028.『竜の呪い』
「ドラゴンとは一体どんな存在か、という所から話そうかしら」
「大昔の遺跡から発掘された文献からもその名を確認出来るくらい、古くからドラゴンという存在は確認されていたわ。今現存するドラゴンの中には千年の時を超えてなお生きている個体もいるという話よ」
「また西方の聖王国の大聖典では『主神はまず最初に陸、海、空を作った』、『主神はその次に大地を踏む生き物、海を泳ぐ生き物、空を駆る生き物を作った』とされていて、それらの生き物は鱗に覆われていた、と記されているわ」
「御伽噺のように聞こえるかもしれないけど、この世界の始まりからドラゴンという生き物は存在していたのかもしれないわね」
「本来、ドラゴンは食事を必要としないの、活動に必要なのは魔力よ。これは食物を糧とする生物としての理から外れているわ。だから生き物というより、精霊の存在に近いと考えられているの」
「ただ他の生命を捕食する事で栄養や魔力を取り入れる種族もいるわ、翼竜が良い例ね。それを純粋なドラゴンとしての力を失った、と考えるか、この世界の理に適応した結果と捉えるかは今でも議論が尽きないのだけれども」
「纏めると、ドラゴンとは原始の時代から存在する生物でありながら、どの生物よりも精霊に近しい存在。精霊のように魔力を糧に生きながら生物のように成長し続ける、そんな存在なのよ」
語り終えたフレアは、一つ息を吐くとカップを呷る。夜のように黒い液体は、恋のように甘くは無かったが、その苦味が心地良い。
「ふぅん、美味しいわね、この珈琲」
「気に入ったのなら何よりだ」
「あんた昔からこういうの拘るタイプだったわよね」
小雪の降る外からクゥロの家まで辿り着いた五人は、家の台所のテーブルを囲んで座っていた。クゥロが珈琲を淹れている間、軽く自己紹介を済ませると「先に軽く説明するわね」というフレアの言葉から先程の講義が始まっていた。
「ドラゴンが凄い生き物だってのは分かったかな、うん」
「そうね、それと戦って勝ったとーやも凄いって事もね」
「父さん……本当に偉い……」
だが、三人の反応はこのような物だ。いきなり竜についての抗議をされたのだから当然の反応とも言える。それでもフレアの話す内容を流したりはしない。クゥロに関係している事柄だからだ、それぞれ自分の中で理解しようと努めていた。
「それで、フレアさんが言っていた"呪い"はどう関係してくるの?」
リズがそう聞き返すと、メアもリリーもそれに習ってフレアを見詰める。フレアはちらりと横に座ったクゥロを見る。あんたが話しなさい、という意味の籠った視線だ。
「メア、リリー、それにリズ。黙っていて済まない」
覚悟を決めた面持ちで、クゥロは向かいに座る三人の目を順にしっかり見た。その真剣な眼差しに、メアもリリーも背筋が伸びる。
「数年振りに帰った俺を迎えてくれたリズや村の人に余計な心配を掛けさせたく無かったし、メアとリリーと一緒に暮らすようになってからは一度も起こらなかった。……だから、今は話さなくてもいい、と思ってしまったんだ」
「だが先日の火翼竜との戦闘の後に、発作が起きてしまった。その時は運良く倒し終えた後で、メアとリリーが世話をしてくれたお陰で大事にはならなかった」
「それで俺に掛けられた呪いは完全には消えていない事を理解した。しかしそれをどうやって伝えようか、そうして先延ばしにしてしまっていたんだ。……メアもリリーも、発作の事を何も聞かずに気を遣わせてしまったね」
「とーやなら、本当に言わなければならない事なら真っ先に言ってくれると思ってたの」
「だから……メアと話をして、父さんが言ってくれるまで待とうって……」
メアもリリーもクゥロが倒れたあの日、不安で眠れない夜を過ごした。クゥロの身に何が起こったのか、知りたくて堪らなかった。
それでもクゥロが話してくれるのをただ直向きに待ってくれていたメアとリリーに、クゥロは愛しさを覚えた。
「メアとリリーの優しさに、甘えてしまったな」
「そんな事ないわ、私達の我儘だもん」
「でも……ちゃんと教えてくれる……?」
「ああ、全て話そう。リズもすまないな、付き合わせて」
「ううん、私もずっと気になってたの、メアちゃんやリリーちゃんから話を聞いてから。でも、二人が無理に聞かないなら私も黙っていようって」
「そうか、悪かったな。……さて、何処から話したものか」
クゥロは珈琲を一口飲み込み、舌を湿らせる。頭の中でまだ整理は付いていない。しかし愛娘達と幼馴染みの顔を見ていると、たどたどしくても良いような気がした。
「足りない所はあたしが補足してあげるから、あんたの言葉で話しなさい、クゥロ」
「ああ、フレア。そうするよ」
フレアの言葉に後押しされ、クゥロはゆっくりと話し出した。
「俺は昔、首都で冒険者をしていた。フレアはその時の仲間だ。リーダーの剣士"双つ無き鋭刃"ソート、主神に仕える聖職者"慈愛の織り手"アリア、小妖精族の魔導師"天月を焦がす炎"フレア」
「そして"宵染の影"……俺の四人でパーティを組んでいた」
「俺達は駆け出しの頃から一緒で、色んな所に冒険に行った。小鬼の蔓延る洞窟、燃え盛る炎が流れる山河、深い森の奥で人知れず咲き誇る花園、星が堕ちると崇められていた星辰の丘……数々の依頼をこなし、様々な魔物と戦って、色んな苦難を四人で乗り越えた」
「依頼の中には翼竜の群れ、はぐれ火竜の討伐があって、フレアの竜研究のお陰で乗り越えた。それからドラゴン退治の依頼が増えてな、竜害に見舞われる人達を救おうと受けに受けて……気付けば俺達のパーティは"竜滅"なんて大それた名前で呼ばれるようになった」
「だからその依頼に呼ばれるのも必然だった。その依頼とは、とある国からの緊急依頼だった」
「内容は、邪竜の討伐。俺はこの邪竜によって"竜の呪い"をつけられた」
邪竜という単語、そしてその邪竜につけられた"竜の呪い"という言葉に、顔が曇る三人。
「元々、ドラゴンにも善悪があるの。理性や善性を持つ、人間と友好的な関係を結べるドラゴンは聖竜と呼ばれるわ。メテオラもその類ね。国によっては守護竜として奉り、国のシンボルにもなる程よ」
「逆に、獣性や悪意に満ち、世界を壊す事に無心するドラゴンは邪竜と呼ばれるわ。それらのドラゴンには話し合いなど通じない、ただ本能に導かれるまま破壊を撒き散らすだけの存在よ」
フレアの解説が挟まれる。その顔は当時を思い出しているのか、苦々しく歪んでいた。
「討伐依頼を受けた邪竜は"災厄"という名で呼ばれていた。身体から汚れた瘴気を撒き散らし、猛毒の吐息で大地を侵し、その一声であらゆる生物は我を忘れて狂気と破滅に誘う。その名に相応しい、破壊と暴虐に満ちたドラゴンだった」
「"災厄"が通った後の大地には草木の一本も生えず、川は毒性を帯び、生き物達は殺し合い、その死骸は腐り果て……惨憺たる状況だったそうだ。その依頼を受けた時、既に幾つかの村や町が壊滅していた」
「そんな"災厄"を討伐する為に、俺達は呼ばれた。他にも名うての冒険者達がその依頼に呼ばれていたし、国からは軍隊が派遣される事が決まっていた。冒険者達はその討伐するにあたって知恵を貸し、その手を貸すように言われた」
「フレアや他の冒険者達と何度も話し合い、何日も時間を掛けて準備をした。国軍が"災厄"を誘き出して平地で迎え撃ち、倒せるならそのまま。もし国軍が敗れるか、"災厄"が寝ぐらに逃げるようならば待ち伏せをしていた冒険者達が止めを刺す、そういう手筈になった」
「しかし"災厄"は恐ろしく強かった。国軍は移動式の大型弩砲を備え、"竜咆哮"による狂乱を防ぐ為に結界を張る魔導師や聖職者達を駆り出し、決死の覚悟で挑んだ国軍ですら半数が命を落とした。それでも"災厄"の片目を潰し、手傷を負わせる事が出来た」
「彼らが命を張らなければ、俺達だけでは倒せなかっただろう」
自分達がその場に居れば何かが出来た、という単純な話では無い。彼らは彼らの戦うべき戦場で戦った、それを必要な犠牲だ、と言い換える事も出来る。それでも悼まずには要られなかった。
「"災厄"の寝ぐらは地の底まで続くのでは無いかと思う位に深い縦穴だった。残留した瘴気が漏れ、辺りは何人をも拒む毒の沼地になっていた。状態異常を無効化する"聖息吹"を掛けて貰い、俺達はその洞穴に潜んでいた」
「その場にいたのは俺達のパーティを含めて二十人程の冒険者だった。同じギルドで顔を合わせた事のある冒険者もいれば、遠くの国で風聞だけ聞いた事のある冒険者もいた。皆、実力者揃いだった」
「"念話"で国軍が半壊した事、手傷を負った"災厄"が寝ぐらへと向かっている事を告げられ、覚悟を決めた」
「そうして俺達は"災厄"と対峙したんだ」
話すに連れ、クゥロの顔は険しさを増す。まるでその時の事を追体験しているようにメア達には感じられた。
「捻じくれた角、毒々しい色彩の鱗、憤怒の表情を浮かべたその顔は、直視するだけで生命力を削られるようだった」
「四方を囲むようにして、俺達は戦った。瘴気を風の壁で阻み、猛毒の吐息を炎で焼き尽くし、聖なる加護を身に纏って立ち向かった。名匠の手掛けた名剣が、名槍が鱗を貫き、祝福済みの聖銀の矢が、多彩な魔法がその傷口を拡げた」
「"災厄"も暴れ狂った。憎悪の混じった咆哮は心を削り、その鋭い爪や無造作に振われる尻尾は体を削った。聖職者の祈りは絶えず、魔導師の詠唱は途切れず、辺りは血の匂いに満ちていた」
「酷く、長い戦いだった。それでも俺達は諦めなかった。それは、決して報酬の為では無かったよ。"災厄"によって殺された数多の犠牲者、そして共に戦っている冒険者達の為に、命を灯した」
「そして半日近い戦闘の末、"災厄"は俺達はのリーダー、ソートの"竜殺し"の一撃によって首を落とされた。俺達は、勝ったんだ」
もうすっかり珈琲は冷めていた。クゥロが口を付けるのを見て、時間が動き出したかのように各々喉を潤す。
リズは熱があるような顔で、ぼーっとしたまま珈琲を口に含み、次の瞬間に苦味に気付いて顔を顰める。クゥロとフレアが普通に飲む物だから何も考えずに同じのにしたが、リズの味覚にはまだ早かったようだ。
メアとリリーに出されたのは牛乳で割って甘く味付けした珈琲で、その甘さが身体に染み込むように感じられた。
「勝った、の? それじゃ、その悪いドラゴンを倒したのね?」
「勿論皆無事とは行かなかったけれどね、無傷の者は誰一人として居なかった。片腕を撥ね飛ばされた者も、尻尾の横薙を喰らって骨が砕けた者もいた。それでも、参加した冒険者達は全員生存出来たよ。毒や瘴気の所為で、治りは大分遅かったけれどもね」
「……良かった……でも、それじゃ……」
「呪いは、どこで受けたの?」
問い掛けにクゥロは少しの間、口を噤んだ。その隣に座るフレアの顔が強張る。
「静まり返った洞穴に、勝鬨が響いた。誰しもが声を上げて、勝利の喜びを分かち合っていた。そんな中、一人の冒険者が崩れ落ちた"災厄"へと近寄った。頭と胴体を断たれて生きている生物は居ない、そう俺達は思い込んでいた、だけど」
「……"災厄"は、生きていたのよ」
「フレア、君がわざわざ話す事でも」
「いいのよ、別に隠す必要も無いわ。まだ生きているとも知らずに不用意に近寄った、間抜けな冒険者はあたしなの」
フレアの呟きは、淡々としていた。事実を、ただありのままに話すように。その顔を覗き込んでも、何も浮かんではいなかった。
「あたしは研究者としての興味が抑え切れずにいた、だから安易に近寄ってしまったの。もっと近くで観察したくてね。……そうしたら、横たわっていた"災厄"の身体が急に起き上がって、太い腕があたしの体を掴んだわ。爪が肌に食い込み、身体が軋み、両腕が砕ける音がした」
「死に行く定めは逃れられない、そう理解した"災厄"はもう片方の腕で自分の心臓を抉り抜いたの。鷲掴みにした心臓を触媒に、そしてあたしを媒体にして、そこに集う冒険者達に竜の呪いを行使しようとしたの」
「ドラゴンの血は強い魔力を帯びているわ。全身を巡る、流動性を持つ血液は魔力との親和性が高いの。それが命の象徴とも言える心臓、そして死に絶える間際の、末期の血ならば呪いの効果は恐ろしい物になったでしょうね」
「ソートもアリアも、他の冒険者達も唐突な事態に動けなかったわ。苦しい戦いの後で、緊張の糸が切れてしまっていた。あたしも激痛でまともに抵抗出来なかった」
「動けたのは、最後まで気を緩めなかったクゥロだけだった」
「……たまたまだ、俺は"災厄"に近寄るお前を見ていただけだ。その前に、止める事が出来ていれば」
「それはあんたが気に病む事じゃないわ、全部あたしの所為よ」
その顔は無表情を保ったまま。しかし、強張るように上がる細い肩。
「クゥロは、ソートの"竜殺し"を掴むとあたしを捉えていた腕を切り落として解放してくれたわ。ご丁寧に、風の魔法で着地の衝撃を和らげて。そのまま、もう片方の腕を握られた心臓ごと断ち切ったわ。呪殺の触媒となる心臓を潰せばお終いだもの」
「でも、少しだけ遅かった」
「心臓は切られた衝撃で、込められた呪いごと辺りへ飛散したわ。そうして一番近くにいたクゥロは"災厄"と呼ばれた邪竜の、呪いの込められた末期の血を浴びてしまったの」
「……それが、クゥロの身体を蝕む発作、呪いを受ける経緯よ。あたしの不用意な行動で、クゥロは竜の呪いに侵されたの」
そう締めるフレアの言葉に、メアもリリーも言葉を発せなかった。自分達の愛しい父親をそんな目に合わせた、そういう怒りは全く無かった。
メアとリリーが責めるまでも無く、フレアは自分自身を責めているのだから。
無表情に徹していながらも、言葉の端に見える自責の念。命を賭けた戦いの後、勝利したと確信して気を緩めてしまう、それを自分達が責めて一体何になるのか。
「フレア」
「何よ。十数年越しの恨み節なら聞いてあげるわよ」
「あのな、そんなに君が気に病む必要なんてないんだ」
言い聞かせるようなクゥロの言葉に、フレアは顔を横に向ける。自分の記憶よりも幾分歳を重ねたクゥロの顔は、それでも記憶の通りに微笑んでいた。
「あんな天災みたいなドラゴンと戦う事になって、お互い死ぬ事だって覚悟の上だったろう? それでも俺も君も、ソートもアリアも皆生きて帰れた」
「でもその所為であんたは」
「あの時、一番に働いていたのはフレアだった。国軍に知恵を授け、対抗策を何日も思案し、いざ"災厄"と戦った時だって俺達に的確な指示をくれていたじゃないか。俺が生きているのは君のお陰なんだ、フレア」
「それは……やるべき事をやっただけよ」
「なら俺もやるべき事をやっただけだ。大事な仲間を守れた、俺はそれを誇らしく思っているよ」
「……」
暫しの沈黙の後、フレアの肩から力が抜けたのが分かった。
「全く、あんたは。あれから何年経っても、変わらないのね」
フレアは微笑む。久し振りに再会した時に浮かべた挑戦的なものではない、もっと柔らかく、照れたようにも見える笑顔だった。
「……そうね、過去を悔やむよりこれからの事を考えるべきね。まだあんたは生きてるんだもの」
「そういう事だ。……それにな、この呪いには少しだけ感謝してるんだ」
「はぁ? あんたが冒険者を辞めたきっかけに、何を感謝するっていうのよ」
「この呪いに侵されていなかったら、この村に帰ってくる事は無かったと思うんだ。そうしたらメアとリリーに出会う事は無かっただろう?」
「とーや……」
「……父さん……」
「それに、何年も居なくなっていた俺を迎えてくれたリズや、村の人達の暖かさを知れた。この村で、生まれた故郷でまた暮らす事が出来て、俺は良かったと思っているよ」
一点の曇りも無く、陰りも見せず、クゥロは微笑む。そんなクゥロから、フレアは目を逸らすように俯く。
「……少し、悔しい、わね……」
「……ん、すまん、聞き取れなかった。フレア、何か言ったか?」
フレアははっとしてすぐに顔を上げる。そこには先程一瞬だけ見せた陰りは見えなかった。
「何でも無いわ。……とにかく、呪いに掛かった経緯はもう全員分かったんだから、後はどうして呪いに侵されながらも今日まで生きてこれたか、それをあたしは知りたいの」
「ああ、それは俺もそうだが……大分話し込んでしまったし、俺の身体を調べるのは明日にしないか?」
「あんたね、呑気というか悠長というか」
「自分の身体だからな、そんなにすぐに発作は起きないよ。それと、今夜は泊まって行かないか? 久し振りに君に会えたんだ、もっと話したい事、聞きたい事が十数年分あるんだが……ダメか?」
「それは構わないけれど……ああもう、ペース狂うわね」
楽しげに顔を覗き込んでくるクゥロに、深く溜め息を付くフレア。無理をしているようには見えなかった。
「仕方ないわね、また明日にしましょう。今晩はあんたの好意に甘えて、泊まらせて貰うわ」
「ああ、嬉しいよ、フレア」
「あたしだってあんたに聞きたい事沢山あるんだから。こんなに可愛い子達を侍らせてるんだもの、詳しく話を聞きたいじゃない? あたしの同族もいる事だし、手荒な事をされてないか聞いておかないと」
向かいに座るメア達をじっと見るフレア。
「手荒な事だなんて、そんな! クゥロには助けて貰ってばかりで」
「あら、そうなの? それなら良いんだけど」
「フレアさん、私も……父さんの話、興味ある……」
「そうね! とーやが昔どんな事してたのか、色々聞いてみたいの。なかなかとーやに直接聞きづらい事だったから、話してくれると嬉しいわ」
「ええ、構わないわよ、クゥロがやらかした話一杯教えてあげるわ。いいわよね、"パパ"?」
「おいおい、からかわないでくれよ、フレア」
そうと決まれば、まずは食事の準備だ。そろそろ夕餉の時間だし、楽しい会話には美味しい食事と決まっている。久し振りに会う旧友の為に腕を奮おうと、準備をする為に席を立つクゥロ。
そんなクゥロを手伝おうとメアとリリーが立ち上がろうとしたが、優しく首を横に振ると察したような座り直す。折角なのだからメアとリリーにも、フレアと交流を深めて欲しかった。
「それでね、クゥロはあたしのローブの裾を踏んでーー」
「あー、それ、フレアさんの事だったのね! 前にとーやに聞いた事あるわ!」
「後は、食べられるキノコと食べられないキノコを間違えたりーー」
「父さん……今と全然イメージ違う……」
「あー、なんか小さい時のクゥロみたい。昔はよく、何も無い道で転んでたりーー」
本人を抜きにして、クゥロの話で盛り上がる四人の声を背中に、料理に取り組むクゥロ。聞き慣れた声と懐かしい声が混ざり合う賑やかさに、その口元から笑みが溢れるのを抑える事が出来なかった。




