初めてのお使い
◇ヒトリ島・19日目◇
翌日。
「カシに、危険で重大な任務を与えます」
「重大な任務?」
何をすれば良いのかと尋ねたカシに、私はそう言った。
「此処に、昨日の聖剣使い達の財布があります」
「財布が……?」
「これで、買い物に行って貰います」
「そいつは確かに危険な任務だ」
この国が敵のテリトリーだと言う事は、昨日説明してある。
「買って来て欲しいのは、米」
粟より米が好みなので、米が食べたい。
「後は、果物」
甘い物食べたい。
「小豆も買って来て。可能なら、お菓子も」
「米・果物・小豆・菓子か」
「チーズも欲しいな」
「チーズね」
「あ、余ったら、お酒買って良いよ」
「本当か?!」
カシの気分が上がる。
「余ったら、だからね」
「解ってる」
「コールとか使えるようにしておくから。でも、DP消費するから、無駄に使わないでね」
「ああ」
「じゃあ、気を付けて。……本当に気を付けて」
張り切って小舟(300DP)で陸地を目指すカシを、私は不安一杯で見送った。
直ぐ其処に見える村には行かないよう言ってある。
さて、今日は、カシの部屋を作る。昨日は偽装部屋で寝て貰ったんだよね。
私は、多目的部屋の北に、部屋を掘ってダンジョン化した。
そして、寝袋(20DP)・マット(10DP)・保温シート(30DP)を交換。
これで、残りは3,090DP。
私の部屋・ペット部屋・マツの部屋・カシの部屋・多目的部屋の天井に、魔力で点灯・消灯が出来る明かりを設置。
残りは、2,590DP。
あ! そう言えば、ボス戦部屋にも明かりが必要だ!
そう言う訳で、人が入ると明かりが付き・人が居なくなると明かりが消える設定に変更。
部屋が広いので600DPかかった。
DPは、残り1,990。
夜。
『そんなに心配なら、行かせなかったら良かったんじゃない?』
水海とのコール中、落ち着き無くカシを心配する私に、水海が正論を吐いた。
「いや。そうなんだけど」
ちょっと考えが足りなかったな。
「あ~! スズメバチを護衛に付ければ良かった~!」
『ダンジョンエリアを出たら、虫は眷族から外れちゃうよ』
「え? そうなんだ」
何故だろう? 知能の差?
『そんなに心配なのに、神頼みはしないの?』
「だって、この世界の神って、ユティしか知らないし」
ローダルクは殺されちゃったんでしょう? それ以前に、ダンマスに祈っても届かないと思うな。
『私達を転生させた神様は?』
「あ~」
忘れてた。祈っておこう。
◇ヒトリ島・20日目◇
カシからコールが届いた。
「何?! 何かあった?!」
慌てる私に、カシはのんびりと尋ねた。
『いや。米だけど、玄米? 精米?』
「……精米で」
何だそんな事かとホッとする。
因みに、現在のDPは2,010。
「って、ちょっと、道を映してくれる?」
私はカシの向こうに見える道路に、ある物を見付けてそう言った。
『こうか?』
道には、沢山の糞が落ちていた。
「それって、馬とか牛の糞? ダンジョンじゃないの?」
ダンジョンならユティの加護だとして吸収出来るし、違うのだろうか?
『人糞も混ざってるぜ。ダンジョンだけど』
「ダンジョンなの?! は、早く買って逃げて!」
『おう。多分、糞を吸収するのは汚い感じがして嫌なんじゃねえかな?』
「ダンジョンにずっと糞があるのも汚いと思うけれど」
ユティ神の衛生概念はどうなってんの?
『そんな事より、マスター。梅は買う?』
梅って果物だっけ?
「お金に余裕が有れば」
『解った。じゃあ、切るぞ』
カシはそう言って、通信を切った。
無事に帰って来てね。
「それでね。道路は糞だらけだったの。知ってた?」
私は水海とのコールで、昼に得た情報を話した。
『うん。皇国では昔から有名らしいよ。最近では、神国の不潔さが、ユティ神が邪神の証明だとか言われているみたいだね』
邪神は不潔を好むと言う事?
「何で綺麗にしないんだろうね?」
『不潔の観念が違うんだろうね。家の中じゃないから、不潔じゃないとか。道に馬等の糞があるのは当たり前だから、不潔じゃないとか』
「馬糞とかは仕方ないかもしれないけどさ」
理解出来ないわ~。
『ちゃんとした捨て場が遠くて大変とかなんじゃない?』
「でも、ダンジョンなんだよ? 簡単に綺麗に出来るのに」
『それは確かに。あ、もしかしたら、人間の自主性に任せる主義なのかもよ』
「あ~。その可能性もあるね」
私だったら、糞放置には介入するけどね。臭いし、景観も悪いし。
◇ユティ神国首都・ユティ神城◇
「失礼致します! 陛下! 至急御報告したい事が!」
「何?」
寝所へ向かっていたユティ神国元首ユティ神女は、不愉快気に振り向いた。
神女はユティに選ばれたユティの器であり、十年毎に変更される。
器は変われど、中身はユティ本人である。……とされている。
「クリサンセマム皇国で、十七のダンジョンの出現を確認しました!」
「何ですって……!?」
近々お忍びで災害が治まった皇国を訪れ、皇国をダンジョン化するつもりでいた彼女は、想定外の妨害に怒りを覚え戦慄いた。
「邪神の王ローダルクが存在していた所為で、予想より汚染が酷かったのね。もっと早く浄化するべきだったわ……」
皇国の様な素晴らしい国は、自分にこそ相応しいのだと、ユティは思っていた。
もし、実際に皇国が彼女のものになったら、やがて神国と大差無い国になるだろう。
「如何致しましょう?」
「聖剣使いを十七名に増やし、同時に制圧するのよ!」
「はっ!」
ユティは、所詮生まれたばかりの邪神だと高を括ってそう命じた。
◇ユティ神国某所・カシ◇
「おおおお!」
同じ頃、カシは追われていた。
追っているのは、ネズミ型モンスターの大群である。勿論、ユティの眷族だ。
【身体強化】の魔法を使って逃げ、【ウインドカッター】の魔法で敵の数を減らしているカシだったが、まだ敵はかなりの数が残っていた。
「ヤバい……。疲れて来た……」
破れかぶれで樹に登ると、木登りは苦手なタイプなのか登って来る事は無かった。
しかし、木の根元を齧って倒そうとしている。
「チッ。もう【ウインドカッター】を使う魔力もねえし……。そうだ!」
カシは、ダンマスの権能の一部使用を許可されている事を思い出した。
100DPを使用し、キラーホーネットを五匹召喚する。
ダンジョン外での召喚だが、キラーホーネットは虫ではなくモンスターなので、眷族のままだ。
残りのDPは、1,920となった。
「頼んだ!」
キラーホーネットが敵に襲いかかる。
【毒耐性】を持たない敵は、あっさりと屍を晒す事となった。
◆所持DP◆
1,920P
◆覚えた魔法(現在Lv6)◆
Lv1:浄化・着火・散水
Lv2:土掘り・潜水・衣類乾燥
Lv3:鑑定
◆所持品◆
懐中電灯・筏(偽装用)・木の蓋(偽装トイレ用)
【小屋】(一部)
シャベル・草刈り鎌・釣竿・餌・バケツ・タオル・タモ・盆ザル
【マツの部屋(偽装)】
干し草・毛布・オイルランプ(植物油入り)・布の袋・風呂敷
【マツの部屋】
解体ナイフセット・ミスリルの胸当て
寝袋・マット・保温シート・電池式ランタン
【カシの部屋】
寝袋・マット・保温シート
【多目的部屋】
テーブルセット(椅子四脚)
【ペット部屋】
猫用ベッド四つ・餌箱
【コドクの部屋】
寝袋・マット・保温シート・ラグ
ミニ七輪・オガ炭・電子レンジ(魔力で動く)・小型冷蔵庫(魔石で動く)
包丁・まな板・小型の鍋・小型のフライパン・お玉・土鍋
食器セット(三人分)・ボウル・ピッチャー(飲料水入り)
塩・醤油・食用油・バター・味醂・砂糖・料理酒・酢・味噌(だし入り)
カラーボックス・ハサミ・ダイビングマスク
◆眷族(下記以外の虫は省略)◆
スズメバチ(群):眷族になった事で毒がパワーアップしている。
パラポネラ(群):眷族になった事で、毒がパワーアップしている。
キラーホーネット:スズメバチ型モンスター。幼児大。
コドク:眷族になった事で、メスは毎日卵を産むようになった。
ローグゴブリン:モンスター化したゴブリン人。
ローグオーク:モンスター化したオーク人。
ローグオーガ:モンスター化したオーガ人。
◆食料リスト(一部省略)◆
魚(塩焼き・干し魚・刺身・バター焼き・煮付け)
貝(生・バター醤油焼き)
肉(牛・豚・鶏)(ステーキ・串焼き)
コドクの卵(生・固茹で・卵焼き)
蕪・じゃが芋・にんにく・炊いた粟
ワカメ(酢の物・味噌汁)




