第漆陸話 Bitter Smile
「探す必要はありませんよ。ずっと傍におりましたから。」
誠も偽者だったのか。傷はすぐに治るとは言え、痛みは変わらず感じるのだった。
「小賢しく、かまをかけたりするから、こんな事になるんですよ。
随分と偉そうな口をこの私にきいてくれましたが、そもそも、あなたごときとはレベルが違うのです。」
よくしゃべる奴だ。やはり、承認欲求は異常に強そうだ。
ジュクジュクジュクジュク
俺の体を貫いた牙から泡が出ている。俺は牙の先端を掴んで思いっきり体重をかけた。
ボキッ!!
牙が俺の体の中で折れた。内臓を抉られる、強烈な痛みに襲われる。しかし、すぐに前へと歩いて根元を抜くと、残った先端部分も引き抜いた。
「面白いですねえ。とても痛かったんじゃないですか?
しかし、その粘液はこの牙をも溶かすんですね。興味深い事です。」
偽誠が、さして興味もなさそうに言う。
だが、今は相手をしている暇はない。激痛の走る腹を押さえて、この場を離れる。
「どこへ行くと言うのです?この閉ざされた世界で。どこへ逃げようと無駄ですよ!」
誠は追ってこない。
あの場所には俺の粘液が落ちていた。迂闊に動けば、接触するかもしれないのに、流石に狡猾だ。
俺は、折った牙を持って逃げている。牙は粘液に溶かされて脆くなった為に折る事が出来たようだ。弧を描く内側の部分は刃になっており、先端で突き刺して、刃で切り裂くようだ。
牙で貫かれたとき、少し偽誠の事がわかったのだが、完全に偽物というわけではなさそうだった。やはり、喋っている男に操られているようだ。
1人で20人近い人間をどうやって操っているのかはまだ分からないが、普通に考えればそれほど深く支配しているわけではないだろう。少なくとも、意識のあるものを自在に操れるわけではなさそうだ。
「おーい。でておいで。仲直りしよう。」
偽礼次の声だ。
「どうせ、戻れないんだ。痛い思いをする必要なんかないじゃないか。」
別の男の声がする。
「お兄ちゃん。一緒に遊ぼう!妹も、新しい遊び相手ができるって、喜んでるんだ!」
今度は子供の声だ。
全員、口々に懐柔しようとしてくるが、まるで、RPGに出てくる街の人のように、同じ言葉を繰り返す。
その間に、俺は森の端に出て来ていた。森の外を見張っているのは2人だけのようだ。
俺は見つからないよう、大木の陰に隠れ、足の裏から根を地面に伸ばすと、そこから地下茎を村の中心方向へ伸ばし、自分も地下茎に同化して地面のなかをニョロニョロと進んで行った。
俺が立っていた場所には、小さな草が1本生えている。何かあれば、いつでもこちらで人型に戻れるように。牙も近くに置いた。
『まったく・・・。これでも人間と言えるのかよ。』
口が無いので呟けないが、心の中で苦笑いし、人間らしさが残っている事を確認するのだった。




