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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第二部 恋人編
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第8章 サボり魔王子の大切なもの②

ミルティアは自由が利かなくなる寸前に、ショコライルからプレゼントされたペンダントを握ることはできたが、すぐに自由が利かなくなり倒れると、ペンダントを握っていた手の力も抜けてしまいペンダントを握ることすらできなくなっていた。



 身体の力は抜けているのに不思議なことに意識ははっきりしていた。目は開けることができてはいるが、手足に力は入らず、口も動かなくなっていた。顔を動かすこともできないため、今目に入ってくる景色しか見えない。


 ソファに横になるように倒れたミルティアが見る視界には、苦しそうに何かに耐えて身体を震わせているアニスと、そのアニスや倒れたミルティアを心配する素振りは見せず、ただほくそ笑んでいるサマド公爵の姿が映った。



 


「術を自力で解こうとしているとは……だが残念だったな。もう手遅れだ。」

 

「くっ……。」

 

「そう無理するな。抗うから立つ事もままならなくなっているではないか。お前にはもう少し術にかかっていてもらいたかったのにな。」

 

「きっ……貴様……何をした……。」

 

「何をした?自分が1番分っているのではないか?」



 


 身体の自由は利かなくても、耳は聞こえるミルティアには、2人のやり取りがよく聞こえる。苦しそうなアニスの声から目が虚で静かだったアニスは、何かの術に掛かっていたことがわかった。どうやらその術を自力で解こうとしているため、苦しそうにしているようであった。

 

 もう1人の人物、サマド公爵はミルティアが知っている人物ではなかった。今まで見ていた気が強い娘に手を焼く、少し頼りなさそうな姿とはあまりに別人の姿であった。人が苦しんでいることなど構わないあまりに冷酷な姿が、どうやら彼の本性のようであった。




「お前がお茶に入れた毒を彼女に飲ませた……それだけだ。」

 

「……毒?」

 

「入れた記憶はないのか?まあそんなことどうでもいい。毒を入れたのは間違いなくお前だ。」



 アニスはその言葉に力が抜けてしまいしゃがみ込んでしまった。



「そ……そんな……。ミルティア様に……なんの恨みが……」



 しゃがみ込んだことによって、ミルティアの視界から消えてしまったアニスがどんな表情をしているのかわからない。だが、声の震えからかなり動揺していることは、手に取るようにわかった。

 

 術はまだ完全に抜けていないのか、呼吸は荒く酷く苦しそうである。だがアニスはその状態のままサマド公爵を追及していく。



 


「恨み?お前達に恨みはないよ。ただ私のことを正当に評価しない、あの若造の大切なものだから……ただそれだけだ。」

 

「そんな理由で……人を傷付けるなんて……。」

 

「そんな理由?あいつのせいで私は魔法騎士団長の座を降ろされた。」

 

「それは……そちらの家の問題……、ショコライル様は……間違ったことは……しておりません!」

 

「黙れ。ただの使用人が!いいか、サマド公爵家は歴史が長い由緒正しい家柄だ。それなのに、同じく歴史があるカルレッタ公爵家ばかりが優遇され、我が家は遅れをとっていた。私は高い魔力量を持って産まれたため、ついにカルレッタ公爵家を出し抜けると皆が喜んだんだ。なのにだ、魔法騎士団長を退けられた私と、片や宰相のカルレッタ公爵家。こんな冷遇許されるわけがない!」



 魔法騎士団長を退いたのは自主的と言われていたが、まさか辞めさせられていることをミルティアは知らなかった。何より特別顧問という職を与えられているのに、何が不満があるのかよくわからない。それに、その件に関してショコライルが絡んでいること、それにより恨まれているなどミルティアが知る由もない。


 話を聞いてもなお、何故ここまでされるのか理解できずにいた。先程よりも呼吸が浅くなり頭が働かなくなってきた気もするが、自分の身に何が起きているのかミルティアは未だにわからずにいた。





「冷遇ではなく……説明されたはずです……」

 

「あの理由で納得するものか!サボり魔王子とバカにされている王子など、私の可愛いメランカが好意を寄せればすぐに靡く(なび)と思ったのに……あのバカな若造はこんな男爵家の令嬢にうつつを抜かしおって。」

 

「ショコライル様も……ミルティア様も……素敵な方です。」

 

「メランカの魅力に気付かないなど、見る目のないただのバカと一緒だ。メランカと結婚できれば、王家と強い結びつきができる。あんな若造、私の思うように動かし私がこの国の実権を握ろうと思っていたのに……全て台無しではないか!」

 

「……だから……、今回の計画を?」

 

「ああ……。結婚できないとなれば、私が新たな王となればいいだけの話だ!」

 

「そんなもののために……、国民の命まで犠牲にしようと…」

 

「必要な犠牲もあるからな。多少は仕方ない。新たな国の誕生に貢献したとして、後々まで語り継げばいいだろう?」



 あまりに自己中心的な考え方に、アニスの怒りは我慢の限界だった。

 ただでさえミルティアを危険な目に合わせているこの男をなんとかしたいのに、未だ術が解けず身体がうまく動かせない。抗えば抗うほど体力を消耗してしまうが、そんなこと構わなかった。一刻も早くミルティアを助けたかったのだ。


 

 アニスはミルティアに目をやる。力なくソファに倒れているミルティアは、先程よりも息が浅くなり呼吸が苦しそうに見えた。顔色も悪くこのままでは本当にミルティアの身が危ないと告げている。


 すぐに何とかしたいのに、動けない自分がもどかしい。




「何故……王都に用意した魔法陣だけでは飽き足らず、こんな……ミルティア様のところまで……。」

 

「さっきも言っただろう?あいつの大切なものだからだよ。約束の時間になっても魔法陣は発動しなかった……。全てあの若造の仕業だろう?直に私の元にも真相を知ったあいつが来るはずだ。だが、ただ捕まるなんて馬鹿らしい。あの魔法陣は私が長年計画のために温めてきた大切な子供みたいなものだ。その大切なもの奪ったんだ。だったら、あいつにも大切なものを奪われる気持ちを理解させればいい。」

 

「そんな……くだらない理由で……」

 

「くだらないではない!あいつがどんな苦悶の表情を浮かべるか楽しみだ!」



 アニスは悔しくて仕方なかった。何故部屋の扉を開けてしまったのか、何故術にかかってしまったのか、何故術を跳ね返せないのか……そして何故ミルティアに自ら毒を入れてしまったのか……この短時間に後悔しても仕切れない程、強い悔しさに苛まれていた。


 

 自分自身への怒りは、術を跳ね返す原動力になっていた。少しずつ回復する手足が自由に動く感覚、頭の中はモヤがかかっているかのように思考が制限されていたのが、少しずつはっきりしてきて、頭の中で様々な事を考えられるようになってきていた。

 少々無理に術に抗っているため、体力の消耗は酷かったが、なんとか自分の意思で動かされるところまで後一歩というところまで来れた。


 

 アニスは力強くサマド公爵を睨みつける。虚げだった瞳が自らの意思を宿したように力強くなったことにサマド公爵は気がつくと、鼻で笑い出した。




「まさか……術を自分で解くとはな……。だが、体力の消耗が激しく動けないであろう?だから無茶するなと言ったのに。」

 

「あなたを捕まえるためなら、多少の無理は目を瞑ります。」

 

「……いい心意気だ。だが私が捕まる?笑わせないでくれ。元より私は逃げないよ。」

 

「素直に降参すると?」



 アニスの問いかけに、サマド公爵は口角を不気味に上げて微笑む。



「降参?何のことだ?私は毒を主人に飲ませ殺した裏切り者を捕まえた、善良な陛下の部下だ。」

 

「何が言いたい?」

 

「最初は不思議な術で操られたお前を私が発見し保護。だが不幸なことにミルティア嬢は命を落とすというシナリオだった。だが、お前は術を解いた。となるとこの話は通用しない。」

 

「だから……?」

 

「主人に悪意を持って毒を飲ませたお前を、私が偶然目撃。応戦してきたためやむなく交戦し、お前は命を落とす。ミルティア嬢は手を尽くしたが残念ながら命を落としてしまった……。こうすることにした。お前は裏切り者の罪人、そして私は1人で勇敢に戦った褒美をいただけるだろう。」

 

「そんな……上手くいくわけない!」

 

「お前達はここで命を落とすのだ。私の言葉を否定する者はいない……つまり私が何を言っても信じられる。」

 

「なんてこと……」

 

「さあ、おしゃべりはこのぐらいにしよう。せいぜいあの世で後悔するんだ。お前のせいでこの女も命を落とす……いい仕事をしてくれてありがとう……さあ、時間だ!」



 サマド公爵は絶望で打ちひしがられているアニスに向かって手を翳す。手の周辺に風の渦が出来始めているため、どうやら風を集めて一気にアニスにぶつけるつもりなのだろう。


 アニスは術を解放するのに力を使いすぎたのか、動くことができないようであった。

 ミルティアはただ動く事も声を出す事も出来ず、目の前でアニスが今まさにサマド公爵によって傷つけられようとしているのを見ていることしかできない。どんどん息苦しくなっていくが、いまは何よりもアニスに無事にこの場から逃げ出して欲しかった。

 

 

 アニスのせいではない。ミルティアはアニスのことなど一度も責めようと思ったことなどない。こんなことになった原因がたとえアニスが淹れたお茶だとしても、アニスはただ操られていただけなのだ。

 アニスと長く一緒に過ごせばわかるが、アニスは本当にミルティアのことを大切にしてくれた。そんなアニスがこの状況を1番苦しんでいることなど、ミルティアは充分理解している。


 

 もしここでミルティアは命を落としたとしても、アニスには生き延びて欲しかった。悪いのはサマド公爵で、アニスは何も悪くない。そう伝えたいのに、「逃げて」という簡単な言葉も出てこない。本当に何も出来ない自分が嫌になる。



 サマド公爵の手の周りには風の渦が大きくなり、部屋にも風が強く吹き荒れる。



「さあ、お終いだ。」


 サマド公爵がアニスに向かって、風魔法をぶつけようとしたその瞬間、勢いよく扉が開き強力な風魔法が部屋の外からサマド公爵目掛け放たれる。

 サマド公爵はアニスにぶつけよつとしていた風を、自分に向けられた風を防御するために放つため、強力な風がぶつかり合い部屋はその衝撃で強い風が吹き荒れた。

 あまりの衝撃にサマド公爵はふらつき倒れる。その時ものすごい勢いでサマド公爵を取り押さえる人影と、アニスに走り寄る人物、そして



「ミルティア!!」



 と叫ぶように悲鳴にも似た声が部屋中に響いた。

お読みいただきありがとうございます



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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