情緒不安定による失踪なんじゃないですかねえ?(すっとぼけ)
2020.06.22 サクリムが乗って来た船を吸収した事に変更。
◇ヒトリ島・15日目◇
十五日目。
血相を変えたファンが、筏を返しに来た日に一緒だった男と共に島にやって来た。
因みに、サクリムが乗って来た小舟は、マツに運んでもらってダンジョンに吸収しておいた。
「ヒトリさん!」
「ファンさん、どうしましたか?」
マツの釣りを横で見ていた私は、何食わぬ顔で返事をした。
「サクリムが来ませんでしたか?!」
「サクリムさんがですか? 何をしに?」
「惚けんのは無しだぜ、お嬢ちゃん! お前が邪神だってのは判ってんだからな!」
やっぱり、『邪神=ダンジョンマスター』なのか。
「私が邪神?」
キョトンとした顔を意識して、演技を続行する。
「ああ、そうだよ! 神都からの返事はねえが、間違いねえ!」
つまり、上層部は私がダンジョンマスターだと伏せている? 何の為に? 被害者を増やす為?
「はあ……?」
「馬鹿馬鹿しいな! 頭は正気か?!」
マツも、素知らぬ顔で演技してくれる。
「どっからどう見たって、ただのゴブリンだろうが! それとも、今まで討伐して来た邪神も、実はただの人間だったってーのかい?!」
「それは違う! サクリムは【鑑定】が使える! ヒトリさんが邪神だと知ってこの島に来たに違いないんだ!」
「妊娠中なのに、自分で邪神退治する訳無いじゃないですか」
私がそう言うと、ファン達は勢いを無くした。
「いや、でもよ……」
「確かに。しかし……剣も一本見当たらなかったんだ」
「そうか! こいつ等が攫ってったんだ! それなら、辻褄が合う!」
「合いません。私が邪神だったら、何故私に疑いが向くやり方をするんですか」
人を攫って、自分からダンジョンに向かったと思わせる為に剣も持ち去る?
そんな事をしたら、元聖剣使いも倒せる邪神って話が上層部に届いちゃうじゃん。聖剣使い来ちゃうじゃん。
誰もが、聖剣使い倒せそうな罠を考え付く頭良い邪神だと思うなよ!?
「家出じゃねえのか? 妊娠中は精神が不安定になるって聞いた事があるぜ」
「金も持たずに?」
ファンは、マツの言葉に納得がいかない様子だ。当然だけれど。
「精神がおかしくなっている奴が、まともな行動出来るかよ」
「くっ……」
ファンはマツを睨み、突如、ダンジョンの方へ向けて走り去った。
「そうか! 中に入ってみりゃ、はっきりする!」
ファンの仲間もそれに続き、私とマツは後を追った。
ダンジョンである筈の穴の中に入ったファン達だったが、暗くて何も見えなかった。
「勝手に人の家に入るんじゃねえよ」
明かりを手に、マツ達が降りて来た。
「ダンジョンでなけりゃ、見られたって良いだろうが」
ファンの冒険者時代からの仲間、オーガのドンフウの主張に、マツが顔を顰める。
「ああ、好きにしろよ。その代わり、ダンジョンだと証明出来なかったら、海に蹴り落とすぞ!」
どうせ、直ぐに化けの皮が逸れると、ドンフウは鼻で笑った。
奥へ進み、ファン達が目にしたのは、人の手で掘ったとしか見えない小部屋だった。
二人は、そんなダンジョンは見た事が無かった。
彼等が知るダンジョンは、もっと地面が平らだったり・レンガの壁だったり、或いは、地下なのに草原だったり沼地だったりした。
だから、此処がダンジョンだと言いきる事は出来なかった。
奥へ続く通路を四つん這いで進めば、同じような部屋に寝床らしき物が在った。
その部屋で行き止まりの様だった。
念の為に、寝床の干し草を退かしてみたが、隠し通路は無かった。
まさか、通路が土で埋まっているだなんて、彼等は思いもしなかった。そんなダンジョンは知らなかったから。
ファンが、自称ヒトリを邪神と疑ったのは、彼女があまりにも世間知らずだったからだ。
ダンジョンがどれだけ邪悪なのか・ダンジョンの氾濫とは何なのか、村の子供だって小さい頃から教えられて知っている事だ。
彼女は、ネズミが神聖な生き物である事も、三年前に大々的に発表され祝われた邪神の王【ローダルク】討伐の事も知らなかった。
ユティ神国で生まれ育ったにしては、不自然過ぎる。
直前にダンジョンの話をした事もあり、ヒトリをダンジョンと結び付けた。
村に戻り直ぐに、邪神が現れたかもしれないと神都に通信機で連絡した。
そして、調査隊が来るまでの間に情報を得ようと、最近村に配備された盗聴器を、ダンジョンと思しき穴に隙を見て投げ入れた。
その後も、あの手この手でダンジョンであると言う確証を得ようとしたが、ヒトリは中々尻尾を掴ませなかった。
そんな中、サクリムに浮気を疑われ、ダンジョンの調査をしていると話してしまったのが、大きな間違いだった。
まさか、身重の身でありながら、邪神討伐に行くなんて。
無事を祈りながら島へ向かえば、釣りをするマツとヒトリの姿が見えた。
それは、つまり、邪神の呪いどころか、倒す事すら出来ずに命を奪われたと言う事。
信じられなかった。聖剣が無いとは言え、元聖剣使いが成す術も無く殺られたなんて。
ファンは、ヒトリがただの人間である事に一縷の望みをかけて、島へと上陸した。
しかし、彼女は、サクリムは島に来ていないと惚けた。
来ていない筈は無いのだ。夜中にこっそり出かけたのだから、此処以外に何処へ行くと言うのか。
斯くなる上は、ダンジョンである事を暴いて一矢を報いるしかない。
しかし、彼は、ヒトリの化けの皮を剥がせなかった。
ダンジョンではない可能性が高いと言う結論を出さざるを得なかった。
ただの人間だと言う可能性があるヒトリを殺す事は、彼には出来なかった。
結局、二人は意気消沈して穴から出て来た。
「ほら、ダンジョンじゃなかっただろう?」
そんなマツに何も言い返さず、船着き場まで戻るのに私は付いて行く。
「さて。ダンジョンと証明出来なかったら、海に蹴り落とすって言ったよな?」
直後、マツは二人を海に蹴り落とした。
「二度と来るんじゃねーぞ!」
這い上がった二人は、悔しさを噛み締めるような顔で村へと戻って行った。
「良っしゃあ! 何とか誤魔化せた!」
二人が【鑑定】持ちじゃなくて良かった! 或いは、魔法使いであったならば、ダンジョンだと気付いたかもしれないけれど。
「でもよ、マスター。あいつ等、絶対納得してねえぜ」
「そうだろうね。でも、なるべく殺したくないんだよ」
最初の二人をあっさり殺しておいて、アレだけれど。
「それに、あの二人を殺した場合の言い訳が、『サクリムがあの男と浮気していて、腹の子がそいつの子とばれたから、ファンが二人共殺して海に捨てて入水自殺した』ぐらいしか思い着かなかったんだもん。あの男がファンとサクリムとどういう関係が知らないのにそんな嘘付いたら、怪しまれるかもなって」
「確かに。あの男が不能でそれを皆知ってるって可能性も、絶対ねえとは言い切れねえもんな」
ああ。その可能性もあるな。
「さて、釣りするか」
マツが釣竿を手に取る。
「じゃあ、私は海に潜ろうっと」
◇ユティ神国首都・ユティ神城◇
「失礼致します! 陛下。元聖剣使いがダンジョンに食われたかもしれないと、報告がありました!」
それが何処なのかを報告者に確認した神女は、顔に失望を浮かべた。
「出来たてのダンジョンでしょうに、その程度のものに元聖剣使いが食われたなんて恥だわ」
「如何致しましょう?」
「ダンジョンに行ったのは確かなの?」
「状況から考えて、その可能性が高いと」
「そう。誰も目撃していないのなら、『ただの失踪』ね。……念の為、ダンジョンの有無を確認する為に、誰か調査に向かわせましょう」
「御意に」
報告者が去り、神女は呟いた。
「邪神のクセに、コソコソと……。どうやって引き摺り出してやろうかしら?」
◆所持DP◆
2,170P
◆覚えた魔法(現在Lv4)◆
Lv1:浄化・着火・散水
Lv2:土掘り・潜水・衣類乾燥
◆所持品◆
懐中電灯・筏(偽装用)・木の蓋(トイレ用)
【小屋】
シャベル・草刈り鎌・釣竿・餌・バケツ・タオル・タモ・盆ザル
ボロいマント・干し草・オイルランプ(植物油入り)・布の袋・風呂敷
木の板・大鍋・中華鍋・布・食器セット・まな板・お玉
【マツの部屋】
干し草・毛布・オイルランプ(植物油入り)・布の袋・風呂敷
解体ナイフセット・ミスリルの胸当て
【ペット部屋】
猫用ベッド四つ・餌箱
【コドクの部屋】
寝袋・マット・保温シート・ラグ
ミニ七輪・オガ炭・包丁・まな板・小型の鍋・小型のフライパン・お玉・土鍋
食器セット・ボウル・ピッチャー(飲料水入り)
塩・醤油・食用油・バター・味醂・砂糖・料理酒・酢・味噌(だし入り)
カラーボックス・ハサミ・ダイビングマスク
◆眷族(下記以外の虫は省略)◆
スズメバチ(群):眷族になった事で毒がパワーアップしている。
パラポネラ(群):眷族になった事で、毒がパワーアップしている。
キラーホーネット:スズメバチ型モンスター。幼児大。
コドク:眷族になった事で、メスは毎日卵を産むようになった。
ローグゴブリン:モンスター化したゴブリン人。
ローグオーガ:モンスター化したオーガ人。
◆食料リスト(一部省略)◆
魚(塩焼き・干し魚・刺身・バター焼き・煮付け)
貝(生・バター醤油焼き)
コドクの卵(生・固茹で・卵の卵焼き)
蕪・じゃが芋・にんにく・炊いた粟
ワカメ(酢の物・味噌汁)