アドリアーナ様とお茶会しましょう。
只今、私はクローディオ公爵家でアドリアーナ様とお茶会中である。
ここに来るまでの間に、できればライナスの真意を直接問いただしたかったのだけれど、相手側にそんな余裕は当然なく……大丈夫だろうか、ライナス。どうもあちこちから呼び出されているらしい。
噂では、ライナスの婚姻について無理強いをしないようにと、とうとう国預かりになったらしい。
それまでは、あらゆるところから縁談が舞い込み、幾度かは強引に仕掛けられた見合いの場に無理矢理連れ出されていたようだ。結構な危機的場面もあったとか。
それに気が付き止めたてくれたのは、王弟殿下だったそうで、噂の中にはぼーいずらぶ的なものも発生しているそうな。
……それを教えてくれたのは、仕立て屋のお姉様方である。
急ピッチで仕立て上げられたドレスの最終調整真っ最中に、それはもう楽しげに教えてくださった。
筋肉美男子の掛け合わせによる背徳的な恋愛は美味しいけれど、私達としてはアンナちゃんを一番に推してるからね!だそうである。因みに王弟殿下は騎士団総団長をなさっていて、ガチムチと細マッチョの間くらいの体型だったりする。ライナスも細マッチョ体型なので、筋肉美男子の掛け合わせ、というのはそういうことだ。
前世から馴染み深い一大ジャンルには免疫があるので、とやかく言うつもりはないから、半目で対応してしまった私を許して欲しい。
とにかく現在、ライナスの意志を無視しての婚姻はなされない、……はずである。溜めがあったのは、正直どこも信用ならないからなのは察して欲しい。
と言うか、私とライナスの話、某大衆紙のせいでしっかり出回ってますね?お姉様方。わかりました。……マジで迂闊に外を歩けないな、これは。
「『ブロンテの守護女神』様にお越しいただけて嬉しいわ」
とアドリアーナ様は美しい微笑みを浮かべながら仰った。揶揄われているのか本気で言われているのか、正直わからない表情である。
先日祝勝会でお会いした時は友好的に会話してくださったけれど、果たしてどこまで本音なんだろう。……と、怪しんでしまうのは私が捻くれているからか。
まあ、取り敢えずである。
「あの……知らぬうちに呼ばれていたようなのですが、正直自分の事とは思えず、できれば普通に名前で呼んでいただけると大変有り難いです」
訂正しておかないといつまでもその名で呼ばれそうなのが怖い。
「本当に知らなかったのね。王都ではもう随分と有名よ?」
「掲載されていた大衆紙を手に取る機会がなかったので……、派遣先でそのように呼ばれたことも無く」
私の言葉に首を傾げていたアドリアーナ様は、知らなかった事情に納得したらしく、成る程と頷いて私が知らない経緯を教えてくれた。
「第三騎士団の第三部隊長が仰っていたのだけれど、現場では治癒師の方を『天使』なんて呼ぶそうね?」
「……そうですね、よく、口説き文句で使っていらっしゃる方が」
それで成就した恋愛も現場であったなぁと思い出す。
「それで何人かの騎士がアンナさんを『天使』呼びをしたら、白い目を向けられた挙げ句『気持ち悪いので止めてください』って素気なく言われたとか」
身に覚えがあったので、思わず目が泳いだ。いや、だって、こっちは当時十三歳だし、軽薄な感じで他の人のついでで言われてるのは丸わかりだし、そもそも緊迫した戦場付近で言うことじゃないし、と当時は思っていたので……。
「本当に嫌そうな顔をするものだから、アンナさんには『天使』と呼ぶことを控えていたそうよ。もしかしたら『女神』と呼ぶと嫌がられると思って、本人の前では言わなかったのかもしれないわね」
アドリアーナ様は愉快そうにクスクスと笑った。祝勝会での表情より幾分リラックスしている様子に見える。もしや、そういうお話お好きなんでしょうか。それとも……いや、止めておこう。
それにしても騎士団の部隊長は何を人に話してるんだろう。内容、軽すぎないか。
「さて、本題に入るわね」
アドリアーナ様は胸元で両手を軽く合わせた。
「わたくし、こういう立場でありながら迂遠な会話が好きではないの。今日は二人だけのお茶会でもあることだし、直裁に言うわね。アンナさんは今後どうなさる予定なのかしら。どうしたいのか、と言う希望でいいわ。教えていただけると助かるの」
「私がどうしたいか、ですか……」
「結婚したいかしたくないか。結婚したいならどなたとしたいか。結婚しないのであれば今後どう活動なさるのか」
当然ただ私とお茶を飲みたかっただけのはずもなく、概ね予想通りの質問が投げかけられた。むしろ貴族的な言い回しをすっ飛ばして想像以上に明確な返事を求められたので、少々困惑した。行動としては好ましいけれど。
さて、直接的に聞かれたからと言って、同じようにストレートに望みと現状を伝えて良いものか迷う。クローディオ家が現状どうしたいのかがわからない。例えば王太子殿下の婚約者として今後どうするのか。それを私が直接聞いても構わないのか。
王太子殿下を取り戻すため、ライナスを聖女との取引材料に使わないとは限らないし、王太子を見限ってまだ年若い王弟殿下への支持に乗り換えることを考えているのかもしれない。いくら友好的に対応してくれているとしても、実際彼女が私達の敵か味方か、という部分が不明のままだ。
少し考えてから、のらりくらりと様子を見ながら小出しに返答することにした。
「いくつか噂も流れておりますので、アドリアーナ様もご存知かと思いますが、有難いことにライナスを含めた殿方から釣り書をいただいております。只今家族総出で中身を精査しているところなのですが、思いの外数多くいただいておりまして、未だすべてに対応しきっておりません」
なんと父と兄の予想通り、あの後釣り書が更に増えた。縁もゆかりも無い人たちからが大半で、内容も殆どが上から目線の釣り書だったため、断れるものは一応丁重にお断りしている。揉めそうになったところも、盾になってくれている伯爵家の名前を出したら、すすすっと消えた。たった数日程度で、よくもまあ色々起こったものである。凱旋式と祝勝会の様子を見て動いた下位貴族からが殆どだったので、その程度で済んだのだが。
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