保存の仕事
「彼が連絡があった術者か?若いな」
「15歳だそうです、辺境の村から出てきたばかりだそうで」
「ダンジョン都市を目指してるんだって?冒険者志望なのか?」
「いや、本人は冒険者志望では無いそうです。王都では生活が合わないだろうと思っているみたいで、ダンジョン都市で生活基盤を整えるつもりみたいですね」
「、、付与魔術師なら王都でだって十分に仕事はあるだろうに」
「あまりそこら辺が分かっていないみたいで、、自分が持ってる付与魔術の数にも意識が無いというか、無沈着というか」
「普通は自分の持っている技は隠すものなんだがなぁ」
「森の狩りで便利に使っていたそうですね、実際に旅の道中で見ていましたが、あり得ない数の魔術を使いこなしていました」
「先の報告にあったな、、いやよく連絡をくれたよ。ディーダ」
「お役に立てるなら幸いです、子爵様」
「では彼はウチで預かる事にしよう、貴重な術者を王都なんかに渡す訳にはいかん」
「ハドメが欲しがっていますが、そちらは押さえますので、、」
「うむ、助かるよ」
※※
「どうだ?調子はぁ。昨日より良くなったかぁ?」
馬房の馬を順番にさすりながら、馬の体調を見ていく。
子爵様が大分と焦っていたようなので、今まで試していなかった『治療』や『良好』、『快便』まで試した。
「問題は試しすぎて、何が効いたのか分から無いって事だな、、」
子爵様が用意したポーションまで『出水』で出した飲水に混ぜたのだ、
本当に何が効果があったのか分から無いが、馬達が元気なのでまぁ良いだろう。
伯爵の館で使用人の一室を借り受けて寝泊まりして5日経つ。
伯爵様は王都詰めで、季節の代わりにしか領都には帰って来ないらしく、
館には伯爵夫人と子供達が残っているそうだ。
「日本であった、守護と代官みたいなもんなんだろうか、、」
国のお役人は大変なんだろうなぁ、と考えながら馬達の世話を続ける。
今の俺は日の出る前に起き、馬達を癒し、世話をする毎日だ。
幸い馬達はすぐに体調を取り戻したので、馬番達にも大変感謝をされたものだ。
俺も馬は好きなので、何の問題も無い。
「問題があるとするなら、、いつまでここで仕事をするのか、終わりを決めていない事だろうか」
この5日、子爵様とは会っていない。
元々伯爵邸に来ない人なのか、今後をどうするのか、誰に聞いたら良いのかも分から無い。
「困った、、こまった」
俺のグチに返事をするように馬がいなないた。
※※
「キミは付与魔術が使えるんだそうだな。仕事を頼みたいのだが」
「はあ」
昼食後に馬房に戻ろうとした所、館の使用人に捕まった。
「えっと、、あなたは?」
「おっと、失礼。私は館の執事長をしているロッテンだ、よろしく」
残念、使用人だけど使用人では無かった。
(執事長か、館の差配人が俺に何の用だ?)
ロッテンは俺の風体を上から下までゆっくりと見やる。
「仕事の前に、着替えが必要だな」
そう言うと彼は俺を館の奥へと連れていった。
「何か、、良いんですか?これって」
さっきまでの馬房の作業服とは違った、寸法のしっかりとした使用人服。
タイ(ネクタイ)まで付けるように言われた。
「館の中で仕事をするんだ。粗末な服でうろついているのを御婦人に見られる訳にはいかんだろうに」
「それは、、そうですね」
分かったような、分から無いような。
「で、仕事というのは、館には領内の記録を本にして『保存』を付与している書庫があるのだが、、その『保存』が切れかかっていてね。キミに『保存』を掛けて欲しいんだよ」
「あー、なるほどー」
毎年術者を館に呼んで作業をさせていたそうなのだが、今年は肝心の術者が捕まらないらしい。
「いやあ、館に付与魔術を使える人間が居ると聞いて、これはもう頼むしか無いと思ってね。貴重な資料なんだ、どうか頼むよ」
「いや、仕事なら受けますよ。馬の体調も安定しているみたいですし、、」
そう聞くと、ロッテンはとても嬉しそうに、俺の肩を叩いた。




