第肆参話 Mistletoe
我に返ったとき、結界部屋の中はほとんど悪茄子で多い尽くされていた。そして、一本の地下茎が俺の右足に突き刺さり、体内に伸びて根を張っている。
テントウムシは俺の体の至る所にへばりついて、血を貪っていた。
頭がクラクラする。血が足りなくなってきているのか、それとも、精神攻撃のせいだろうか。
「おい。まだ動けるか?」
首領の声だ。
「無理なら結界内に火を放つ。覚悟を決めろ。」
「ふざけんな!俺が助けに行く!!」
陣がわめいている。
「では、お前も一緒に焼け死ね。」
冷たく首領が言い放つ。
「上等だ!あいつ一人だけを死なせるわけにはいかん!!
玄爺、結界を開け!!」
「よろしいのですか?」
「構わん。」
「開けろ!!」
「ダ・・・ダ・メ・・・・・だ・・・・・」
もう、情けない声しか出なかった。しかし、あいつを道連れにはできない。
死を覚悟した。そして、最後の仕掛けを発動する。
「は・・・・・は・つ・・が・・・・・・」
俺の左手首に巻きつけていたテーピングを突き破り、木の枝が生えた。同時に木の根が俺の手首の皮膚を突き破り、骨に絡みつく。俺の血を吸い上げて、枝は一気に広がり、根も脳に向って体の中を猛スピードで伸びていく。
手首に仕込んでいたのは、ヤドリギの種だ。発芽させることで、俺に寄生するように準備していた。もし、俺が死んだとしても、ヤドリギが脳を乗っ取り、俺の体を操作して戦える。
俺の血を貪っていたテントウムシは、ボロボロと落ちていく。ヤドリギが、自分以外のものに宿主が寄生されないよう、毒を出しているのだ。
俺の体に、ヤドリギの魔力が満ちていく。体の力は抜けていくが、代わりに全身に行き渡ったヤドリギの根が、骨となり、筋肉となり、俺の体を勝手に動かす。右足も、寄生した悪茄子の根を引き千切りながら動いていた。
握り締めていたナタで、ヤドリギの枝を3本切り取ばす。切り口が鋭角になるように。すると、3本の枝は、何かに導かれるように、結界部屋の中央付近で、正三角形の頂点の位置に突き刺さった。
俺の脚が、勝手にその正三角形の中央目掛けて歩き出す。悪茄子がそれを阻止するよう、鋭い棘が無数についた茎を、俺に叩きつけてくる。しかし、右手が勝手に動き、ナタでいとも簡単に切り払った。
俺が中心に来ると、正三角形が光り始め、その光が垂直に立ち上り、魔力の結界が発動した。
俺を追ってきた悪茄子の茎は、結界に触れると、一瞬にして枯れ、燃え上がった。右足に食い込んでいた根も崩れていくのを感じた。
「あんな力を隠し持っていたのか・・・」
陣があっけにとられる。
「よく見ておけ。あれは、命と引き換えの術だ。命にはそれだけの力がある。」
「それを教えるために、こんな無茶をさせたのですか?」
「まさか!あんなやばい奴だとは全然聞いてないからな。」
それを聞いて陣が非常に驚く。
「父上が見てヤバい奴なんてこの世にいたんですか!」
「当たり前だ。そんなのゴロゴロいるぞ。」
玄爺が口を挟む。
「西洋の術式ですな。」
「らしいな。修験道に偽装していたようだが。」
「俺と戦った時は、印を結んでいました。」
「実際に修験道もある程度使えるんだろう。だが、ネイティブは魔術の方だったようだ。
ただ、魔術を使うためには、生まれてすぐにイニシエーションの儀式を受ける必要があるはずだ。
適正が無ければ、直ちに赤ん坊が死んでしまうほど危険な儀式を。」
ヤドリギの根はさらに俺の全身に食い込み、俺から奪った力で、生き生きと緑を茂らせていた。




