春休み前の気持ち~春休み
そろそろ、浩一・真由美が春休みになると言うのに、気持ちがどうして良いのか分からず、実家の母に電話して相談した。
♪トゥルルルル♪
「はい、もしもし佐山ですぅ」
「もしもし俺だけど」
「ああ、孝かぁ」
「子供達、春休みに入るんだけど迎えに行こうか迷ってる」
「お前が、仕事休めるなら、子供達 連れてくればいいじゃないか?」
「仕事は休めると思う。じゃそうしようか」
「そうしな、子供達も喜ぶから」
母と電話してる時 思った。
若い時は、困った時、母に電話する事が出来たけど、浩一や真由美がこのような時、自分の母親に打ち明ける事が出来るのだろうか?
今は、電話で相談出来るけど、二人の子供達は誰に打ち明けるのだろうか?
父に打ち明けてくれるのだろうか?
やっぱり自分の母親が一番良いのかもしれないと思った。
二人の子供達に何と言って許しを得たら良いのか分からなくなってきた。
ただ、思い願うのは人並みの人間になって、良い事、悪い事は自分で判断出来る人間になってほしい。
そして、お前達の母親のように、自分だけの考えでこの世の中を渡ってほしくない。
私の気持ちが決まった。
春休みには、仕事を休んで浩一・真由美と一緒に過ごすと決めた。
こんな事、何で考えていたのか分からないが、仕事も大事、金も大事、だが命よりも、もっともっと大事な・・・
最愛の子供達である。
この子供達は、親の身勝手な考えで、人の手によって育てられている、そのように思っても一人ではどうにもならない。
子供達が春休みに入った。
私は迷い母親に相談した結果、三月二十五日(日)から一週間、仕事を休んだ。
子供達を迎えに行く前の日、早く明日にならないかと電気を消して床に就くが、なかなか寝る事が出来ず時計ばかり見ていた。
二十五日、早朝、子供達の待つ孤児院へ向かった。
朝六時に家を出て、道路が空いていたのか予定より早く、七時四十五分に孤児院に着いてしまった。
予定は九時、早く着いたけど手続き出来るかな?
「佐山です、外泊手続き、予定九時なんですけど出来ますか?」
「佐山さんですね。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。
「浩一君と真由美ちゃん呼んで来ますので お待ち下さい」
子供達は小さなカバンを持って走って来た。
『お父さん、僕達一週間もお家に居られるの?』
「あーそうだよ」
「ヤッター』
私は、ふと思った。浩一、いつの間にパパからお父さんって呼ぶようになったんだ?大人になったな。
『パパー』
「真由美も大きくなったな」
『お家帰れるの?』
「そうだ、帰ろう」
真由美は、まだパパと呼んでくれて嬉しかった。
早速、三人は車に乗り込んだ、毎度ながら子供達の嬉しそうな声、あの笑顔、浩一・真由美は私の宝だ。
我が家に帰って来ても、特別どこかに連れて行く事もなく、家でのんびり時間だけが過ぎていった。
今、考えれば一週間は本当に早かった。
父親として何をしてやったのだろう?
果たして子供達は本当に喜んでくれたのだろうか?
三月三十一日、子供達を孤児院に送る日の朝。
『お父さん、どうして僕達は孤児院へ行かなければ行けないの?』
『早く、お父さんと一緒に生活したい、何でも言う事、聞くよ』
浩一は、この理由分かっているはずなのに・・・
「浩一・真由美 良く聞け!来年か再来年には一緒に生活出来ると思う」
『本当に?』
「あー出来るだろう」
そう子供達に伝え孤児院に送って行った。
別れる時、子供達は何も言わず手を振ってくれた。
二人の子供達が居るから一生懸命働く事が出来るが、もし居なかったら仕事もせず、毎日ダラダラ可笑しな、一日を過ごしていたに違いない。
子供達を見るたびに大きく成長している。子供達が辛い日々を送っているのだから一生懸命働かなければと思い、毎日トラックに乗って仕事をしている。
今度、子供達にいつ会えるのかな?
二月・三月は結構休んでしまったから、四月は日曜日も仕事しよう。
遊んでいると悪い気持ちが出てしまうから、用のない時は、日曜日も馬鹿みたいに仕事しよう。
これから、子供達に会う時は何日でも仕事を休む、金には変えられないと思った。
昨日まで居た、浩一・真由美
テレビを消して、一人で酒を飲み、この一週間を振り返ると涙が出てきそうだ。
こんなに可愛い子供達を愛しているのに、なぜ!一緒に生活出来る良い考えが浮かばないのだろうか?
今日は風呂も入らず子供達が出しっぱなしにした物を片付け、一つ一つ片付けていると、隣の部屋から浩一と真由美が出てくるような気がして仕方がない。子供達の部屋に行って見ると、浩一が部屋を片付けたから、
もの凄く綺麗だった。それだけで心の寂しさが込み上げてくる。
小さな声で子供達に話しかけた。
「浩一、居るのか? 真由美、おいで」
返事が返ってくる事はないと分かっているけど、すぐ傍に居るような気がした。
私の言う事を何でも理解出来る、浩一、少し甘ったれる、真由美
帰る日の朝に言われた言葉が頭から離れない。
浩一・真由美 お父さんも一日だって、お前達と別れて生活するのは死ぬより辛いけれど、人間は生きて行かなければならない。
こんな苦しい事は、一日も早く忘れて人間らしく、誰も不幸にせず、浩一・真由美と三人で幸せに生活したい。
いつ父が、浩一・真由美の家に遊びに行った時も、ニコッと笑って迎えて欲しい。そして家族で話しが出来る明るい家庭を作って欲しい。
浩一・真由美 少し位の辛さは耐え忍ばなくてはいけない。今の父は、それと戦っている。
この辛さ、寂しさ、悲しさに打ち勝って、浩一・真由美が一人前になる日を楽しみに待っている。
力の続く限り働く、人間は働くのが一番。
だが、私は仕事が好きではなかった・・・




