第玖壱話 Crow
カラスは弾丸のように、化け物の頭に突き刺さると、そのまま、中に潜り込んでしまった。
すると、すぐに化け物の目が開く。体を動かさず、眼だけを動かしてこちらを見つけた。ゆっくりと立ち上がり、さっきまで無かった翼を広げる。化け物は巨大なカラスへと、姿を変えていたのだ。
「でっかいねえ。そんな図体で飛べるの?」
福子が言う。
ブワッ!!ゴォォォォォォォォォォォッ!!
バリバリバリバリ!!
それに答えるかのように、カラスがその場で羽ばたいた。突風が巻き起こり、直撃を食らった家屋が吹き飛んだ。
「うわっ、あれを食らったらたまらないねえ。」
そういう福子に危機感は感じない。
カラスはゆっくりとこちらに向き直ると、再び羽を伸ばす。福子は右に、小杖は左にそれぞれ避ける。
俺?俺はそんなに早く動けないって言ったろ。
ゴウっ!!
突風が襲ってくる。
間一髪、地下に潜って難を逃れた。風が武器ならこのまま地下から接近するまでだ。
「ダメっ!!すぐに出てきて!!」
小杖が珍しく、大声で言う。前に進みかけていたが、その声に従って地上に戻ると、
ガスッ!!
俺の前方にクチバシを突き刺して地面から何かを穿り出す巨大カラスの姿があった。ほじくり出されたのは悪茄子だ。『あいつ』が、俺に対抗するために、仕込んでいた奴だろう。
カラスは平気でそれを飲み込んだ。まるで、俺の毒や粘液では倒せないと言わんばかりに。
しかし、地下からの接近が極めて難しいのはよく分かった。正直、この広場では攻め手が無い。次の手を打ちあぐねていると、小杖が俺の前に立ちはだかい、
「動かないで。私に任せて。」
と言うと、スタンスを大きく取り、金剛杖を左の腰に据え、居合い抜きの構えを取った。
「そんな仕込み杖じゃ無理・・・・えっ!!」
真っ直ぐだったはずの金剛杖が反っている。太さも簡単に折れそうだった細身から、明らかに居合い刀のそれに姿を変えていた。
「イグジストはね、物にも宿るんだよ。」
落ち着いたトーンで小杖が言う。
大ガラスは三度、羽を広げる。首を目一杯伸ばし、完全にこちらを凝視している。
「福子は隠れてろ!!」
「やだよ。私も行く!!」
まずい。突風の攻撃範囲内に福子が入って来てしまう。
咄嗟に弦を伸ばして福子の腕に絡みつけ、引き寄せる。しかし、今の俺は悪茄子だ。体重が俺の方が軽い。引き寄せるどころか、俺が前のめりに倒れてしまった。
ゴウッ!!
シュバッ!!
キィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
もの凄い風の音で、俺達は吹き飛ばされるのを覚悟していたのだが、耳をつんざく高い音が響き渡り、結局、風はほとんど来なかった。
起き上がって大ガラスの方を見ると、首を切り落とされ、倒れていくところだった。
そして、斜に向い直立した小杖が、スッと静かに納刀しているのが見えた。
「鳥の首は細いもの。」
呟くように小杖が言ったのが、かろうじて聞こえた。




