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黒曜の怪物  作者: あらまき


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16/16

その過程を、友として共に


 吸血鬼はありえない再生能力を持っており、頭をまるまる潰されたってあっという間に再生する。

 けれど、それは心臓を潰すまでの話に過ぎない。


 そう、ユリウスはかつての経験で知っていた。


 ストライドの身体から、右腕を引き抜く。

 腕に塗れた血はすべて、黒い灰に変わり落ちる。

 衣服の赤は、死体袋から直接ぶつけられた血だけとなっていた。


「ユリウス!」

 フィーナが慌てて駆け寄ってきた。

「おや嬢ちゃん。無事かい?」

「ああ。そっちは……聞くまでもないか」

「毎朝ミルクを飲んでいるからね」

「ははっ。同じようなことを言うコミックの主人公を見たことがあるぞ」

「そいつは仲良くなれそうだ。いや、そいつは女にモテてたかい?」

「ああ」

「じゃあ駄目だ。仲良くやれそうにない」

 やれやれと言うユリウスを見て、フィーナは苦笑した。


「さっきの……仙道(シェンダオ)は、君の切り札か?」

 ユリウスは眉を顰め、困った顔を見せた。

「いや……そういうわけじゃない。正直……使うつもりさえなかったんだ。たとえ殺されても」

「どうして……」

「人間の技術だからだよ。怪物が使ったら失礼だろ」

「……道理ってやつか」

「ああ。人間には人間の、怪物には怪物の道理がある。こいつは知らなかったみたいだがな」

「……ならさ、どうして使ったんだ。使うつもりのなかった、人間の技を」

 ユリウスはちらっと、フィーナを見る。


 美しかった。

 外見や道徳ではない。

 その、生き様が。

 人間賛歌を見たのは、本当に久しぶりだった。


 ユリウスは微笑を浮かべ、首を横に振った。

「何でもない、単なる気まぐれさ」

 フィーナは首を傾げる。

 けれど、それ以上追及はしなかった。


 がさっと物音がした。

 ユリウスとフィーナは即座に身構える。

 その直後、がばりとストライドは起き上がった。


「まだ生きて!?」

 フィーナの叫びに、ユリウスは首を横に振る。

「いや、そうじゃない。……残骸みたいなものだ。……もう、何も出来ね―よ」

 ストライドの身体から、黒い塵が零れている。

 それは、滅びに向かう最中の何よりの証明だった。


「ふざけるな。ふざけるな屑どもが! 俺を……俺を殺しやがったな。……恨んでやる。呪ってやる。刻んでやる。殺して犯して喰らってばらして……」

「これ以上、自分の格を下げるな」

 淡々とした口調でユリウスは呟く。

 それには、同情しか籠もっていなかった。


 事実、彼にとって若き怪物の死は同情すべきものでしかない。

 時代が違えば、殺さずに済んだ。

 むしろ怪物として、彼を守っていた可能性さえある。


 けれど、もうそんな時代ではない。

 絶滅に進む怪物はその抵抗のため、愚かで証拠を残し他の怪物を危険に晒す若き怪物は、断たねばならなかった。


「……きひっ。ひぃひゃははははははは! ああそうか! わかった! やっとわかったよあんたらの理由が!」

「……何の話だ?」

「ふひっ! 予言してやる。てめぇらがすぐに後悔する! 悔やみ、苦しみ、嘆くってな! それが見れないのは心残りだが、まあいい。貴様らの不幸を、底から祈り続けてやるよ。ひゃははははは!」

 そう、最後まで高笑いを浮かべながら、ストライドは黒い塵の山と化した。


「はぁ。最後まで惨めなやつだ。呪いなど何の意味も――」

 そう言って、ユリウスはフィーナの方に向く。

 フィーナは、自分の胸元を押さえ、俯き苦しんでいた。


「嬢ちゃん!?」

 叫び、抱きかかえる。

 そしてその顔を見た瞬間、言葉を失った。

 フィーナの瞳が、深紅に染まっていた。


「ぐ、ぐぅ……ユ、ユリウス……私は……」

 息が荒く、全身から汗が噴き出している。

 これまでの発作のように正気を失うことはなく、ただ苦しむだけ。


 それは、明確に彼女が吸血鬼になろうとしているサインだった。


「どうして……呪いなんて。そんなものあるわけが……いや、でも……」

「おち……つけ。単なる……勘違い……だ……」

 苦しみながらも笑って、フィーナはそう告げる。


 そう――勘違いだった。

 冷静になって考えれば、答えは単純なことだ。

 ダイブするまでもなく、結論は見えている。


 もしもストライドがフィーナを吸血鬼化させた張本人なら、一目見た瞬間に気づいているはずだ。

 けれど、そんなそぶりは見せなかった。

 だから、勘違い。

 フィーナを噛んだ吸血鬼は、別にいる。

 ただ、それだけの話だった。


「……くそが! もう、時間が……」

 あと何日……いや、何時間保つか。

 その間に吸血鬼を探し殺すことなんて、たとえユリウスがあらゆるプライドを捨てたとしても到底叶うものではなかった。


「……ユリ、ウス」

「なんだい嬢ちゃん」

「私を……殺すのか?」

 ユリウスはびくりと身体を震わせた。

「……わかるのか?」

「私は……賢い……んだ」

 そう言って、笑った。


「……ああ。殺す。今の嬢ちゃんが怪物になっても、怪物(俺たち)の足手まといにしかならない。だから殺す。怪物の道理をもって、滅びを受け入れながらも歩むために」

「そう……か……残念だが……しょうがない。しょうがないから……せめて……苦しくないように……頼むよ」

 その身体が震えているのは、衝動だけではないだろう。


 震えながら、フィーナは瞳を閉じる。


 見逃すことは、できない。

 それを見逃すということは、怪物の道理に反する。


 それに、例え自分が見逃したとしても、彼女をこのままにすれば間違いなく死ぬより酷い目に遭う。


 じゃあ道理を捨て、矜持を忘れ、温情だけで自分が彼女を匿い続けるか。

 自分一人で生きるのさえどのくらい叶うかわからない、哀れな怪物が?

 なんて酷い笑い話だろう。


 それに……正直、ユリウスはフィーナが誰かの血を吸う姿を見たくなかった。

 ユリウスにとってフィーナは、誰よりも真っ当で、輝かんばかりの、美しい人間だった。

 ここ数百年見ることのない、本当の……。


「恨んでくれ」

 そう、ユリウスは絞り出すように呟く。

 フィーナはせめてもの仕返しとして、首を横に振ってやった。


 絶対に恨まない。

 だから、忘れないで。

 そう言わんばかりに。


 ユリウスは静かに、フィーナと唇を重ねた。

 想定外で驚きはしたものの、フィーナはそれを静かに受け入れる。

(……存外に、ロマンチックな男だったんだな。死の口づけなんて)

 それが、フィーナが意識を落とす前の最後の思考だった。




 目覚めたのは、ユリウスのベッドの上だった。

「はれ?」

 フィーナは起き上がり、首を傾げる。

 覚悟はしていた。

 自業自得だった。

 必死に恨まないようにした。


 だから、どうして自分が無事なのかわからなかった。


 ここは夢の中?

 それとも妄想?

 そんなに自分はユリウスとの生活を楽しんでいたのか?

 というか、私、あれがファーストキスなんだけど?


 頭の中がこんがらがる中、ユリウスが部屋に現れた。

「おや嬢ちゃん。目覚めたか? 良かった良かった」

「ひゃふっ!?」

 顔を赤らめ、フィーナは目を逸らした。


「どしたよ嬢ちゃん」

「な、何でもない! それで、これはどういうことだ? 一体何が……」

「そうだなぁ。何から伝えようか……」

「私は何故、無事なんだ」

「そうだな。それは……」


「も、もしかして愛のきせ――」

「俺の『因子』を嬢ちゃんに混ぜたんだよ。ん? 何か言いかけたかい?」

「い、いや。何でもない。そうか。……だから私は無事……けふっ」

 突然、フィーナの口から盛大に血が零れ落ちた。


 急な吐血に目を丸くして、フィーナは困惑気味にユリウスを見つめた。

「あー、うん。見ての通り、無事じゃあないんですわ。ぶっちゃけロシアンルーレットだったのよね。嬢ちゃんが目覚める確率って」

「……大体六分の一か」

「あー、すまん。逆ロシアンルーレットの方が近いか。もっと確率低いけど」

「もしかして……私、極めて運が良かった?」

「今の状態の身体ってさ、無理やり俺の『因子』を取り込ませて吸血鬼化を抑制してるだけなんだ。ぶっちゃけると、二つの怪物が身体の中で暴れてるみたいな感じ」

「……まあ、うん。助けてもらったわけだし、他に手段なかっただろうから何も言わないけどさ……」

 なんとも釈然としない気持ちが、フィーナの中に残っていた。


 実際のところ、フィーナの現状は助かったとはとても言えない。

 正しく言えば、これは遅延に過ぎなかった。


 これからも吸血鬼化は進行し、それが致命的なところに達するたび、フィーナはユリウスの『因子』を取り込まねばならない。

 そしてユリウスの『因子』を取り込み続ければ、今度は別の問題が発生する。

 今はまだ吸血鬼化抑制のために必要な最低量だが、それでも繰り返せばどうなるか……。

 その末路は、ユリウスさえ想像出来ない。


「つまり、私はユリウスの因子で抑えられているうちに、吸血鬼化をどうにかしないといけないということか?」

「ああ。そして俺は吸血鬼化の対処については、親を殺す以外に知らない」

「そうか……なら、もう一つ聞いてもいいか?」

「ん? なんだい?」

「ここまでして助けたということは、吸血鬼化をどうにかするか、どうにもならないその瞬間まで、私の面倒を見てくれるということと考えてもいいのかい?」

 言われ、ユリウスはきょとんとした表情を浮かべた後、静かに考え込みだした。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そこで駄目と言われたら非常に困るんだが……」

「いや、その認識で構わないよ。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「いや、助けるつもりだった自分に驚いてるだけだ。どうやら、嬢ちゃんに……」

「わ、私に惚れ――」

「友情を感じてるらしいな。俺らしくもなく。……ん? 何か言ったかい?」

「いや、友情大変結構だと!」

「そか」

「ああ……じゃ、長い付き合いになるだろうがよろしく頼んでもいいのかい?」

「任されましょうかね。クソ蝙蝠をぶち殺すまで。もしくは……」

「君に私が殺されるまで、かい?」

「逆でも構わないよ? 嬢ちゃんが俺を殺し、道理を弁えた怪物として生きても」

 フィーナは静かに苦笑を見せた。


「そのつもりはないし、それを望む君を理解するつもりもない。私は人間として、君の友でいたいからね」

「……いいね。それはとてもいい答えだ」

 静かに、ユリウスは手を伸ばす。


 フィーナはその手を掴み、相棒としての握手をした。


「とりあえず目下の目標として……」

 フィーナはぽつりと呟く。

「して?」

「いや、口にするのは無粋だった。行動で証明してみせよう」

 そう言って、笑ってみせた。


 必ず、嬢ちゃんと呼ばれるのをやめさせて、対等な存在として見てもらう。

 そんな小さな野望を胸にして。


最後までお読み下さりありがとうございました。

お楽しみいただけたでしょうか?


十万文字一括りのお話としてプロットを立て書いてみましたが、なんか思ったより文字数足りませんでした……。

ですが一応はこれで一区切り、続きもある程度考えてはいますが、十万文字一区切りを目標し新しい話を書いていく予定なので、ここまでです。


もしも楽しんでいただけましたなら、良いねブクマ感想のほどをどうかよろしくお願いします。

その一アクションが私のモチベに変わります。

変わります!


特に、もっと見たいとかもっと書いてとかそういう声はとても嬉しいです。

嬉しいです!




では、最後までお読み下さりありがとうございました。

またあなたが私のお話に手を取っていただけるよう、心より祈っております。


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