第肆漆話 Yocto
「す、凄い・・・」
陣があっけに取られていた。
「首領様の奥義。『涅槃寂静』です。」
玄爺が答える。
「あれがそうなのか。はじめてみたぞ。」
「全開に放出した気を、極短時間で完全に止めると、通常ではありえない強さの反流が一瞬だけ発生するのです。
口で言うのは簡単ですが、あんな真似ができるのは首領様ぐらいでしょう。」
「そんなに強い気を放出して大丈夫なのか?」
「ほんの一瞬に力が凝縮されていますので、気の消耗はほとんどありません。発生する逆陽の気も密度が非常に高いため、あれほどの虫の大群を消し去っても、反作用はほとんど受けていないはずです。」
「じゃあ、あれを連発していれば、気の消耗も最小限で済むって事だな。」
「残念ながら、それはできません。」
「どうしてだ?」
「体内の気の通り道を経絡と言います。経絡の太さによって、一度に流せる気の量には限界があるのです。」
「じゃあ、一瞬でもさっきみたいな力を出せば・・・。」
「普通の人間なら経絡が破れ、全身から血を吹き出すかもしれませんなあ。」
「父上はなぜ平気なんだ?」
「長年、経絡を広げる鍛錬を積んでおられるからです。とは言え、平気なのではありません。かなりやせ我慢をしておられるはずです。それほど涅槃寂静は、経絡への負担が尋常ではないのです。連続で使えるどころか、一度使えば普通の気の流れでさえ激痛を感じているはずです。」
首領は冷や汗一つかいていなかった。
虫は一掃したが、再び穴から這い出してくる事は明らかだった。今のうちに人型を潰しておきたい。しかし、玄爺の予想は当たっていた。全身に激痛が走っていたのだ。
首領は、ふうっと大きく息を吐くと、ゆっくりと逆陽の気を沈め、眼を閉じた。結界がなくなり、完全に無防備な状態だ。
パーーーーーーーーーーーン!
悪茄子の実が一つ弾ける。
複数のタネが首領目掛けて飛んできたが、体に当たるコースに飛んできたものだけを、こぶしの甲で払うようにコース逸らせた。眼を瞑ったまま。
首領は、かっと眼を見開くと、右後方にいた人型向けて走り出す。
ビュン!ビュビュン!!
パパパーーーーーーーーーン!
人型の手から伸びる弦が襲い、近くにあった実が炸裂するが、首領はほぼ生身のままで、全ての攻撃をいなし、一気に人型の懐に飛び込む。人型は弦を槍のように突き出して、首領を貫こうとするが、これを回転してかわしざまに、後ろ回し蹴りを頭部に叩き込んだのだった。
いとも簡単に人型の頭がちぎれて吹っ飛び、玄爺の結界壁にぶつかって燃え上がった。残された体はあっという間に枯れ落ちたのだった。




