プロローグ:星降る夜のプレリュード(前半)
「あなた、起きなさい!起きなさいって!」声が聞こえる。女の子の声だ。
「お嬢様!早く!」続いて違う女性の声。
「ダメよ!この子を置いてなんて行けないっ!」
「あぁ、なんてこと!街が!」また違う声だ。
「起きなさぁぁぁいっ!」
私は耳元で響くそんな大きな声で飛び起き、辺りを見回す。焦った様子の女の子や慌てた様子のメイドさんたちが視界に入る。
「……おはよう」
私は寝ぼけていたため口が勝手にそう発したのであった。
「おはようじゃないわよ!早く逃げるわよ!」
「……逃げる?」
「飛竜が、飛竜の群れがこの街を襲っているのよ!」
その言葉で私は完全に目が覚める。
私を見つめる彼女の瞳は涙で潤っているようだ。茶色の髪をハーフアップにした女の子だ。怖いのだろう。それでも私のことも守ろうとしてくれたのだ。
私と同じくらいの年齢だろうか。愛らしい顔立ちをしているが、私より背が高そうだし、胸も大きい。私は実年齢に比べて低身長で胸も小さく、童顔なのだ。そういうこともあり、たぶん彼女には年下に見られているのだと思う。
いや、今はそれどころじゃない。
「……飛竜!?」
「そうよ!だから急いで逃げるのよ!この屋敷の地下に逃げるの。そこならきっと大丈夫だから」
「落ち着いて。……大丈夫……だから」
私は彼女にそう言って再度部屋を見回す。ベランダがあるようだ。そこから外の様子が見えるだろうか。
「え?」
不思議そうに私を見る彼女を横目に急いでベッドから降りて、窓を開け放ち、ベランダに出る。どうやらここは高台にある建物の2階のようだ。ベランダからは街を一望でき、星が煌めく夜空を飛竜たちが舞う光景が目に飛び込んできた。
飛竜たちは街に向かって火のブレスを放っている。火の海にはなっていないが、ところどころ火の手が上がっている。
「何をしているの!?外は危ないわよ!」
私を心配した女の子もベランダに出てくる。そして、私の腕を握り、部屋の中に戻ろうとする。
「ミリー、何をしているのだ!地下へ逃げなさいと言ったはずだ!」
ベランダの下に広がる庭にいた男がそう声を上げる。庭にはその男だけでなく、大勢の兵士たちが集まっている。もちろん、既に街でも兵士たちが対空兵を使って応戦している。
そうか、そうだよね。これだけの飛竜が街を襲ってきたら総力を挙げて応戦することになり、それでも多くの犠牲が出るのだろう。
そんな状態でも私が冷静なのは、私にとっては特に恐れることはないからだ。
「でも、この子が!」
「君も早く逃げなさい!子どもにできることは何もない」
子ども?……私は16歳。少なくとも母国では成人だ。大人である。
逃げる?……いや、これは願ってもいないチャンスだ。被害者もいるかもしれないから心から喜ぶことはできないけど、ここで私が街を守れば、この国に受け入れてもらえるかもしれない。そうだ。できるだけ目立って、私がこの街を守るために戦っている姿をより多くの人に見せれば……
「行くわよ」
そう言って女の子が震えた手で私の腕を強く握る。
「……大丈夫。私が何とかする」
「何とかするって、何を言って――」
私は彼女の手を優しく振り払い、ベランダの手すりに上る。そして、そこから空中に向かって歩みを進める。
「――危ない!」
女の子は私がベランダの下に落ちるのを心配したようだが、そんな心配はいらないのだ。なぜなら、私は魔法陣を展開して足場を作ったからである。
「……行ってくるね」
私はそう呟き、心配そうに見つめる彼女を背にさらに歩みを進める。進行方向に魔法陣を展開しながら、それを足場にしていく。青白く光る魔法陣は私の足の裏がつくと、水面のように穏やかに波打つ。光はエアリーボブの私の白銀の髪、白い肌、衣服を青白く染める。
これがアニメならここでテーマソングのイントロが流れそうだ。私はそんなことを思いながら街の中心部の上空に向かって空中を歩く。
途中で飛竜が私に火のブレスを吐いてくるが、それも魔力障壁で悉く防ぐ。この程度の攻撃では私を倒すことはできない――
それからしばらく歩き、ようやく街の中心部に辿り着く。思ったより遠かったが、私の足の下には街の中心部の広場が見え、その周囲には街が広がっている。
何が起こっているのかと私を見上げる人たちもいるようだ。ならば、このショーのフィナーレといこう。飛竜たちを撃墜するのは簡単だ。けれど、飛竜が街に落ちたらそれはそれで被害が出てしまうだろう。
「まずは……」
私はそう呟き、足場にしている魔法陣を街の上空を覆うくらいの大きさまで広げる。いつ見ても私の魔法陣は美しい。緻密な術式のもとで生まれたこの魔法陣は芸術である。
その後も飛竜たちは街にブレスを放ったが私の魔法陣がそれをことごとく防いでいる。
「それじゃあ……」
私は手のひらを天に掲げ、より上空に別の魔法陣を展開する。足場の魔法陣と同じくらいの大きさの魔法陣だ。もちろん魔術によって魔法陣の模様が足場の魔法陣と上の魔法陣では模様が異なる。今から発動する魔術は私が好きな魔術であり、それを発動させるこの虹色に煌めく魔法陣は私が世界で一番美しいと思う魔法陣である。
とにかく、これにより2つの魔法陣で飛竜たちを挟んでいるような状態となった。
「スターライトレイン……」
私は天に掲げた手を振り下ろす。
あ、別にそんな名前の魔術ではなく、ただ言ってみただけです。まぁ、私のオリジナル魔術なので命名も私次第だけど、まだ特に名前は付けてないです。
とにかく、フィナーレを飾る魔術発動の時間である。
上の魔法陣から五芒星、六芒星……様々な形と色の星が散りばめられた無数の光線が射出され、まるで星の雨のように降り注ぎ、飛竜たちを貫いていく。その光景を見れば残酷ではあるが、降り注ぐ無数の光線だけみれば美しい魔術である。
夜の街は明るく照らされ、人々は奇跡のような光景を見上げるのだ。
オリジナル魔術とは言ったが、昔、母が読んでくれた『星降る夜のファンタジア』という絵本に出てくる魔術を再現したものなので、厳密にいえばオリジナルではないのだけど――
しばらくすると、飛竜たちはなすすべなく下の魔法陣に横たわり、空を舞う飛竜の姿が見当たらなくなる。横たわっている飛竜たちも息絶えているようだ。
「終わり……」
私は2つの魔法陣と飛竜たちの死体を消し去る。飛竜たちの死体は空間魔術で異空間に収納したのだ。そして、足場を失った私は街へ落下していく。
星空が綺麗だ。風魔術を使ってゆっくりと降下しながら夜空を眺める。
ねぇ、お母さん。私、こんな魔術も使えるようになったよ。見てくれているかな? ずっと見守っていて欲しいな。私はあなたを愛しているから、今でもあなたに愛されていると信じたい。私にとってはこの星降る夜がプレリュードとなり、あなたのステラが夜空で一番輝くその時まで見守っていてね……
そんなことを考えているうちに地面が近づいて来たので私はゆっくりと着地する。
広場に集まった人々の歓声が聞こえる。
この先、どんな未来が待っているのだろう。母国で「災厄の魔女」と呼ばれ、99%有罪となる異端審問にかけられることが決まったからこの国に亡命してきたけど、この国は私を受け入れてくれるのだろうか。
私は人々に向かって微笑む。上手く微笑むことができたかわからないが、私にはそれが精一杯だ。ただでさえ体力と魔力を失っていたのに、少しやりすぎたかもしれない。
意識が遠のいていく。あぁ、ダメだ……
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけた場合はページ下の【★★★★★】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!




