第肆伍話 Copy
俺は俺で、内なる戦いの最中だった。ヤドリギは俺の体内で、刻々と根を広げていく。
特に脳はいち早く支配下に置こうと、真っ先に根を伸ばしてくる。脳を支配されれば、もう元には戻れない。俺は植物の操作能力を使い、それを阻止する。
左腕から首に向って伸びる根を、下へ下へと押しやっていく。しかし、内臓も避けなければならない。俺が死ねば、ヤドリギは俺の死体を支配できるので結果的には同じなのだ。
ただ、このまま時間が過ぎても俺は死ぬ。いずれ、水分を吸い尽くされてしまうからだ。
爆発的な力を得る代償としては、それでも安いのだろう。
ヤドリギのタネは、普段の俺の力では発動できない。使い方も教えられてはいない。ただ、子供の頃から肌身離さず身に付けている。そのように教えられたのだ。誰に言われたかは忘れてしまったが。
ただ、久しぶりにその人の声を聞いた気がした。
「おい!まだ意識はあるか!?」
首領の声だ。随分、近くから聞こえるが、姿は視えない。というか、俺の目が視えていないのだ。
「・・・・ああ・・・。」
声を出すのも精一杯だった。
「意識があればいい。少しだけ持ちこたえろ!」
首領は無事、結界を通過すると、全身の気の流れを左回りに統一する。本来、陽と陰の気は引き寄せあって、打ち消しあうのだが、陽の気を反転させることで反発するようになる。
パーーーーーン! パ・パーーーーーーーーーン!!
悪茄子の実の破裂は、断続的に、少しずつ間隔を縮めながら続いている。さながら、加熱したポップコーンが開き始める時のようだ。やがて、一気にまとめて破裂するのかもしれない。
「絶対にその結界から出るなよ!
今こいつにまで寄生されたら、一瞬で傀儡にされるからな!!」
悪茄子の種は、新たな株に成長するだけでなく、動物に寄生して体を乗っ取る事もできる。
近隣は地下茎で。少し離れたところはタネを飛ばして。そして、さらに遠くへは動物を操って繁殖域を爆発的に広げられると言うわけだ。
こんなもの。結界から外に出したら、どれだけ被害が出ることだろう。
「行くぞ、玄爺!」
「はい。」
玄爺が歯を食いしばる。
首領は体の前方に結界強度を集中させると、部屋の右隅の方へ真っ直ぐに走り出した。
首領の結界に触れた悪茄子の葉や茎は一瞬で燃え上がったが、実は当たる直前に破裂した。
バン・ババババン・バババババババババン。
一気に何十という実が破裂し、玄爺の結界にタネが撃ち込まれる。
「ウグッ!!」
玄爺から、苦しげな呻き声が漏れる。
首領は部屋の隅でひそかに成長していた不気味な人型の株を目掛けて走りこみ、その頭部らしき部分に振り上げた足の裏を叩き込んだ。さながら、チンピラのケンカのような蹴りだ。
人型は咄嗟に首領の足に噛み付いて反撃しようとしたが、あっという間に燃え上がった。
首領はその緑色の顔を見て呻く。
「こいつをコピーされていたのか・・・」
すると、部屋のあちこちで、床を覆っていた葉の下から、同じ人型がいくつも、むくっと立ち上がった。
人型の腕は弦状になっており、鞭のようにふり回してきた。今までの悪茄子の動きとは、全く違う速さだった。
「木属性を獲得したか。こいつは厄介だ。」
首領は思わず固唾を飲んだ。




