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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第8章 緑の侵食
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第6話 世界樹への道

休憩所へ戻ると、セレンが床から立ち上がった。


「戻ったか」


空にはまだ明るさが残っているが、森の中はもう薄暗い。

リリカも荷物のそばからこちらを見ていた。


「ずいぶん奥まで行ってきたようだね」

「ああ」


ロアが荷物を下ろす。


「想定通りだ。侵食された道から緑を奪って道を作ることができた。」

「帰りも、その道を通って戻ってこられました」


私が続けると、セレンがロアを見る。


「つまり帰り道を作りながら進めるってことか」

「ああ」


「それなら、話が変わってくるな」

「もう一つ報告することがある」


ロアが言った。

私は森の奥で見たものを思い出しながら話した。


「かなり遠くに、大きな樹が見えました。その樹だけ、周りの木よりずっと高かったんです。あれが世界樹だと思います」


「見えたのか」

「はい。ただ……普通の樹には見えませんでした」


リリカもこちらを向く。


「どういうこと?」

「上の方が、人の頭や体みたいな形をしていました。顔みたいに見えるところもあって……そこにあった目が開いたんです」


リリカはその言葉に少し意外そうな顔をした。。


「目?」


「遠かったので、顔だとは言い切れません。でも、目のようなものが開いたのは見えました」

「俺も見た」


ロアが続ける。


「だが今日は戻るって決めてたから、そこで引き返した」


セレンは少し考えてから言った。


「そうか、なら明日は私も行く」

「待って」


リリカがすぐに止める。


「世界樹へ?」

「ああ」


「私はここまでって言ったよね」

「分かってる。でも状況が変わった。ロアが緑を奪った場所は、そのまま道になる。少なくとも帰り道は確保できる」


「本当に残ってるか、自分で見てからじゃないと判断できないよ」

「なら、明日見てから決めてくれていい」


リリカはロアを見る。


「本当に、昨日通ったところがそのまま道になったの?」

「ああ」


     ◇


翌朝、四人で昨日の道を進んだ。


私とロアが緑を越えた場所まで来ると、リリカが足を止めた。

灰色の細い道が、緑に侵食された草木の間を奥へ続いている。昨日、ロアが色を奪いながら進んだ場所だ。


リリカは道の手前にしゃがみ、灰色の土を指先でこすった。

道の脇に残る緑を確かめてから立ち上がる。


「一晩たっても、道は残ってるんだね」


立ち上がると、灰色の道を数歩進んだ。

左右の緑を確認してから戻ってくる。


「ロア。もう少し先でもやって見せて」


ロアが前へ出る。

灰色の道が途切れたところで止まり、その先へ手を伸ばした。


草や葉の緑がロアへ引かれ、足元から灰色へ変わっていく。

人が歩けるほどの幅で色を奪いながら、少しずつ前へ進む。


挿絵(By みてみん)


リリカも後ろからついていった。


「ふーん、これなら帰りもこの道を通れるね」


リリカは森の奥を見る。


「昨日、世界樹が見えたのはこの先?」

「ここから、もっと奥へ進んだところです」


「私、世界樹そのものは見たことないんだよね。人みたいな形をしてるって聞いたら……ちょっと見てみたくなったな」


セレンが言う。


「じゃ案内してくれるのか」

「まだ案内するとは言ってないよ」


リリカが笑った。


「でも、帰り道を確保できるなら、行けるところまでは案内してもいいかな」

「助かる」


「その代わり、追加料金はもらうよ」

「当然だ」


「だから、金額を聞いてから返事してって」


リリカが呆れたように笑う。


「この先は私も行ったことがないから、世界樹まで案内できるとは約束できないけど、それでもいい?」

「ああ。それで十分だ」


「あと、危ないと思ったらそこで引き返すからね」

「分かった」


「じゃあ決まり」

「一度休憩所へ戻って、荷物を持ってこよう」


     ◇


荷物を持ち、四人で休憩所を出た。

昨日は分かれ道のたびに、私とロアで進む方向を決めていた。


今日はロアの後ろを歩くリリカが、道標や地形を確かめながら進む方向を選んでいく。

古い道標が残っていれば行き先を確かめ、倒木や茂みで塞がれていれば、脇を通って先へ進めるか調べる。


緑を避けられる場所では、多少遠回りになってもそちらを通った。

迂回できない場所だけ、ロアが道を切り開く。


灰色になった細い道を、四人で一列になって進んだ。

しばらくすると、道が二つに分かれていた。


ロアの後ろからリリカが声をかける。


「昨日はどっちへ行ったの?」

「右だ」


「じゃあ、しばらくは昨日と同じ方へ行こう。この先に分かれ道があれば、そこは私が決めるから」

「分かった」


リリカは、私たちが昨日つけた木の印も確認しながら進む。


「ちゃんと目印までつけてたんだ」

「帰りに迷わないようにな」


「それなら安心した」


ロアは答えず、そのまま前を歩いた。

昼を過ぎた頃、一度休憩を取った。


そこからさらに森の奥へ進む。

やがて、木々の上に世界樹の上部が見えてきた。


昨日より近い。


人の頭や肩を思わせる形も、昨日よりはっきり分かる。左右には巨大な枝が伸び、そこから何本もの長い蔓が垂れていた。


「あれです」


私が指す。

リリカが足を止めた。


「……あれが、世界樹なの……?」

「はい」


リリカはしばらく世界樹を見上げていた。


「ものすごく大きいとは聞いてたけど、ここまでとは思ってなかった」


セレンも世界樹を見ていた。

やがて森の奥へ目を向ける。


「文香も、ここまで来たんだろうか」


文香さんがここまで来たかどうかは分からない。

でも、エルディンを追ってフィリナまで来たのなら、この森へ入っていてもおかしくはない。


私たちは遠くに見える世界樹を目指し、ロアが切り開いた灰色の道をさらに奥へ進んだ。


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