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42・唐揚げとエール

あとがきに、大切なお知らせがあります。

最後まで読んでくださると嬉しいです。

 あの勝負から、しばらくが経ち──。



「──カンパーイ!」



 今日も──ベルナードの町外れにある大衆居酒屋『よりみち亭』は、熱気と笑い声に包まれていた。


「大将、こっちに唐揚げ追加だ!」

「ハンナちゃーん、エールのおかわりお願いね!」

「はいっ、ただいまお持ちします!」


 木張りの床を、エプロン姿のハンナがパタパタと軽快な足音を立てて走り回る。


 客席には、仕事を終えて駆けつけた農家や職人たちが所狭しと詰めかけ、ジョッキを打ち鳴らしては豪快に笑い声を上げていた。


「いやぁ、それにしても──あの日は痛快だったぜ! あの気取った執事の野郎が、大将のハンバーグ食って言葉を失った時の顔!」

「違いない! やっぱり、大将の料理が世界一だな!」



 ──オズワルドとの勝負から数日が経ったが、未だにベルナードではあの時の余韻が冷めやらない。



 連日、店に押しかけては、あの日のことを肴にしながら、常連客たちが盛り上がっている。


 そして、その輪の中心には当然──かつては人を寄せ付けない冷気を纏っていた銀髪の美少女、エリシアの姿もあった。


「もう、あなたたちったら。あまりタクミをからかわないでよね」


 エリシアは呆れたように笑いながらも、ジョッキに注がれたエールを美味しそうに煽っている。


「そうです。タクミ様も照れてますよ。まあ……あのオズワルドさんが肩を落としてたのは、私もすかっとしましたが」


 エリシアの隣では、すっかり砕けた服装になったリネットも、鶏皮ポン酢をつまみに常連客たちと談笑していた。


「……ふう。ちょっと休憩」


 俺は厨房からその光景を眺め、ほっと息を吐く。


 オズワルドとの勝負が終わり、店も俺の料理人人生も、そしてエリシアの居場所も守ることが出来た。

 それを思うだけで、なんだか肩の荷がすっと下りるようだった。


「タクミ」


 振り向く。

 いつの間にかエリシアが輪の中心から離れ、カウンター越しに俺へ声をかけたのだ。


 ほんのりと頬を染めた彼女は、楽しそうにこう言う。


「アンナリーナさんから手紙が届いたわ。王都の料理ギルドが営業停止になったって。食中毒が出たそうよ」

「あらら、最悪だな」

「しかも、ギルド長のグレゴールがやってきたことも、全て明らかになって……あなたはここまで、全て計算してたのね」


 そう言うエリシアの目には、俺に対する好奇の光が宿っていた。


「どうだろうな。正直、ここまで上手くいくとは思ってなかったよ。ただ──」


 あの勝負、オズワルド一人で全て舞台を整えられるとは、はなから思っていなかった。


 たかが一介の執事に、王都の美食家たちを買収するのは難しいだろうしな。


 オズワルドの背後にいるであろう『黒幕』を潰さない限り、また別の方法で店やエリシアが狙われる可能性がある。


「おそらく、オズワルドの背後に潜む『黒幕』は、料理関係の者だと思ったんだ。オズワルドを倒しても、また次から次へと同じような刺客を差し向けられたら、溜まったもんじゃない」


 だから、俺はここで王立美食評議会のアンナリーナに、オズワルドの裏を探ってもらうことにした。



『料理勝負には手を出さなくていい。俺が自分の料理で決着をつける。その代わり、オズワルドがなぜ俺の店を潰そうとしているのか、その裏を調べてほしい』



 ……と。


「確信を得たのは、俺が料理人人生を賭けて、料理勝負を持ちかけた時だ。ただエリシアを連れ戻したいだけなら、俺が辞めるって言っても、ヤツにとては魅力的じゃないはずだろう?」

「まあ私を連れ戻した後、あなたがどうなろうが、オズワルドにしては知ったことじゃないもんね。しかも、あっちには私のお父様……グランフォード公爵当主という切り札がある」

「だな。だからあの執拗さは、あの執拗さは、明らかに『俺自身』を狙っているとしか思えなかったんだ」


 結果として、彼女は王立美食評議会の情報網を使い、オズワルドとグレゴールの密約の証拠まで掴んでくれたというわけだ。


「…………」


 話し終えると、エリシアは感心したように目を細めた。


「あの料理勝負を持ちかけたことまで、全部計算してたなんて……何回聞いても、あなたには驚かされるわ。正直、勢いだけだと思った」

「まあ勢いで言ったのは否定しないさ。実際、エリシアの涙を見て、腹が立ったのは事実だし。だからあの時──エリシア。お前を守りたいと思ったら、自然と前に進む勇気が湧いてきたんだ」


 そう言うと、エリシアはほろ酔いで薄い朱色に染まった頬を、さらに濃いものとした。


「……もう、ほんとに不意打ちで嬉しいことを言ってくれるわね。だから私は……」

「ん? なんか言ったか?」

「な、なんでもないわ! そんなことよりタクミ、唐揚げのおかわりをちょうだい! まだまだお腹が空いてるから!」

「あいよ!」


 俺が速攻で唐揚げを作り、エリシアの前に置く。


 彼女が唐揚げを一つ口に運ぶと、サクッという心地よい音の後に、熱々の肉汁が溢れ出した


「……っ! 美味しい。やっぱり、タクミの唐揚げがは世界一ね!」


 続けて、エリシアが満面の笑みでエールを流し込む。


 ……うん。やっぱり彼女はそういう顔をしている方が、一番似合ってるな。

 これからも、唐揚げとエールを頬張り、無垢な笑顔を見せてほしい。


 そうしみじみと感じていると、


「おっ! 大将とエリシアちゃん、なんだかいい雰囲気じゃねえか!」


 常連客の一人が、ニヤニヤしながら声を張り上げた。


「大将が身を呈してエリシアちゃんを守ったんだもんな! まるで騎士様とお姫様だみたいだったぜ!」

「それで、いつ結婚するんだ? エリシアちゃん!」

「えっ!?」


 突然の言葉に、エリシアの顔がボンッと音を立てて耳たぶまで真っ赤に染まった。


「け、結婚だなんて……! 私とタクミは、ただの店主とお客さんで……っ!」

「いいやいや、ただの客のために店を賭けられる店主なんていねえよ!」

「そうだそうだ! もう観念しなよ、エリシアちゃん!」


 周囲からの容赦ない冷やかしに、エリシアは両手で顔を覆ってジタバタと身悶えし始めた。


「リ、リネットぉ……」

「お嬢様、チャンスです! ここを逃せば、一生言うチャンスをなくしますよ! きっと成功しますから!」


 リネットに助けを求めるエリシアであったが、リネットも常連客の冗談に乗り出す。


「おいおい。お前ら、あんまりエリシアをからかうなよ」

「なんだよ大将、照れちゃって!」


 ダメだ。とりつく島もない。


 どうしようかと思っていると、店内を慌ただしく動き回っていたハンナがやってきて、俺にこう問いかける。


「……で、タクミさん。実際のところ、どんな結婚式にするんですか?」

「は?」


 まさか、ハンナがそんな冗談を言うとは思っていなかった。

 思わぬ方向からの追撃に、俺は思わず動きを止める。


 エリシアも「ハ、ハンナ!?」と悲鳴のような声を上げた。


「そうですね。ドレスの手配や、当主様へのご報告など、準備することは山積みです。早めに決めておくに越したことはありません」


 リネットも乗り気のようで、目を輝かせている。


「いや、だから結婚式なんて……」


 しない──と言いかけるが、やっぱりやめた。


 どうせ、酔っ払いどもの世迷言だ。ここで必死に否定して、場を盛り下げなくてもいいだろう。


 俺は頭を掻きながら、冗談交じりに笑って答える。


「まあ──もしやるとしたら、決まっている。ここ──『よりみち亭』で、みんな呼んで盛大にやるさ」


 そう言って、俺はぐるりと笑顔で溢れる店内を見渡した。


 その言葉に、エリシアの顔が今度こそ限界まで赤くなり、客席からは今日一番の大歓声が巻き起こった。


「よっしゃあああ! 言質取ったぞ!」

「大将、最高の宴会にしてくれよな!」


 沸き返る店内。


 ハンナも「わぁぁ……! わたし、ウェディングケーキ作れるように練習しますね!」と自分のことのように嬉しそうだった。


「もう……タクミったら、本当にバカなんだから……!」


 エリシアは真っ赤な顔で俺を睨みつけながらも、その口元はだらしなく緩みきっていた。



 ──ここには高級な食材も、華美な装飾も、堅苦しい作法もない。


 あるのは安くて美味い飯と、冷えたエール。そして誰もが肩の力を抜いて笑い合える、温かい空間だけ。


 だが、それだけで十分。人はそれだけで幸せになれるのだ。



 俺はフライパンを握り直し、笑顔で宣言した。


「さあ、お前ら! 夜はまだまだこれからだぞ! 腹いっぱい食って飲んで騒いで、帰ってくれよ!」


 今日も『よりみち亭』には、最高の笑顔と美味しい匂いが満ちていた。

【作者からのお願い】


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

この作品の本編は完結となります。

(続きの話や番外編を書きたくなった場合は、続けるかもです)


もし、ここまで読んでいただき、少しでも、


「面白かった!」

「ここまでおつかれさま!」

「次も楽しみにしてるよ!」


と思っていただけましたら、

下記の【☆☆☆☆☆】を、

【★★★★★】にしてポイントを入れてくださると嬉しいです!


★の数は皆さんの判断ですが、

★5だと今後の執筆に対するモチベがめちゃくちゃ上がって、作者への最高の応援になります!

なにとぞ、ご協力お願いします!

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