表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖祈師リアライド・デ・フェルゼの知略戦  作者: ごろごろみかん。
1.離縁or亡命?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/43

1.可哀想なひと



子爵令嬢リアライド・デ・フェルゼは、このオロラド王国の【宝箱】である。


彼女が作る魔道具は瘴気を払い、瘴気に侵されたひとたちを救った。

圧倒的な魔力量と、聖力値。さらに五大属性も使用可能。

高難易度魔法をも使うことができる。


彼女なら、瘴気に侵されつつあるこの国をいずれ救ってくれるだろう。



……だけどそれは今すぐではない。

それに、万が一、彼女が失われることがあったら?


それはオロラド国の多大な損失だ。

最悪、国が滅ぶか、隣国に接収されるか。

あるいは瘴気に侵されて荒廃の一途を辿るかもしれない。


その不安は貴族を恐怖させた。

有力貴族から訴えられ、事態を重く見た王は、彼女に命を下す。


曰く、結婚し、子をなし、その能力を次世代に引き継がせよ、と。









「弁明を、お聞きしても?」


リアライド・デ・フェルゼ。

それが私の名前。私は今、自分がとても冷たい声を出していることを知っていた。

それでも、ここで優しさを見せる気は無い。


「ち、違うの。これは、事故で……」


今更ながら彼女は、自分が何をしたか自覚したのだろう。

化粧をしているために頬には薄紅が乗っているが、顔からは血の気が引いていた。

彼女もようやく、理解したからだろう。


リアライド・デ・フェルゼ──。

オロラド国の【宝箱】であり、次々に有能な魔道具を作り出す稀代の天才。才女リアライドが新たに開発した品を、自分が壊してしまった、と。


もっとも、その肩書きの裏側には、あるカラクリがあるのだけど、それは誰にも言わない。


「事故?おかしなことを言うわね。あなたはさっき、コンラートと離縁しろと私に迫った。それに私が答えなかったから、あなたはそれを叩き壊したのでしょう?ねえ、知ってる?それがどれほどの価値あるものか」


「わ、わざとじゃ……!」


わざとじゃない、と言いたいのだろう。


「聖金貨10枚。通常の金貨換算で500枚ね。これがどれほどの損失なのか、分かるかしら?」


分からないのだろう。

分からないからこそ、そんな浅慮なことをした。


私は怯えて震える夫の恋人──ゼフィラを見ることなく、彼女が叩き壊した魔道具に膝をついた。もっとも、これは完成品ではなく、完成一歩手前までいっていたものだ。


この世界の魔道具の作り方は、魔道具となる器に魔法を付与して使うものだが、私は異なる手法を取っていた。


魔道具として起動させるために魔法は必須。

書き込んだ魔法陣と魔法式に魔力を流すことで起動する。それは変わらない。

だから、私はそれを基板のように書き出し、器を先に作ってから、それを別の器に吸収させる形をとっている。


端的に言えば、半導体基盤のように薄い板に魔法式と魔法陣を書き込み、それを別の小さな器に吸収させるということだ。


ここまでいえばお分かりだと思うが、私は純粋なこの世界の人間ではない。


私は転生者というやつだった。


そっと、壊された基板を確認する。


睡眠を削り、限られた時間で何とか間に合わせた完成品は、残念ながらこの女に壊されてしまった。

努力の結晶が女のくだらない癇癪によって無駄になった。猛烈に腹が立っている。睡眠不足のせいも、多分ある。


直りそうに……ないわね。


素材集めも頑張ったのに。

魔法式を限界まで縮小させるために無理をしたのに。

聖力に無理を言わせて何とか形にしたのに。


悔しさのあまり、涙まで滲む。

精神が安定しないのもまた、連日の睡眠不足と疲労のせいだ。悔しい。


魔道具になるはずだった、魔道具の卵の亡骸(仮)を悼んでいると、ゼフィラが高い声を上げた。


「で、でも!リアライド様だって悪いと思うんです!」


「何がでも、なの?」


経緯もそちらに非があるというのに、この期に及んで他責?


「だって……コンラート様があまりにおかわいそうです!」


しかも可哀想ときたか。

コンラートとは私の夫である。

そして、このゼフィラは夫の恋人。

政略結婚だから、こういうこともあるわよね。


無言で魔道具の亡骸を手に持って立ち上がると、ゼフィラがひっと悲鳴をあげる。


「リアライド様はコンラート様のこと、好きじゃありませんよね……!?コンラート様は、リアライド様に歩みよる努力をなさっていました!それなのに……それなのに!」


「それだけ聞くと、私が悪いみたいね」


あっという間に私が加害者に仕立て上げられてしまった。


「ゼフィラ!……何をしてるんだ!?」


その時、ようやく夫の到着だ。


日が昇るまで愛し合っていたからか、ふたりの目覚めは遅かった。だ

けどゼフィラの方が先に目覚めたようで、部屋で作業していた私のところまでやってきたのだ。


それで、この結果。


コンラートは慌てて来たのか、まだ寝巻きだった。

着崩れたローブは、いかにもさっきまで睦み合っていました、と言わんばかり。


情事の色香を残した夫にうんざり。

こんな世界だし、私は貴族だし、政略結婚なのだから、愛人を持つな、とは言わないわよ。


でも、ひとつ屋根の下なのだからもう少し配慮してほしい。……とは以前言ったのだけど。

正妻の嫉妬と取られて全く話にならなかったわね。


コンラートは銀髪に甘い顔立ちをした童顔である。

紫の瞳は丸っこく、その体躯はしなやかで細身だ。

だけど物言いは冷たいので、そのギャップがいいのだと、社交界通の友人から聞いたことがある。


「コンラート様っ……!!」


救世主が現れたと思ったのか、ゼフィラは駆けてコンラートに抱きついた。

主人の修羅場に、集まったメイドたちは困惑顔だ。

だけど私を見れば、その目は途端厳しいものになる。


「先程、ゼフィラが、あなたが可哀想と言いました。あなたは可哀想なんですか?」


私が尋ねると、コンラートは絶句した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ