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「うんでーねちゃん、きたぞーい」
「あらお爺ちゃん、いらっしゃい」
ジジイはイベント後、頻繁にウンディーネの下にやって来ていた。草原エリアのダンジョンならサクサク進めるので苦にならないのだろう。
「今日の土産は水菓子セットじゃよ〜」
「フフフ、いつもありがとうね」
そして来る度に何かしらの手土産を渡している。ウンディーネの好物が果物であると知ると、森林の街で店売りされてる果物を買い漁っては貢いでいるのだ。
なぜジジイがそこまで貢ぐのか? 精霊様への献身的な信仰心とかだったら良いのだが、もちろん違う。
「お返しにお爺ちゃんにコレあげるわね」
【水の精霊酒】
酒である。
「うひょー! 酒じゃー!」
ゲームの中で酒が飲めるとは思ってもみなかったジジイ。そりゃ足繁く通い詰めるわけである。
このゲームはもちろんしっかりと味覚はある。そしてしっかり酔いもする。ほろ酔いから酩酊、泥酔に至るまで網羅している。
因みにこの【水の精霊酒】、結構なレアアイテムでその効果は30分間火属性ダメージ無効と、べらぼうな一品である。
「ぶは〜いっ!! きくぜぇ〜っ」
この様に貰った尻から飲んで良いような物では本来無い。
「あのお爺ちゃん。今日はお爺ちゃんにお願いがあるのだけどいいかしら?」
ジジイがご機嫌に精霊酒を煽っていると、少し困り顔でウンディーネが話掛けてきた。
「げふ〜い。なんじゃろか〜」
精霊様にゲップをしながら応えるジジイ。失礼極まりない。
「私のお友達に風の精霊のシルフィちゃんているのだけどね、その娘から【精霊石】を貰って来て欲しいの。私はここから動け無いから、頼めるかしら?」
「そんなもんお安い御用じゃわいなぁ〜。任さんか〜……げふ〜い」
返す返すも失礼極まりないジジイであった。
ウンディーネからの依頼を受けたジジイ。あいも変わらずの安請け合いのせいで難儀している。そもそも風の精霊が居るのは森林エリアの何処かと言う、何とも大雑把な情報のみしか貰えていないのだ。簡単に森林エリアと言われてもいささか広い。適当に歩いてはみたが到底精霊の居場所には辿り着けなかった。
「コレは困ったのぅ。そうじゃ、美人の親方にでも聞いてみるかのー」
というわけで森林エリアの工房まで来てみたのだが、
「ん~~、ごめんなさいねぇ。風の精霊様の居場所かぁ、ちょっとわからないわねぇ」
「ほーかぁ、わからんかぁ」
精霊の情報は掴め無かった。他のNPCに聞いてみたりもしたが、応えは同じだ。
さてどうしたものかとトボトボ歩いていると、そんなジジイに声を掛ける者がいた。
「お爺さんではありませんか! 今日は森林エリアを散策ですか?」
「お! 江藤さんかいな。散策ちゅうか…… ほうじゃ! 江藤さん風の精霊様の居場所知らんかの? 森林エリアにおるらしいんじゃが」
「風の精霊様ですか…… すみません、ちょっと存じ上げません」
ソフィーはしばし思案したものの、記憶には無い。おそらくジジイが何がしかのクエストを受けているとは思うのだが、風の精霊のクエストなど聞いた事もなかった。
「力になれなくて申し分御座いません。森林エリアでしたらイバラのお姫様の居場所くらいしか」
「おろ? イバラのお姫様とはなんじゃらほい?」
「あ、と。ご存知ありませんか? イバラに包まれたお姫様がいらっしゃいまして。ただ、そのお姫様をイバラから開放する手立てが見付かっていないのです」
「そりゃ可哀想なお姫様じゃのぉ。精霊様は一旦置いといて、そのお姫様助けたろかい。江藤さん、案内してくれんかの?」
「さすがお爺さん! お優しいです。もちろん喜んで案内しますね」
まったく精霊様とは関係無い事に首を突っ込むジジイ。フットワークだけは無駄に軽い。
ソフィーも特に用事も無かった為、さっそく2人で現地へと赴く。道中の敵はソフィーが端から即殺している。江藤とかふざけた呼ばれ方をしてはいても、掛け値なしのトップランカーの実力なら、森林エリアの敵など物の数ではない。そして森林エリアをしばし進めば。
「お爺さん少しよろしいですか。お姫様はこの先のイバラゾーンの最奥に居ます。ただ、このイバラゾーンは地形ダメージを……」
「この先かいうひょー!!」
「ええっ!? ちょっとお爺さんそんなダッシュしたらダメージが!!」
ジジイを舐めてはいけない。当然最後まで話は聞かずにダメージゾーンを猛ダッシュだ。そしてもちろん。
「あはぁ〜っ!」
HPバーは砕け散った。




