※冒険者とは 後編
「次は放浪型について。こっちはフレイクみたいにいろいろな場所を冒険してみたいタイプか、対人的な問題のある人がなることが多いね」
「対人的な問題?」
「単純に人と馴染めないコミュ障。地元で問題を起こして故郷を出ていかざるをえなかった奴。冒険者のグループ、パーティーで問題を抱えて個人活動を選択した人。どちらにせよ放浪型になる人は少数での活動が多いね。まあ、多人数での移動は経費やら食料やらなんやらお金もかかるしね」
「そうなのか」
「ちなみに依頼傾向としては採取や討伐依頼を請けることが多いね。まあ、魔物を討伐出来ないと放浪なんて出来ないし、野宿なんかもするだろうから野草に関する知識なんかは必須だね。さっきも言ったけど、その辺に毒草とか普通に生えてるんだから」
「まあ、そうだな」
「最後に巡回型。これは商隊の護衛なんかで定期的に移動するタイプと、単純に季節ごとなんかに実入りの良い場所に移っているだけのパターンが多いかな?この二つについては今の説明で終わりだね」
「依頼傾向が護衛なんかで固定だからか?」
「うん。とりあえず冒険者のタイプパターンは大まかにこれくらいかな?まあ、個人個人で能力や事情は違うから、パターンに振り分けられない特殊な冒険者もいるんだけどね。それについては物語参照かな?結局物語になるような冒険者って、大半の人が出来ないことを成し遂げた人のことだからね。フレイクが知ってる物語の冒険者達は、みんなユニークというか、個性的な人が多かったでしょ?」
「ああ、まあ、そうだな」
アストに言われて思い出してみると、確かに物語の冒険者達は同じような行動は少なかったな、っとフレイクは思った。
「さて、そろそろ本題。僕が冒険者に否定的な理由について話そうか」
「ああ」
「もうぶっちゃけるけど、冒険者ってリスクとリターンが釣り合ってないんだよ。問題も多ければリスクも酷い。リターンもハイリターンよりローリターンかマイナスの方が多いし」
「あー、具体的には?」
「そうだね?マイナスを上げていくと、まずはフリーランス。自由業で収入が安定しない。冒険者で一攫千金を目指す人は多いけど、結局成功するのは極々一部。まあ、当然だよね。たくさんいる冒険者達で少ない牌を取り合うんだから。少数が牌を取れば残りはまとめて敗者。それまでにつぎ込んだリソースは全てパアッ。直ぐにマイナスいきなんだからさ」
「あー…」
「それに依頼に失敗すると違約金とか必要になるし、依頼主が報酬を払ってくれない場合もある。悪いと嘘の依頼で騙しにくることもあるし」
「えー」
「次に福利厚生が存在しない。魔物なんかと戦う立場なのに怪我や病気、毒なんかの状態異常に対する保証がないし、それらで動けなくなった時の収入の宛もない。冒険者が身を持ち崩す安定のパターンだね。怪我をして戦えなくなる。お金を切り崩す。やがて治療費が払えなくなって怪我が悪化。あるいは喰い詰めて生きる為に奴隷落ち。冒険者のあるあるパターンだね」
「ええー」
「そんでもって社会的立場。冒険者って、高位ならともかく下位って下に見られがちなんだよね。まあ、孤児とか田舎者。貴族の余り者が比率的に大半なせいかもしれないけど」
「貴族の余り者?」
「そうだよ。貴族の家を継げるのは基本的に長男。次男以下はスペア。けれど結局継げるのは一人だけだから、残りの兄弟は貴族から平民落ち。貴族に戻る為には功績というか成果がいるけど、普通の職じゃあそんなのは無理。だから冒険者で一旗上げようとするわけ。高位の冒険者なら国の戦力として召し抱えられて貴族になることは普通にあるからね。まあ、それでもやっぱりあまり現実的じゃないね」
「あー」
「話しを戻して、冒険者って社会的地位が低いし後ろ楯がいるのも稀だから使い捨てにされやすいんだよね」
「使い捨て!?誰にだよ!」
「国とか貴族?商人なんかもそうかな?いわゆる社会的立場が高い連中に利用されやすいんだよね。報復とかあまり恐れる必要がないし、揉み消しとかわりと簡単に出来るから」
「おいおい…」
「残念ながら現実なんてそんなものだよ。だから言ったでしょ、冒険者っていうのは夢と憧れを裏切る職業だって…」
「・・・」
さすがにここまで並べ立てられるとフレイクも冒険者のことをどうかと思った。
「別に冒険がしたいだけなら冒険者になんてならなくても良いじゃない。旅人なんかでも普通に出来るよ。冒険者に比べると移動にお金や審査の時間がかかるけど、リスクよりは安全だよ。別にフレイク、冒険にリスクを求めているわけじゃないんでしょ?」
「そりゃあ、まあ、俺が冒険に求めているのは未知やワクワクだけど…」
「なら冒険者にこだわらなくて良いじゃない。やろうと思えば冒険なんてどんな職業でも出来るんだからさぁ」
「あぁ、うん。そうだよな」
フレイクはアストの言葉に頷いた。
ここまで言われて説得されると、意地とかをはる気も起きなかった。
「うーん…」
「どうした?」
「一応まだ冒険者のマイナス要素があるんだけど、もうフレイクは説得出来たからどうしようかなぁって…」
「マイナス要素まだあるのかよ!多すぎだろ!」
「確かに多いよね」
「・・・ここまで聞いたんだから最後まで教えてくれるか」
「うん、わかった。なら残りは二つかな。この二つは冒険者じゃなくて旅人でも関係あることだね」
「そうなのか?」
「うん。一つは疫病や風土病。異なる地域に行ったりアンデットなんかと戦う冒険者なんかはこれのリスクからは逃れられない。ちゃんと対策をしておかないと多数の他人も巻き込んであちこちに甚大な被害を出すことになる。地域によっては村ごと火炙りにされた例も実際にあるんだよ」
「うげっ」
フレイクは顔をしかめた。
「最後は人的トラブル。いろんな場所を移動するとそれだけ人と縁が出来る。だけど一つの良縁が複数の悪縁を結ぶことがあるし、その逆もまたある。対価の時にも言ったけど、誰かの愛しい人は誰かの憎い人であり、誰かの敵は誰かの味方である。何かを利するものは何かを害しており、何かを傷つけるものは逆に何かを守っているものでもある。全てに表と裏があり、一面だけのものなんて存在しない。だから人との縁はトラブルと同義だよ」
「言わんとすることはなんとなくわかるが、具体的にはどうなんだ?」
「そうだねぇ?過去の例を上げるなら、ある冒険者がある街にいる時に隣の街と紛争が起きました。冒険者はいた街の側で紛争に参加し、やがて紛争は終わりました。やがて冒険者は依頼で紛争先の街で行くことになり、行った先で石を投げつけられました」
「!?その冒険者はなんで石を投げつけられたんだ?」
「冒険者に石を投げつけたのは紛争中に冒険者が殺した兵士の遺族でした。その時の冒険者にとっては敵であっても、遺族にとっては当たり前の家族だったのです。まあ、当たり前のことだよね。大抵の場合自分の交遊関係と同じくらいの縁は相手にもあるものなんだから」
「まあ、たしかに当たり前だよな」
「他にも例はあるけど、結局人間関係は複雑だという結論に落ち着くね。だから人間関係はシンプルにしておくことがオススメだね。世の中嫉妬やら逆恨みやら、陰謀やら、自分が何もしていなくても巻き込まれることも多いんだ。わざわざ面倒ごとの種を抱え込むことはないよ」
「・・・」
なぜかやたら実感の込められているアストの言葉をフレイクは不思議に思った。アストとは拾われた時からずっと一緒にいるが、アストがこんな実感を持つようなことがあっただろうか?いつも一緒にいたフレイクには心当たりがまるで思いつかなかった。




