう?」
「お、お、おいしぃ、、」
色んな意味を込めた渾身の問いかけだったが、マヨネーズの感動は強かったようだ。
※※
ルーナさんとマヨネーズをどう献立に生かすか議論をする。
「全部」
サンドウィッチ、ポテサラ、マヨネーズ焼き、、一つずつどんな料理かを説明していると不意に後ろから声がする。
「全部よ」
振り返ると、キッチンの入り口に着飾ったお人形さんみたいな、よぅじょが居た。
※※
「クラリッサ様!いけません、こんな所に来られては、、奥様に叱られてしまいます!」
慌てるルーナさん。
あー、何となく彼女が誰なのか、鈍感系な俺にも分かった。
「レジーナ、アレを取ってきなさい」
クラリッサちゃんが傍付きのメイドに言う(命令)と、メイドさんがうやうやしく空の小皿を差し出してくる。
「、、毒見用にもう一皿ご用意した方がよろしいですか?」
レジーナさんはとても良い笑顔を返してくれた。
※※
「なるほどのー、最近の珍妙な料理はそなたのせいだったかぁ」
「図らずも王都の伯爵様へ献上するために、こちらのキッチンで料理長と共に新作の料理を考案していた次第でして、、
皆様にお出ししていたのは、料理長が思案と改良を重ねた逸品かと存じます」
伯爵家には3人のお子様がいらっしゃって、上の2人は王都の貴族学院に通っている。
現在この館に住んでいるのは一番下の娘、つまり今現在マヨネーズを味わっているクラリッサちゃんだ。




