※少年と鎧イノシシ
『ーーー』
「うん?」
「どうかしたの?」
フレイク達が魔の森を進んでいると、突然フレイクが足を止めた。そして周囲を見回し始めた。
「いや、今何か聞こえなかったか?」
「何かっていうと、この助けてって声のこと?」
フレイクの確認にアストは上の方に人差し指を突き立てながらそう確認した。
「助けてって…、何聞こえてるのに無視してるんだよ!すぐに助けに行こうぜ!」
「えー、行くの」
「行くに決まってるだろ!逆になんで行かないんだよ!」
「単純に自己責任だからかな?今この森って警戒令の真っ只中なんだよ。そこで危ない目にあっていても自分のせいじゃん。魔の森なんてもともと危ないのに、さらに危ないことがわかりきっているんだからさぁ」
「いや、それはそうかもしれないけど冷めすぎだろ!助けを求めてるんだから助けようぜ!」
「まぁ、フレイクがそれを望むんなら僕は別に構わないけど…」
「それでどっちにいるんだ」
「あっちだね」
アストは少しの間周囲を見た後、向かっていた方から右に逸れた方を指差した。
「あっちだな」
それを見たフレイクはダッシュでその方向に向かって行った。
「やれやれ」
アストはフレイクの背中を見送ると、すぐにその場から姿を消した。
ドオォォォォーン!!!! ドカッ!ベキッ!ボキッ!
「あれか!」
フレイクがアストに言われた方向に駆けていると、進路方向から何かが激突する音や砕けるような音。そして複数の何かがドタバタ走り回る音がだんだんフレイクの耳にもはっきりと聞こえてきた。
やがてフレイクが音の正体を目視出来る辺りまで来ると、そこには二つの姿があった。
一人は木々の合間を助けてと叫びながら全力疾走している革鎧を着けた白髪の少年。もう一匹はその少年を木々を吹き飛ばしながら追いかけ回している鈍色の大きな猪。
「そうみたいだね。片方は冒険者ギルドのタグを付けているから冒険者で、それを追いかけている猪は僕達が捜していた鎧イノシシだね」
「うおっ!?」
フレイクが二つの姿を確認していると、背後からアストが二つの正体を考察してきてフレイクは驚いて後ろを振り返った。
「驚かせるなよ」
「ごめん。で、本当に助けるつもりなの?」
「当たり前だろ!」
「でも彼って冒険者でしょ?元々の獲物かは知らないけど、鎧イノシシにちょっかいを出して追いかけられているのならたんなる自業自得だよ」
「その場合ならそうかもしれないが、違う場合もあるだろ?」
「あるかもしれないけど冒険者な時点で助ける必要はなくない?どっちみち危ないことをする職を選択してこの森に来ているのは彼の方なんだし」
「それでも放っておけるか!」
フレイクはそう言うと、腰に下げていた鞘から剣を引き抜いて鎧イノシシの方に向かって行った。
「やれやれ」
アストの方はそれに首を振ったが、フレイクを支援する為に動き出しはした。
「避けろ!」
「!?」
フレイクは走っている鎧イノシシの横方向から一気に接近すると、そのまま鎧イノシシを切り着けた。
「うおっ!?」
しかしフレイクの剣は鎧イノシシの硬い毛に弾かれた。
フレイクは驚いて飛び図去り、鎧イノシシは白髪の少年からフレイクの方に視線を移した。
一方少年はなんとか鎧イノシシとフレイクから距離をとって一息ついた。少年はだいぶ走っていたらしく、その息づかいは立ち止まっても荒く、顔や首からは大量の汗が流れ落ち続けている。
「フレイク!鎧イノシシの攻撃手段はスキルを併用した突進だけだよ!とても早いから回避は必ず横方向にして!後ろに逃げると撥ね飛ばされるよ!」
「わかった!」
アストはフレイク達から離れた場所に陣取ると、そこから大きな声でフレイクに鎧イノシシのことをレクチャーした。
そしてフレイクがそれに頷くと、それを合図とするように鎧イノシシは突進を開始した。
「うおっ!?」
鎧イノシシは駆け出した直後に不自然に急加速し、あっという間にフレイクとの距離を詰めて行った。
フレイクはアストから警告を受けていたのでギリギリだったがなんとか横に飛び退いて鎧イノシシの突進を回避することに成功した。
突進を避けられた鎧イノシシの方はそのまま直進し、フレイクの背後にあった木を何本か粉砕して停止した。その後向きを変えてフレイクをロックオンすると、再びフレイクに向かって突進していった。
フレイクは再び鎧イノシシの攻撃を横に避け、今度はすれ違い時に切り着けたがこちらも再び毛に弾かれて失敗に終わった。
「ちっ!」
「フレイク!鎧イノシシは魔力で体毛を鎧を連想する程に強化している魔物だよ!攻撃は斬撃よりも刺突の方が効くよ!」
「おう!」
フレイクが攻撃が通じなかったことに舌打ちすると、アストは鎧イノシシについてさらなるレクチャーをした。
「来い!」
アストからレクチャーを受けたフレイクは頷くと、鎧イノシシを挑発した。
挑発された鎧イノシシは三度目の突進をフレイクに仕掛け、今度もまたフレイクに横に避けられてかわされた。
そして鎧イノシシはそのまま前進を続け、しかし今回はフレイクが背後から鎧イノシシのことを追いかけた。そしてフレイクは大きくジャンプすると、上空から一気に鎧イノシシに接近してその背中目掛けて剣を突き立てた。
プギィィィー!!?
「うおっ!?こら!暴れるな!」
フレイクが突き立てた剣は今度はその硬い体毛を貫通して傷つけることに成功し、鎧イノシシはフレイクをその背に乗せたまま暴れ始めた。
フレイクは鎧イノシシの毛と刺している剣にしがみついてなんとか振り落とされないようにしているが、鎧イノシシは飛んだり跳ねたりを繰り返してなんとかフレイクを背中から振り落とそうとしている。
「はぁ。まったく世話の焼ける。それ!」
そんな両者の攻防を見ていたアストは一つため息をつくと、鎧イノシシの足元目掛けて魔法を発動させた。
ブギィ?
「おわっ!?」
すると鎧イノシシの足元が一瞬のうちに凍りつき、それに脚を取られた鎧イノシシは滑って横倒しに倒れこみ、フレイクの方は宙に投げ出された。
「よっと!」
「・悪い」
アストは鎧イノシシに近寄ると、そのまま落ちてきたフレイクをふらつくこともなくお姫様だっこでキャッチした。
フレイクは謝るとアストに地面に降ろしてもらい、恥ずかしそうにアストから顔を逸らした。
「それじゃあ今のうちにトドメを刺しちゃいなよ」
「ああ、わかった」
アストに言われたフレイクは凍った地面の上で立とうと足掻いている鎧イノシシに近づくと、剣をその脳天に向かって突き刺した。
それに鎧イノシシから断末魔の悲鳴が上がり、鎧イノシシはそのまま息絶えた。
こうしてフレイク達は鎧イノシシを仕留めることに成功した。
そして二人の視線は危険のなくなった鎧イノシシから逃げていた少年の方に向いた。
少年の方も息が整ってきたらしく、フレイクとアストの方に視線を向けていた。




