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「さあお爺さん、こちらですよ」
デートと聞かされたソフィーは、せっかくだからとジジイをエスコートする事にした。今もジジイと手を繋いでイバラの道を進んでいる。もちろん見た目はデートと言うより介護だ。
「すまんのぉ江藤さん」
介護だ。
本来イバラの道はそれなりに危険な道中である。地形ダメージを管理しつつ、モンスター襲撃にも備えなければならない。モンスターに気を取られすぎて地形ダメージで死に戻るプレイヤーも少なくは無い。だが今はジジイ特製の、回復薬濃口効果で行軍は楽勝であった。
「持続回復はとても便利です。でも本当にただで貰ってしまってよろしいのですか?」
ニコニコ顔のソフィー。先程10個程融通してもらったし、切れたらまたおいでと言われている。
「薬草10個で作れるしの。薬草は森林の村で安く店売りしてるしの」
「あ! でしたら今度たくさん薬草買って行きます! 材料費くらいは払わせて下さい!」
「おろ? まぁ江藤さんがそうしたいならそうしたらエエわいなぁ」
そうこうしていると、ようやく目的地へとたどり着いた。イバラのお姫様だ。
「おおう…… ホンマにイバラにがんじがらめにされとるのぅ……」
ジジイの目にもそれは痛々しい光景だった。可愛らしい女の子がイバラに縛られている状況なのだ。女の子は意識も生気も感じられず、苦しそうな青褪めた顔をしている。
「何とかしてあげたいのですが…… 伐採斧も通用しなくて。火魔法でイバラを焼いたりも出来ませんし」
現状お手上げですと、バンザイするソフィー。トッププレイヤーでもこの謎は解けて無い。
「じゃあ爆破するかの……」
「ちょちょちょちょお爺さん!! さすがにそれは!」
シレッと爆薬を用意し始めたジジイ。爆発の影響によるお姫様の安否など、到底考えはしない。慌ててソフィーが止めに入って事なきを得た。
「い、一応それは無しにしましょう。お姫様が跡形も無く消滅してしまいそうなので」
イベントの大爆発の戦慄が背筋を走る。アレは人を相手に使って良いような物では無いと思うソフィー。
「ほむ。それもそうか。ほしたらどないしたもんかのぅ」
イバラの周りをグルグル周るジジイ、するとお姫様の正面に立った時にそれは起こった。
【水の精霊の涙】を使用しますか?
「おろ? なんじゃこりゃ」
「どうしましたお爺さん?」
「水の精霊の涙使うか? 言うとる」
「水の精霊の涙? お爺さん持っておられるのですか?」
「おう、持っちょるよ」
「凄いですよお爺さん! それがおそらくキーアイテムです! 使って見て下さい!」
「お、おう!」
言われるままに【水の精霊の涙】をジジイが使用すると、お姫様にまとわりついていたイバラがスルスルと離れてゆく。そして全てのイバラから開放されたお姫様は生気を取り戻していた。その背中には虫の様な薄羽が生えていて、キラキラとした鱗粉を撒きながらとんでいる。
「そなたかえ? 我をイバラの呪縛から解き放ってくれたのは? 我は風の精霊シルフィ。風の精霊界に来るとよい」
お姫様……風の精霊シルフィはそう告げると、消え去った。そしてその跡地には渦巻き型転移ポーターが出来ていた。
「やった…… 凄いですお爺さん! お姫様が開放されましたよ! 彼女が風の精霊様だったのですね!」
「ほっほ~、渡りに船じゃのぉ〜。ほな風の精霊界に行こうかのぉ」
「え、と? お爺さんはその場所に心当たりが?」
「ん? この渦巻きに入ればエエんじゃないんかの?」
「渦巻き? 転移ポーターの事ですかね? そこにあるのですか? 私には見えませんけど」
「あるぞい」
「う〜ん。やはりコレは何らかのチェーンクエストかも知れませんね。私はお爺さんにここだけ付き合っただけなので、フラグが開放されて無いのでしょう。私はここでお待ちしておりますので、行ってらっしゃって下さい」
「ちぇーん? よくわからんけど行ってくるわい
。すまんけど待っちょってくれ」
「はい。行ってらっしゃい」
転移ポーターに入るジジイを笑顔で手を振って見送るソフィー。その心境は。
なになになになんなのチェーンクエストってもう訳がわかりません水とか風とか精霊とかお姫様が羽生えるとか情報過多情報過多情報過多考えるな考えるな考えるな…………無理ぃぃぃぃぃっ!!
ちょっとぶっ壊れ始めていた。




