年末年始④
一年が過ぎるのが早いと思った。
私は以前、たった一人で、仕事で九州に行った事を思い出した。
この家に、浩一・真由美が居たなら沢山のお土産を買ってきたのに、イヤ!本当は買ってきたかった。
九州に行っても何も買う気にならず、仕事が終わると真っ直ぐ東京に戻った。今、思えば何と寂しい事だろう。東京に戻っても誰も待っていてくれる人は居ない。
しかし、浩一と真由美が居るから仕事に励んでいられる。
今年が終わるのもあと少し。
十二月三十日になると最愛の子供達と一緒に七日間も居られる。早く三十日にならないかと、カレンダーを見て待って居るだけだった。
子供達が、不満な顔一つしないのは、父に対する心遣いなのか、こんな小さな子供達が親元を離れ、親子別々に生活するなど今でも考えられない。
この一年も、何とも苦しい一年だったが、早く楽しい一年だったと言える日が来る事を祈らずにはいられない。
あと三日・あと三日過ぎると子供達と一緒に居られる。
苦しみの中から、わずかな日だけれど子供達と一緒に居られると言う楽しみがあるから、挫けず、仕事だけを頼りに今日の今日まで頑張ってこれたのだと思う。
最愛の子供達、この父を許してくれ!
この父も、すき好んでお前達と別れて生活しているのではない。考えに考え仕方なくこの道を選んだ。
本当は、この道だけは歩まないように出来る限りの努力をしたけれど、お前達の母は私と子供達を捨てた。
しかし、今でも由美子を愛してる。
けれど・・・心から許す事が出来ない。
待ちに待った、十二月三十日。
朝早くに目が覚め、いつものように孤児院へ車を走らせる。
何度も何度も通っている道、片道二時間半~三時間はかかるが、子供達に会いたい気持ちが強くあっという間に着いてしまう。
浩一と真由美は外泊の準備をして待っている事だろう。
いつも、車を見つけると浩一が真っ先に走ってくる。今日もそうだった。
『パパーパパー、待ってたよー早く家に帰ろ』
「分かった分かった、早く帰ってゆっくりしよう」
少しすると。
『パパー』
一歩遅れて真由美が走ってきた。
『お家に帰るの?』
「そうだよ、真由美 可愛くなったなー」
「さぁ!外泊許可にサインして家に帰ろう」
七日間、子供達の外泊許可をもらい我が家に帰って来た。今年も年末年始は絶対我が家で過ごす計画だ。
浩一と真由美の楽しそうな声が家中に響き渡っている。我が家に子供達が居ると、こんなにも賑やかなのかと改めて実感した。
『パパ、明日はどこか連れて行ってくれるの』
「そうだなーどこか行くか?」
『ヤッター』
『まゆ、やったね』
『パパ、どこ行くの?』
「そうだな・・・・・・・・・そっか、奥多摩にでもドライブに行こうか」
「明日は早く起きて出かけるぞ」
浩一と真由美の嬉しそうな顔。
次の日。
「お前達、出かけるから準備しろ」
『僕もう出来てる』
「そうか、真由美は?」
『真由美も出来た』
「じゃ行くぞ」
二人の子供達を連れドライブに出かけた。目的は奥多摩湖へ車を走らせてるだけだったけど子供達は嬉しそう。途中、レストランにより食事をして、楽しい一日が過ぎて行った。
こんな日がずっと続けば何も言う事はないのだが。
なんだ、かんだで楽しい六日目の夜が来た。浩一は恐らく明日が来なければ良いと思ってるのか少し元気がない、私と今、同じ気持ちなのかもしれない、イヤ!間違いない。
一月五日 午後。
今日は子供達を孤児院に送らなければならない。
この七日間、子供達に出来る限りの事をした。
浩一と真由美が、どう思っているか分からないが・・・
孤児院に着くと。
『パパ、あと何年ここに居ればいいの?』
『パパ、お家に帰りたい、お家がいいよ』
子供達がそう聞いてきた。
「パパ、明日から仕事だから帰るぞ」
子供達の問いにはっきり答える事が出来なかった。
浩一・真由美ゴメン!もう少し待ってくれ。必ず一緒に生活出来るようにするから、ただ今、直ぐは無理なんだよ、分かってくれ。




