第参捌話 Mission
『俺が死ぬ事が問題ではない』か。
俺なら世界がどうなろうが、目の前の一人を助けてしまうかもしれない。その一人が身近な人ならなおさらだ。福子と小杖も同じだろう。でも、もし、それよりも大事な使命があったとしたら、俺たちはどうすべきなのか?
単純に助かる命の多さを選べば良いというものではない。簡単に命の価値を比べてもいけない。恐らく、あらゆる状況に対応できる『解』など存在しない。いや、あってはならないのではないだろうか。
その上で、目の前の命も、使命も、両方を守りきると言う覚悟が必要なのだ。だから、陣の親父さんは10年眠らず立ち続けている。
「必要な準備というのは、心の準備。もし俺が失敗したら、大変な事になる。その場合、俺は命を捨ててでも、穴を塞がなくてはならない。」
「ですが、あなたでは穴を塞ぐ事は不可能です。あんな真似ができるのは首領お一人。ですから、首領が穴を塞ぐための盾になって頂かなくてはなりません。その場合、あなたの力では命を落とすことになるはずです。」
「盾ですか。私は何から首領を守ればよいのですか?」
「勘違いなさらないで下さい。首領はそのような事態にならないとお考えなのです。」
「と言いますと?」
「死の覚悟はあくまでも、もしもの備えです。本当に必要な準備は、あそこで、何が起こるのかを予想し、それに備える事です。」
何が起こるか?
首領は大結界に穴を開けたって言ってたな。そもそも大結界って何から何を守るためのものなんだ?
大災害の時に起動されて、災害が収まったと言われているが、それなら、平和になるのは大結界の中か外の、どちらかだけになりそうなものだが。
「首領は、どうやって大結界に穴を開けたのですか?」
「見ての通りです。ただ、踏み抜いたのです。」
「なんのために!?そんな真似が人間に可能なのですか?」
「10年ほど前、トロメキ一帯が植物の化け物に襲われたました。妖樹と呼んでいます。妖樹はどこからともなく、陰の気を吸収し続けており、いくら焼き払っても増殖を繰り返して手が付けられなくなっていたのです。
首領とそのお仲間は、あの場所の根が陰の気を吸い上げている事をつきとめ、攻撃を仕掛けましたが、あまりの増殖速度に対抗できず、次々と気を使い果たしていきました。しかしその過程で、化け物の根が大結界に生じたヒビから下に伸びているのに気付きました。
大結界は2重構造で、1枚目は陽の気で構成されています。そこで、首領は残った陽の気を左足に集めて結界を作り、それを、思いっきり大結界のヒビにぶつけて、完全に穴を開け、そこから妖樹を落とし、その穴を自らの結界で埋める事にしたのです。」
陽の気同士の反発を利用して、元々ひび割れていた大結界を割ったのか!
妖樹なんて、今まで聞いたことなかったが、大結界の下から侵略して来たって事か。もしかすると、まだ、結界の向こうで生きているのかも知れない。
首領が足を抜くことで、再び、大結界のこちら側に侵略を開始するって事だろう。それを、昼寝できるくらいの時間、阻止し続けられるかどうかってことだな。
何をすればいいのか、少し具体的に見えてきた。ただ、単純に力押しで俺一人でなんとかなる相手ではなさそうだ。莫大な量の陰の気を持つ相手に、俺の陽の気なんて、無いも同然なのだろう。
なにか、俺の属性を活かした攻撃を見つけなければ、勝機はなさそうだ。
すると、玄爺に聞かれた。
「どのような武器を使うおつもりですか?」
武器か。必要な時は、現地調達の植物を使っているのだが、用意して持ち込めってことだな。




