第参玖話 Lady Bug
穴から、一本の草が伸びていた。一見すると普通の草。ぱっと見は朝顔のような、広い葉っぱと、薄紫の五角形をした可愛らしい花が2つ咲いていた。
「最悪じゃねえか。」
俺は思わず呟いてしまう。
よく見ると、葉にも茎にも非常に鋭い棘がいくつも見える。そして、その葉の裏にはびっしりと赤黒くて丸い虫がついているのだった。
最初は全然別の方向を向いていた花だったが、サーチライトのように、向きを一定の速度で変え始める。そして、一つが俺の方を向いて止まると、すぐにもう一つの花も俺の方を向いた。凄く、嫌な予感がする。
だが、意外なほどゆっくりと、穴から別の茎がこちらに伸びてきた。避けるのは簡単だが、狭い結界の中で延々と追いかけられれば、すぐに逃げ場がなくなってしまう。
俺は持って来た鉈で、伸びてきた芽を切り落とした。
せめて、切り飛ばされた先端部分は枯れてくれる事を期待したのだが、落ちた芽の部分から根が生え、茎や葉を伸ばして、独立した株になってしまった。しかし、板の間に根を張る事は出来ず、床の上でうねっている。そして、その根の間から悪名高い地下茎を本体の方へと伸ばし始めたのだった。
これを繋がれると厄介そうだ。俺は急いで地下茎を切断するが、落ちたきれっぱしが次々と新たな株へと成長する。しかし、俺は子株が増殖するのも構わず、地下茎の切断を最優先する。
やがて子株は、俺の周りをほぼ完全に取り囲むまでになっていた。しかし、子株から直接攻撃される事は無く、ひたすら地下茎を親株に伸ばし続けている。
親株の葉についていた赤黒い虫たちは、子株が増えるたびに飛んで行き、新たに生えた葉を食べているようだった。子株の増殖にあわせて、虫も際限なく増え続けていた。
しかし、ふと気付く。子株が徐々に小さくなっている事に。どうやら、水分を失って萎れてきているようだ。新たに増殖した子株も、最初の奴ほど大きくならない。
俺が鉈を振るえば振るうほど、株の数は増えているが、勢いは衰えているようだった。
「行ける!」
俺は子株の分裂を促すため、地下茎だけでなく、葉や茎もバッサバッサと切り飛ばしていった。踏み込んで切りに行ったため、体は棘で引っかかれて、みみず腫れだらけになったが、子株の緑は勢いを失い、ついに葉が枯れ始めたのだった。
そのとき、耳の後ろ辺りにチクッっと痛みを感じる。
パシン!
手で叩くと、なにやら小さな虫を潰したような感覚がする。叩いた手のひらを見ると、潰れたテントウムシと、べったりと血がついているのだった。
ブーン!ブーン!ブーン!
徐々に虫の羽音が大きくなり、無数に部屋中を飛び回っているのが見え始める。これまで、子株の葉を食べていたテントウムシが、葉が枯れたことで別の餌を求めて飛び回り始めたのだ。
そう、次の餌は俺ってことらしい。




