第漆壱話 Shake hands
ぽっかりと、大きな穴があいた。板張りの床は広い範囲で吹き飛び、土の地面がむき出しになっている。
ただ、穴なのに地面がある。半透明で向こう側が透けて見える。クロノスの眼を使わなくても、この穴からなら向う側を覗く事ができた。
それだけでも随分と奇妙な光景なのだが、その半透明の穴の中央部に、人の足型に完全な穴が開いているのが、奇妙を通り越して滑稽ですたあった。
「ずっと、ワシの足を突っこんでいたもんだから、塞がらなくなっちまった。まるで、ピアスの穴だな。」
何かを突っこんでいないと、この穴は塞がってしまうのか。と言う事は、
「では、あなたがずっと立ち続けた理由は、穴から化け物を出さない為ではなく、いつか、向こう側にいる人達を救い出す為に、穴が閉じないようにする為だったのですね。」
「まあ、そういう事になるな!」
まったく、なんて責任感だ。呆れるほど尊敬できる人間に出会えて、本当に良かったと思う。
首領の10年を無駄にしない為にも、全員を救出して来ないとな。
俺は直径1mほどはあろうかという半透明の穴に歩み寄る。
「正直、期待している。だが、無理はするな。誰もお前の死を望んではいない。
このトロメキの人間なら、お前を犠牲にして助かろうなどと考える者はいない。」
「そう言われれば、なおさら、全員助けたくなりますね。」
そう答えて、右手を差し出す。
「やっぱり生意気な小僧だな。」
と、首領は笑って握手に応じた。
俺の緑の手を、首領の真っ白でデカい手ががっしりと掴む。
「お互い、エラい姿になっちまったな。」
2人で思わず顔を見あわせて笑ってしまった。
「では、行ってきます。」
「待て、一つ言っておく事がある。」
首領は真剣な顔で語り始めた。
「ワシに分かる事はコレで全部だ。」
話が終わった。
俺は少し考え込む。俺の願いは全員の救出だ。そこに変わりはないのだが、少し、計画を変更する必要がありそうだ。
俺からも首領に話をする。
「わかった。お前の合図を待てばいいのだな。」
「予想通りに事が進むとは思えませんが、そのときはお願いします。」
「間違いなく実行する。」
あらためて穴を見る。不思議な光景だ。床に置いた鏡を見ているようでもあるが、そこに自分の姿は無く、妙に色褪せている。
これが、あいつの言っていた虚数時空間だろうか。
「では。」
「ああ。」
もう、多くの言葉は必要無かった。
俺は半透明の穴に足を踏み入れた。




