孤児院にお別れ
昭和五十七年三月二十日
今日は、浩一の小学校の卒業式。
親として最後の晴れ姿が見れないと言う事は、本当に残念で仕方がない、きっと孤児院で用意してくれた洋服を着て卒業式を迎えた事だろう。
真由美の終業式が終わったら二人を迎えに行こう。
何年この日を待っていただろう、私は嬉しさでいっぱいだ。
きっと、浩一も真由美もワクワクして待って居ると思う。
親の勝手で、約五年半の間、お前達と離れて生活しなくてはいけなくなった事、すまないと思っている。
浩一・真由美 随分と長い時間、辛い思い寂しい思い不敏な思い沢山させた事、本当にすまない
昭和五十七年三月二十七日
昨日は床に入るが寝付けず、そのまま朝を迎えてしまった。
今日は、待ちに待った、浩一・真由美を迎えに行く日、終業式が終わる時間を見計らって家を出た。
いつものように孤児院へ車を走らせる。そして、この道を通るのは今日で最後になる。
孤児院の駐車場に車を停め、玄関の方に歩いて行くと、浩一と真由美は荷物をまとめて待っていた。
『お父さ~ん』
『お父さ~ん』
浩一と真由美は大きな声で呼んでいた。
『お父さん、やっと今日が来たね』
「もう泣いても笑っても今日が最後だからな よーくここを目に焼きつけておけよ」
浩一は何度も何度も振り返り周りを見ていた。真由美は真由美で、
『今日から うれしーーぃ』
「そうだね」
『ヤッター、家で好きな事ができる』
『あ~これからは、いつでもレコードが聴ける~うれし~』
そう言って喜んでる二人。
「じゃっそろそろ家に帰ろうか」
子供達と別れたあの日から、どれだけこの日を夢見た事か分からない、一緒に帰ろうの言葉、私は涙が出そうでサングラスで顔を隠す。
子供達の荷物を車に積み、私は先生方の所へ最後の挨拶に行った。
「長い間、本当にお世話になりました。これからは三人で頑張ります」
「浩一君も真由美ちゃんも良かったね」
「これからも元気で頑張るのよ、それから、お父さんの事、助けていかなきゃダメよ」
『は~い、先生も元気でね』
『先生、ありがとうございました。』
「いつでも遊びに来なさいね、待ってるからね」
先生は泣いていた。
『はい、遊びに来ます』
「浩一・真由美そろそろ行こうか?」
『うん』
『早く帰ろう』
先生にお礼を済ませ親子三人は車に乗り、帰ろうとした時、孤児院の児童達も見送りに出てきた。
浩一・真由美に大きく手を振って・・・
『浩ちゃん・まぁちゃん バイバ~イ』『今度遊びに来てね~』『バイバイ』『元気でね』
子供達の見送りをしてくれた。
浩一・真由美も大きく手を振り別れる寂しさを感じていたようだ。
帰りの車の中とにかく浩一と真由美のおしゃべりが止まらなかった。
浩一の好きなアニメのカセットテープをかけ、一人で歌を歌いながら楽しんでいる、私は嬉しくて涙をこらえるのに必死だった。
途中のインターでお昼ご飯。
「お前達、好きな物 頼みな」
『僕、オムライス』
『真由はスパゲティーがいい』
浩一も真由美も、美味しそうに食べている、二人の姿を見ていると私は嬉しくて仕方がない。
我が家に帰って来ても、まだ信じられず、また数日したら孤児院に送って行かなければと思ったが今回は違う。
この先、何があろうとも我が愛児二人と生活して行かなければならない、そして二度と私の手から離すまいと心に誓った。
今日から、三人の生活が始まる。頑張ろうぜ、我が愛児達!
次の日
子供達が帰って来て、私は、のんびりしてるヒマなどなかった。
浩一の中学校の制服やカバンを買いに行ったり、他にも揃える物が沢山あった。
また、真由美の小学校の手続きをしたり、親子三人、忙しい日々を送った。
父親として、やらなければいけない事、子供達のため朝から動き回りクタクタになったが、これから子供達と
一緒に居られる嬉しさ、楽しさでいっぱいだ。
浩一・真由美の成長は途中 少しづつしか見れなかったけど、これから私が死ぬまでこの目に焼き付けていくつもり。
今まで、お前達にとって最低な父親だったかもしれないが、この五年半の間 離れて暮らさなきゃいけなかった意味を、いつか理解してほしいと思っている。




