第肆玖話 Determination
俺はヤドリギに寄生された痛みで、意識を失いかけていた。
ヤドリギの根が俺の首筋の内側を、脳に向って伸びていくのを感じる。
いっそ、このまま支配されてしまえば楽になれるのに。
恐らく妖樹もヤドリギが駆逐してくれるだろう。
もう無理をする必要は無い。
ヤドリギに身を任せてしまえ。
言い訳が理性のフリをして、俺を説得してくる。騙すのも騙されるのも俺なのだ。こんな受け入れやすい話はない。
しかし、首領は10年も立ち続けていたのだ。それに比べれば俺の苦痛など一瞬にすら満たないものだ。
助けを求めようとすれば出来たはずだ。番外の連中の力なら、妖樹を駆逐することなど容易いものだろう。だが、首領はそれをしなかった。そこには理由があり、意地があるはずなのだ。
こんなところで諦めるようなら、学派の定理を覆すなど夢のまた夢。そんな事なら、さっさと番外に屈していればよかったのだ。あの2人を差し出して。
でも後戻りはできない、戻るつもりもない。理性を意地で押しのけて、自分の意思で戦い続ける決意を固める。
しかし、さすがに水分を奪われすぎた。肌はすでに樹皮のように乾燥している。今、意識を保てているのは、皮肉にもヤドリギが宿主を死なせないよう、生命を維持しているからに他ならなかった。
ボン!!!
突然、首領の気が爆発的に増大するのを感じた。なんという力だ。しかし、明らかにその後、力が落ちている。
加勢するなら今だ。ぐずぐずしていれば手遅れになる。しかし、結界の中から、ヤドリギを外に伸ばす事はできなかった。結界に守られているというより、檻に閉じ込められているようだ。
「眼を開くの!」
頭の中に声が響く。
誰だかわからない。
でも、とても聞きたかった声。
眼を開く?
それはできない。
すでに、瞼を動かす自由は、ヤドリギに奪われてしまった。
「そうじゃない。
もう一つの眼の事。
あの時、私を見つけて捕まえてくれたあの眼の事。」
もう一つの眼?
見つけて捕まえた?
誰を?
「見えるはず。
初めて見るのに、懐かしい景色が。
時空の壁を越えてそこに実存する人々が!」
すると、俺は瞼の中にもう一つの瞼があることに気付く。その瞼は自分の意思で動かせそうだ。肉体ではなく、魂の瞼だと思った。
それを開けと言うのか。開けば視えるんだな。
「そう。それがクロノスの眼。
真実を見抜く、特別な力。
その力で、みんなを助けてあげて!」
そして、声が聞こえなくなった。
俺は魂の瞼をそっと開く。すると、4体の人型に囲まれている首領が視えた。
しかし、その4体は全て俺自身にみえた。空っぽの自分。ただの入れ物。もしかして・・・・
首領が気を放出し始める。もう一度、さっきの奴をやるつもりだ。
人型たちが攻撃態勢を取る。時間が無い。
一番首領から遠い、後ろ側の奴目掛けて、自分の実存を投げ出した。




