第肆陸話 Arcane
人型はあと5体いる。だが、放っておけばいくらでも増えるだろう。
首領は別の人型に狙いをつけると、その場でアッパーカットのようにこぶしを振るう。すると、熱風を纏った気が一直線に人型へと放出された。
しかし、標的の人型は、すぐに足元の葉に隠れてしまう。首領の飛ばした気は、結局、多少の葉を焼き、実を炸裂させた後、玄爺の結界に吸い込まれた。
「むう。こいつはやりにくい。」
思わず、首領が唸る。先ほどまでとは明らかに違い、悪茄子が効率よく動き始めていた。
ここぞとばかりに、悪茄子の茎にくっついていたテントウムシ達が、一斉に飛び上がる。
首領はさきほどと同様に、アッパーカットで気を飛ばすが、見事な編隊飛行で直撃を回避される。完全に統制の取れた動きを見せていた。
首領の気は流れる方向を反転させた『逆陽の気』という状態だ。これで陰の気と戦う場合は、遍路同士の戦いのように、結界密度の高い部分を、低い部分にぶつけることで、ダメージを最小に抑えられる反面、隙をつかれると大ダメージを負う事もある。
さらに、逆陽の気は肉体の構造を強引に無視して逆流を作るため、熟練者でも本来の半分程度の力しか出せないのだった。
こんな状態で、四方八方から攻撃を受ければ、一瞬で命を落とすのは自明の理だった。
テントウムシの大群は明らかにそれを理解した様子だった。首領の周りをグルグルと回り始め、やがて、群れの頭が最後尾に追いつき、ドーナツ状の隊形を取る。しばらく、そのまま旋回を続け、首領にプレッシャーをかけていたようだった。
すると、首領はなぜか逆陽の結界を解き、気の流れを元に戻すと、持てる力の全てを搾り出すように、体に纏わせた。首領の力はさすがに凄まじいものだが、これでは相手の攻撃をまともに受けてしまう。まるで背水の陣だが、無限に沸き続ける敵に対して、自殺行為にも等しい行為に見えた。
テントウムシはこの気を逃さず、一気に包囲の輪を縮め、首領に全方位から一斉に襲い掛かった。当然、人型からの指示だろう。
ボンッ!
ジジジジジジジジジジジジッ!!
しかし、首領を捕らえる直前、一瞬にして全てのテントウムシが燃え上がり、灰になって消し飛んだのだった。
「上手くいったな。」
首領が安堵の声を漏らすと、再び逆陽の結界を張ったのだった。




