嬉しいはずなのに
面会室の扉を開けると、リーヴァが、緊張した面持ちで待っていた。
「リーヴァ」
その顔を見た瞬間、抑えていたはずの想いが、一気に溢れ出しそうになった。だが、神官の目もある。ラルローディアは、なんとか、それを抑え込んだ。
「久しぶりだな」
「うん…久しぶり」
席に着くなり、ラルローディアは、逸る気持ちのまま、切り出した。
「実は…呪いが解けたんだ。原因も、はっきりした」
「えっ…本当⁈…」
「ああ」
離れていてもずっと気がかりだったラルの呪い。それが解けたと聞いて、安堵の言葉が込み上げる。
「良かったぁ…もう体は辛くないんだね」
「ああ、色々調べてもらったり、迷惑をかけたから、どうしてもすぐに伝えたくてな」
「うん…」
「呪いの原因が義理の母だったんだ。当然ながら逮捕になった。おかげで家のことがな。腹違いの弟達はまだ小さいし、一応伯爵家だから、少しごたごたしているな」
久しぶりにリーヴァに会えた事が嬉しくて、つい饒舌になってしまう。
「うん…そっか…」
本来なら、明るく喜んでもらえるはずの報告だった。だが、リーヴァの反応は、どこか、鈍かった。
「本当によかった……」
喜んでくれている表情もどこか強張ったままだった。
「……リーヴァ?」
「あ、ごめんなさい。本当に、よかった」
慌てたように、笑顔を作る。だが、その笑顔は、どこか、いつもと違って見えた。
数ヶ月ぶりに会えたはずだった。ずっと、会いたかった。それなのに、目の前のリーヴァは、心ここにあらず、というような、曖昧な態度を崩さなかった。
「どうした?体調が悪いのか」
「……大丈夫、だよ」
「そうか。何か、変わったことは」
「特に……何も」
短い受け答えが、ぽつぽつと続いた。以前のような、温かい会話のやり取りが、うまく生まれなかった。
――なぜだ。
ラルローディアの胸に、じわじわと、不安が広がっていった。
自分への気持ちが、薄れてしまったのだろうか。あるいは、この数ヶ月、会えない時間が長すぎて、心が離れてしまったのか。そんな考えがラルローディアの頭を占領していく。
一方のリーヴァは、心の中で、必死に自分に言い聞かせていた。
――家族にそんな大変な事が起こっていたなんて…
義母の逮捕、弟たちのこと、伯爵家の今後。それだけでも、十分すぎるほどの重荷だ。
そこに、二人に子供が出来た、という、さらに大きな問題を、今重ねるわけにはいかない。
そう、頭では分かっていた。だが、その判断が、態度に、隠しきれない不自然さとなって表れてしまっていることに、リーヴァ自身、気づいていなかった。
「……申し訳ありませんが、ラルローディア様、そろそろお時間の方が…」
神官の控えめな声が、静寂を破った。
「え…もう?」
「リーヴァ……本当に…何かあったんじゃないのか?」
「ううん…何もないよ…」
その返事が本当のリーヴァの気持ちではないように思えた。だが今同じ問いをしたところで、返事は同じものになる気がした。
このままで良いわけがない。
「神官殿」
ラルローディアは、案内の神官に、声をかけた。
「来週、また、面会をさせていただきたい。予定を組んいただけますか」
「来週…ですか?」
「申し訳ないが大事な用事なんだ」
「わかりました。それでは時間を調整しますので、後日またご連絡させていただきます」
「ありがとう、よろしく頼むよ」
そのやり取りを見ていたリーヴァが、僅かに顔を上げた。
「……また、来てくれるの?」
「当たり前だろう」
「だって…すごい忙しいだろうし…身体だってやっと良くなったばかりなのに…」
ラルローディアは、まっすぐに、リーヴァを見つめた。
「何があっても、どんな時も、リーヴァより大事なものは無いんだ」
その言葉に、リーヴァの目が、揺れた。
「またすぐ会い来る」
そう言って面会室を後にするラルローディアの足取りは、来た時よりも、明らかに重かった。晴れやかな報告をしに来たはずなのに、代わりに、新しい不安を抱えて帰ることになった。
何を隠しているのか。それとも自分への気持ちに変化があったのか…
今までに全くなかった感情、恐れ、をラルローディアは、感じていたのだった。




