信仰心? 名誉欲?
◇ヒトリ島・11日目◇
朝です。
今日は、パラ……なんとかと、キラーホーネットを召喚します。
先ずは、キラーホーネット部屋とコア置き場を入れ替え。
残り、330DP。
キラーホーネット部屋に、パラポネラを10DPで召喚。
そして、キラーホーネットを20DPで六匹召喚した。
これで、残りは200DP。
キラーホーネットを囮にして、パラポネラが死角から襲いかかる作戦を命じて置く。
虫部屋の虫達には、キラーホーネット部屋の手前までは行って良いと命じ直した。
さて。今出来る事はこんなものかな?
とその時、船着き場に侵入者を感知した。
「ファンさん」
「やあ、ヒトリさん。この男は貴女の従兄弟だそうですが、本当ですか?」
釣りをしていたマツと先に会ったファンは、マツから話を聞いたらしい。
「本当ですよ。それより、こんなに頻繁に来ていたら、奥さんに妬かれますよ」
「いやあ、そうなんですよ。実は疑われましてね。付いて来ちゃったんです」
ファンがそう言うと、船から女性が降りて来た。
「初めまして。貴女がヒトリさんね。私はファンの妻のサクリムです」
ファンとサクリムさんは美男美女と言える容姿をしている。お似合いである。
しかし、二人は本当に夫婦なのだろうか?
「初めまして。ヒトリです」
「まあ。可愛らしいお嬢さんね」
声色に棘がある気がする。
「そんな事無いですよ。えっと……。お似合いのご夫婦で……」
こんな場合、どうしたら良いの?! 助けて、水海!
「何だ。既婚者か。ヒトリに近付く悪い虫かと思ったぜ」
マツが従兄弟の演技をする。
「そんなんじゃありませんよ。それより、マツさんはこの島に滞在するおつもりで?」
「おうよ。ヒトリの気が変わるまでな。女独りじゃ物騒だからよ。何か不都合でもあるか?」
「いえ。そう言う訳では……」
マツに睨まれても、ファンは笑顔を崩さない。
「でも、家まで建てて上げるなんておかしくないかしら?」
サクリムさんがファンに、疑いの目を向けた。
「言っただろう? 命の恩人だからだって」
「でも」
「心配する様な事は何もないさ」
「本当かしら? どんな家を建てたの? 見せて」
仕方なしに家まで案内すると、サクリムさんは家の中を検めた。
浮気の証拠を探すようでもあり、家を使っているか・不自然な物は無いか・在って当然の物が無かったりしないかを探すようにも見える。
この人は、ただの妻なのか、それとも、ユティ教関係者なのか?
「穴を埋めたのに、掘り返したんですね」
ファンがそれを聞いて来た。
「ええ。マツ兄さんが其処に住むと言うので」
「そうでしたか。親戚とは関わりたくないようでしたが、マツさんとは仲が良いんですか?」
「ええ。兄妹のように育ちましたので」
「なるほど。では、一緒に帰って上げてはどうですか?」
「それは嫌です」
私達は、互いに笑顔で火花を散らす。
「あら。見詰め合っちゃって。妬けるわね」
サクリムさんがそう言って割って入って来た。
「そんなんじゃないさ」
「どうかしら?」
彼女が本当に身重の妻ならば、何故ダンジョンかもしれない場所に連れて来るのか? 危険じゃないか。
「そう言えば、お二人はどうやって知りあったんですか?」
私は話題を変える。
「【女神製ダンジョン訓練所】で出会ったのよ」
「妻は、聖剣使いだったんです」
嫌な情報来たー! って言うか、嫌な存在が来た!
「そ、そうなんですか。それは凄いですね」
ヤバい。動揺が顔に出ている気がする。
「ところで、聖剣使いに選ばれる条件って、何なんですか?」
「若い独身女性である事よ」
だから、過去形だったのか。
「それには、何か訳が?」
「ユティ神に近い存在だからよ」
ユティ神は、他が邪神だから独身な訳ね。そして、人間の男と結婚する趣味は無いと。
「何歳位で辞める事になるんですか? 二十歳?」
「十八歳ね」
そうか。神国では、十八歳でもう若くないのか。
「では、二・三年ぐらいしか活動出来ないんですか?」
「そうね」
「短いですね。もしかして、【中央ダンジョン】を討伐したのは、サクリムさんですか?」
「残念ながら違うわ。もう一歳若かったら、邪神王討伐の栄光を賜れたのだけれど」
サクリムは、二十二歳なのね。
「でも、そうだったら、私は君と結婚出来なかったよ」
「そうね」
「貴族以外と結婚出来ないとかになるんですか?」
「違うわ。邪神を討伐すると、邪神の呪いで命を落とすからよ」
え?
「邪神の呪いですか。では、これまで邪神を討伐した聖剣使いは、全員……?」
「ええ。そうよ」
のうのうと暮らしているかと思ったら。あれ? でも、水海は、祟りは神国には及んでいないって言ってたけれど……。
サクリム達の話が嘘なの? それとも、水海達が把握出来ていないだけ?
と言うか、サクリムはダンジョン討伐出来なかったのか。弱いんだな。……私よりは強いけどな!
「ユティ神のお力で、呪いを防げないんですか?」
「残念ながらね……。腐っても神と言う事ね。死に際の呪いは強いのよ」
サクリムは、悔しげにそう言った。
「それでも……。邪神を討伐したかったわ」
静かにそう零すサクリムには、ゾッとした。
一体、彼等の目的は何なのだろう?
去って行く船を見ながら、そう考える。
引退した聖剣使いが近くに住んでいる。……そう教える事に、どんな意味があるのだろう?
牽制? 人間を吸収したら、中央に知らせが行くぞという?
囮? 彼女を殺したら、それを口実に討伐するという?
どちらも違う気がする。
「マスター。俺の演技どうだった?」
「良かったよ」
「そうだろそうだろ!」
褒めると、マツは嬉しそうに笑った。
「ところで、あいつ等の話、どう思った」
「そんなにダンジョン討伐したいなら、引退前にすれば良かったじゃねえかって思ったぜ」
「実力不足だったんだと思うよ」
「なら、マスターを逆恨みしているかもな」
「え?! 何で?!」
マツの発言の理由が解らずに、私は驚いた。
「引退前にマスターの出来たてのダンジョンが在ったら、他より弱いあいつでも討伐出来ただろ?」
「何で今頃って? 確かに、逆恨みされそう。うわ~」
嫌だな~。でも、逆恨みしていなくてもサクリムが討伐に来る可能性はあるしね。
夜。水海に昼間の事を説明した。
『発言の意図ね~?』
「牽制かな?」
『どうだろう? 彼女等にとって、ダンジョンは【女神製ダンジョン訓練所】以外根絶すべき邪悪なんだから、牽制なんてするより、挑発するんじゃないかな? 被害が大きいほど、討伐する自分達の名声が高まるって事で』
え~? 国民の被害が大きくなって欲しいって思って実行していたら、悪党じゃん。
嫌だな。そんな国家。
「じゃあ、あれ、挑発だったのかな? 『元聖剣使いが居るなんて聞いたら、ビビって殺せないだろう。やれるもんならやってみな』って?」
『そうかもね。或いは、コドクがダンマスだって聞かされていない可能性』
「え?」
『身重なのにダンジョン討伐に行かれたら嫌でしょう? 普通の夫なら』
「そっか。そうだよね」
だけど、ファンは普通だろうか?
まともな夫が、妊娠中の妻を邪神、或いは、眷族かもしれない人の所へ連れて来るだろうか?
「それはそうと、ダンジョン討伐した聖剣使いが全員死んでいるって、本当かな?」
『それ! 私も驚いたよ~! いや、【中央ダンジョン】を討伐した連中が消息不明とは聞いていたけどね。田舎に帰ったとかで分からないのかと思っていたけど、死んでたんだ~』
私達も祟りを起こせるのだろうか?
『でも、おかしくない? 呪い対策のアイテムとか無いのかな?』
「そう言えば、あっても不思議じゃないよね?」
死に際の呪いは強いから防げない? それとも、神の呪いだから防げないのだろうか?
『案外、呪いじゃ無かったりしてね』
「え?」
『例えば、聖剣を使うのに命を削るとか』
「そうか。そう言う可能性もあるんだ」
まあ、何にせよ、聖剣使い対策にはならないんだけれどね。
本当、こんな小さなダンジョンは見逃してください。
そして、水海達に全滅させられろ。
◆所持DP◆
240P
◆覚えた魔法(現在Lv2)◆
Lv1:浄化・着火・散水
Lv2:土掘り・潜水・衣類乾燥
◆所持品◆
懐中電灯・筏(偽装用)・木の蓋(トイレ用)
【小屋】
シャベル・草刈り鎌・釣竿・餌・バケツ・タオル・タモ・盆ザル
ボロいマント・干し草・オイルランプ(植物油入り)・布の袋・風呂敷
木の板・大鍋・中華鍋・布・食器セット・まな板・お玉
【マツの部屋】
干し草・毛布・オイルランプ(植物油入り)・布の袋・風呂敷
【ペット部屋】
猫用ベッド四つ・餌箱
【コドクの部屋】
寝袋・マット・保温シート・ラグ
ミニ七輪・オガ炭・包丁・まな板・小型の鍋・小型のフライパン・お玉・土鍋
食器セット・ボウル・ピッチャー(飲料水入り)
塩・醤油・食用油・バター・味醂・砂糖・料理酒・酢・味噌(だし入り)
カラーボックス・ハサミ・ダイビングマスク
◆眷族(下記以外の虫は省略)◆
スズメバチ(群):眷族になった事で毒がパワーアップしている。
パラポネラ(群):眷族になった事で、毒がパワーアップしている。
キラーホーネット:スズメバチ型モンスター。幼児大。
コドク:眷族になった事で、メスは毎日卵を産むようになった。
ローグゴブリン:モンスター化したゴブリン人。
ローグオーガ:モンスター化したオーガ人。
◆食料リスト(一部省略)◆
魚(塩焼き・干し魚・刺身・バター焼き・煮付け)
貝(生・バター醤油焼き)
コドクの卵(生・固茹で・卵の卵焼き)
蕪・じゃが芋・にんにく・炊いた粟
ワカメ(酢の物・味噌汁)