お宅拝見!(させるとは言っていない)
◇ヒトリ島・5日目(続き)◇
「ところで、どうして、その首輪だって思ったの?」
私は、水海が男の首輪を当てた事を不思議に思って尋ねた。
『だって、こう言う異世界で首輪って言ったら、【隷属の首輪】が定番でしょう?』
「れいぞくの首輪……? 隷属?!」
え?! 御守りって言ってたよね?!
『もし、男の話が本当なら、騙して隷属の首輪を填めているって事だよね。ユティ教って、碌な宗教じゃないな』
「でも、それなら、どうして男性だけなのかな? それに、何させるの?」
『う~ん……。単に、男を支配したいってだけかも。そうでなかったら、レイプ防止?』
「後者だったら、まだまともかな~?」
男性の人権無視と言う問題はあるけれど。
そう言えば、この世界、人権って言う考え、あるのかな?
『それにしても、皇国を植民地化ねえ……。大それた望みだよね』
「大それた?」
『だってさ、神国って、弓矢の射程距離も魔法の射程距離も皇国に及ばないし、大砲の製造技術も無いんだよ。だから、殆ど撃沈されて逃げ帰ったんだよね』
思っていたより、大敗だね。
「へ~。この世界、大砲あるんだ」
『あるよ。地球でも、結構昔からあったらしいよ』
「そうなんだ」
『付け加えると、神国を構成する人種は、オーガ・オーク・ゴブリン。対する皇国は、ドラゴエルフォイド。ドラゴエルフの血が入っているの。ドラゴエルフォイドは、オークやゴブリンより、大分魔法の才能が高いんだ。オーガを凌駕する力を持つ人も、産まれ易いしね』
それが本当なら、神国は、技術か数で上回るしかないのでは?
「人口はどうなっているの?」
『神国の人口は、皇国の約五分の一』
「……それで、技術も劣っていると」
『そう』
物量にも期待出来ないな。
「あ! 聖剣使いは?」
『ダンジョンキラーは、ダンジョン以外には鈍らなんだよ』
「そうなんだ」
後は女神が出張るしかないね。
「あれ? 皇国は、どうして、神国を逆侵攻しなかったの?」
『それどころじゃ無かったの。【中央ダンジョン】が崩壊した後、聖剣使いが討ち漏らしたモンスターが各地を襲ったり・大地震と大津波が起きたり・火山の噴火が起きたり・ペストが流行ったりしたから』
うわぁ。踏んだり蹴ったり。
『皇国では、ダンジョンマスターを殺すと祟りが起きるって言われていて、だから、【中央ダンジョン】を壊したユティ教に対する恨みは深いよ。ユティ教禁教令を出して、邪教認定したんだ。改宗を拒否した国民は、国外追放にされたよ。一人を除いてね』
邪教認定され返されたんだ。
「その一人って?」
『ゴールドマン伯爵。ネズミを増やしたり・猫を駆除したり・患者を他領に放逐したりで、わざとペストを流行らせたとして、処刑されたそうだよ』
「何それ、テロ?」
『どうなんだろうね?』
そこまでは知らないみたいで、水海は首を傾げる。
「それはそうと、神国には、祟りが及んでないんだね」
『そうだね。二度目の侵攻軍が嵐で悉く難破したのは、天候が悪くなり易い季節に侵攻した自業自得だし』
「それじゃあ、皇国の人達は不満だろうね」
とばっちり食らわせた張本人と黒幕は、自国でのうのうと暮らしているんだもんね。
『神国に祟りが及ばなかったのは、祟りたくない程穢れた国だからだと思われているよ』
凄い負け惜しみだな。
『あ、でも、嵐で沈没したのを祟りだと思っている人もいるけど』
「自業自得だと思わないんだ?」
『うん。ほら。神国ってユティ神の寵愛があるって言っているじゃない? だから、嵐が起きやすい季節でもその寵愛によって嵐に遭わない筈なのに、嵐が起きて悉く沈没したのは祟りって考え』
「なるほどね~」
◇ヒトリ島・6日目◇
翌日。
昨日の男が約束通り筏を返しに来た。仲間の船で筏を引っ張って。
「昨日はありがとうございました!」
「いえいえ」
「これ、お礼の野菜です」
男がくれたのは、カブ・ジャガイモ・ニンニク、そして、粟だった。
粟って美味しいのかな?
「俺はやっぱりよ。あの嬢ちゃんが掘ったって言う穴に、コドクを隠しているんじゃねえかと思うんだよ」
もう一人の男が、内緒話のつもりなのか、大きな声でそう言った。
「聞こえるぞ! ……済みません」
「いえ」
私が見せると言うのを待っているのか、沈黙が流れる。
「見せてくれりゃ、疑いを晴らせるってもんだ」
「そうかも知れませんね」
ダンジョンかどうか確認する為に入りたいのかな?
「そうと決まりゃ、早速見せて貰うぜ!」
見て良いとは言って無い。
「小せえ穴だな」
ダンジョンの入口を見た男(その二)が言う。
彼は、先日スズメバチに殺された大男よりは小さいが、それでも、私より大分大きいので、私サイズの穴を通るのは厳しい。
「私でも無理みたいですね。もう少し広げるつもりはありませんか?」
男(その一)が、そんな事を尋ねる。
「何故です? 此処は私だけが住む家です。入口を広くする意味がありません」
「しかし、これでは、出入りし辛いでしょう?」
「そうですね。ですが、大きくすれば、雨や風も入り易くなる」
「なるほど。それでは、広く出来ませんね」
男達は残念そうだ。
「仕方ありませんね。諦めましょう」
「そうだな」
男達が船で帰って行くのを見送った私は、昨夜水海から貰ったアドバイスに従って、ダンジョンマップを開いた。
最初の部屋手前の通路の一番深い部分に、アイテム反応。
探してみると、石に偽装された魔導具が落ちていた。
水海の想像では、盗聴用か盗撮用。
多分盗聴用だろうと、私はそれを眺めて思った。
少し考えて、私は魔導具を落ちていた場所に戻すと、シャベルを取って来てその回りをザクザクと突き刺し、最後に魔導具を突き刺した。
壊れた魔導具は、土と一緒に外に捨てて置く。
中に戻った私は、カブ・ジャガイモ・ニンニク・粟をダンジョンに吸収した。
食料リストに、これ等が増える。
その後は、DPを増やす為に釣りをした。
『盗聴器か。案外、行動が早かったね。元々持っていたのか、近くに眷族が居るのか……?』
「眷族って、聖剣使い?!」
『そうとは限らないけれど、その可能性は高いよね』
「いや~! 来ないで! こんな雑魚狩っても、自慢になりませんから~!」
私は、頭を抱えてそう叫んだ。
『落ち着け! 盗聴器を仕掛けたって事は、まだ、殺すつもりは無いって事だよ』
「そうかなあ? カメラで映した私の【鑑定】結果が出るまで、直ぐじゃないかな?」
『そうかもね。でも、それなら、盗聴する意味は無いでしょう?』
「うう……。確かに。でも、意味の無い事をする人達かもしれないじゃん!」
『それを言ったら、どんな可能性だってあるよ』
それもそうか。
『それより、DPはどうなったの?』
「今ね……160P」
『……呪術の蠱毒でもする?』
「嫌だよ! 人を呪わば穴二つって言うじゃん!」
呪い怖い! きっと、聖剣使いより惨いに違いない!
『そうだよね! 呪うとか言い出したらどうしようかと思っちゃった!』
なら、勧めるな。
◆所持DP◆
160P
◆覚えた魔法(現在Lv2)◆
Lv1:浄化・着火・散水
◆所持品◆
懐中電灯・筏(偽装用)
【最初の部屋=偽装部屋】
シャベル・草刈り鎌・釣竿・餌・バケツ・タオル・タモ・盆ザル
木の蓋(トイレ用)・ボロいマント・干し草・オイルランプ(植物油入り)
木の板・大鍋・中華鍋・布・箸・コップ・皿・まな板・お玉
【ペット部屋】
猫用ベッド四つ・餌箱
【コドクの部屋】
寝袋・マット・保温シート・ラグ
ミニ七輪・オガ炭・包丁・まな板・小型の鍋・小型のフライパン・お玉
食器セット・食器セット(箸・皿一枚・コップ抜き)・ボウル
塩・醤油・ピッチャー(飲料水入り)・食用油
カラーボックス・ハサミ
◆眷族◆
スズメバチ(群):眷族になった事で毒がパワーアップしている。
キラーホーネット:スズメバチ型モンスター。幼児大。
コドク:眷族になった事で、メスは毎日卵を産むようになった。
ローグゴブリン:モンスター化したゴブリン人。
ローグオーガ:モンスター化したオーガ人。
◆食料リスト◆
生魚(数種)・焼き魚(数種)・干し魚(数種)・スズメバチ(成虫)
コドク(成鳥)・コドクの卵(生)・コドクの卵(固茹で)・コドクの卵の卵焼き(醤油)
蕪(生)・じゃが芋(生)・にんにく(生)・粟(生)